現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん

文字の大きさ
113 / 241

第113話:勝利の陽だまりと、新たなる盟約

しおりを挟む

#### 夜明けの戦場

夜明け。
昨日の死闘が嘘のように、南方の穀倉地帯には、穏やかな、しかしどこか神聖な静寂が満ちていた。
アークが創り出した『陽だまりの揺り籠』は、その役目を終え、一夜にしてその姿を変えていた。敵兵を分断した巨大な壁は、大地へと還り、その跡には、まるで奇跡の雨が降ったかのように、生命力に満ちた若草が、生き生きと芽吹いている。戦場は、死の匂いではなく、雨上がりの、清浄な土の香りに満ちていた。
それは、アークの力が、破壊ではなく、常に生命の再生へと繋がっていることの、何より雄弁な証明だった。

捕虜となった数千の鉄鷲公国の兵士たちは、その、あまりにも非現実的な光景を前に、ただ、呆然と立ち尽くしていた。
彼らが覚悟していたのは、勝者による無慈悲な処刑か、あるいは屈辱的な奴隷の身分。
だが、彼らに差し出されたのは、剣ではなく、湯気の立つ、温かい麦粥の入った木の椀だった。
「……食え。腹が減っては、故郷にも帰れんだろう」
南方の、昨日まで殺し合っていたはずの兵士たちが、ぶっきらぼうに、しかし、その目に一片の侮蔑もなく、そう告げる。

一人の、まだ若い鉄鷲の兵士が、震える手でその椀を受け取った。彼は、飢えと恐怖で乾ききっていた喉に、その温かい粥を流し込む。
その、瞬間。
彼の、凍てついていた魂に、数年ぶりに、温かいものが流れ込んできた。それは、ただの食料ではない。敗者をも見捨てぬという、絶対的な『陽だまり』の温かさ。
兵士は、その場で崩れ落ち、ただ、子供のように、声を上げて泣いた。(故郷では、病気の妹に分け与える、硬いパンの一切れすら無かったのに……。なぜ、昨日まで殺し合っていた敵が、これほどの慈悲をくれるのだ……)
『蜂蜜』の作戦は、今、この戦場で、敵兵一人ひとりの魂を、その根底から、温かく溶かし尽くしていたのだ。

#### 砕かれた玉座

『陽だまりの砦』の司令部。
そこには、アルフォンス、カエラン、ミカエラ、そしてローランが、縄で縛られた、もはやただの男、ギュンターと対峙していた。
「……殺せ」
ギュンターは、その猛禽のような瞳から光を失い、虚ろに呟いた。「勝者の権利だ。この俺に、これ以上の屈辱を与えるな」

「あんたを殺しても、腹の足しにもならん」
アルフォンスは、冷たく言い放った。
その、言葉が紡がれた、まさにその時だった。
一羽の、疲れ果てた伝書鳩が、司令部の窓から転がり込んできた。それは、鉄鷲公国の紋章を刻んだ、緊急の使者。
ローランが、その足に結ばれた羊皮紙を解き広げ、読み上げる。その顔が、驚愕に歪んだ。

「……申し上げます。鉄鷲公国にて、政変。ギュンター大公の側近であった将軍たちが、民衆の支持を得て蜂起。大公の居城は陥落し、新政府樹立を宣言。新政府は、ギュンター大公の身柄を『国を追われた罪人』として、一切の関知をせぬこと。そして、南方の新政権に対し、これまでの非礼を詫び、**『黄金の雫』を仲立ちとした、対等な交易関係の締結を、正式に要請**してきた、とのこと……!」

その、あまりにも鮮やかすぎる結末。
ギュンターは、その報告を、信じられないといった表情で聞いていた。
敗北ではない。『拒絶』。
彼が、飢えから救うために戦ってきたはずの民そのものから、完全に、その存在価値を否定されたのだ。彼の力の源泉であった『飢え』が、陽だまりの『豊かさ』の前に、無価値なものと断じられた。
「……ああ……ああああ……」
ギュンターは、もはや怒りも、憎しみも浮かべられない、完全に魂が抜け落ちた顔で、ただ、虚しく呻いた。それは、一つの時代の、完全な終焉を告げる、断末魔だった。

#### 南方の盟約

鉄鷲公国の脅威が、完全に消滅した、その数日後。
『陽だまりの砦』には、南方の、全ての領主たちが、一堂に会していた。彼らは、あの奇跡の戦いを、自らの城から、固唾を飲んで見守っていたのだ。
彼らは、若き英雄カエランと、その背後に立つ、黒鉄の英雄アルフォンス、そして聖女ミカエラの前に、敬意と、そして畏怖を込めて、深く頭を下げた。

「カエラン殿。いや、カエラン卿。我らは、もはや貴殿を、ただの子爵家の若造などとは見なしておりませぬ。貴殿こそ、我ら南方を導く、新たなる『王』にふさわしい!」
一人の老伯爵が、そう進言する。
だが、カエランは、静かに、しかし、力強く首を横に振った。
彼は、アークから学んだ、新たなる時代の、全く新しい「国の形」を、その場にいる全ての者たちに、高らかに宣言した。

「――私は、王にはなりません。我ら南方が目指すべきは、一人の王が支配する、古い国ではない。ここに集った、全ての領主が、対等な立場で手を取り合い、知恵を出し合い、共に豊かになるための、新しい共同体。私は、そのための、最初の『礎』となりたい!」
「ここに、**『南方陽だまり連合』**の設立を、宣言いたします! 我らは、もはや互いを疑い、競い合うのではない! 北の仲間たちから授かった、この温かい光を、今度は、我らの手で、大陸全土へと広げていくのです!」

その、あまりにも気高く、あまりにも新しい、理想の国の形。
南方の領主たちは、一瞬の沈黙の後、地鳴りのような歓声と、惜しみない拍手で、その若きリーダーの誕生を、祝福した。これまで互いを牽制し合っていた老獪な伯爵たちが、いつしか若き日の理想を思い出したかのように、その目に熱い光を宿らせ、誰よりも力強く手を叩いていた。

#### 創造主の次なる一手

遥か北、陽だまりの街。
アークの書斎で、彼は、『契約の木』を通じて、その全てを、リアルタイムで感じ取っていた。
兄が、仲間たちが、自らが描いた設計図を、遥かに超える形で、最高の未来を創り上げていく。その、あまりにも温かい現実に、彼の胸は、熱いもので満たされた。

(……すごいよ、兄さん。カエランさん。ミカエラさん。みんな……)

彼は、窓の外に広がる、愛しい、陽だまりの街並みを見つめた。
飢えは、克服された。戦争の脅威も、一つの形として、退けられた。
彼の、最初の設計図は、今、完成した。

アークは、書斎の机に向き直ると、一枚の、真っ白な、新しい『ライナス和紙』を、その前に広げた。
その、雪のように真っ白な髪が、窓から差し込む陽光を浴びて、キラキラと輝いている。
彼の、二色の瞳には、もはや、目の前の敵を打ち破るための戦術ではなく、この、平和になった世界で生きる人々が、次に目指すべき、遥か彼方の、新しい『幸福』の形が、確かに映っていた。
彼は、羽根ペンを手に取ると、その、無限の可能性を秘めた、真っ白な紙の上に、次なる時代の、最初の、力強い一本の線を、静かに、引き始めた。
(飢えを克服した世界が、次に何をすべきか、わからなくなっている。……だったら、僕が教えてあげなくちゃ)

「――さあ、始めようか、みんな。この、豊かすぎる世界のための、新しい『幸福』の設計図を、描く時間を」

***

最後までお読みいただき、ありがとうございます。面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価、フォローをいただけますと、執筆の励みになります。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~

川原源明
ファンタジー
 秋津直人、85歳。  50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。  嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。  彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。  白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。  胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。  そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。  まずは最強の称号を得よう!  地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編 ※医療現場の恋物語 馴れ初め編

異世界の片隅で、穏やかに笑って暮らしたい

木の葉
ファンタジー
『異世界で幸せに』を新たに加筆、修正をしました。 下界に魔力を充満させるために500年ごとに送られる転生者たち。 キャロルはマッド、リオに守られながらも一生懸命に生きていきます。 家族の温かさ、仲間の素晴らしさ、転生者としての苦悩を描いた物語。 隠された謎、迫りくる試練、そして出会う人々との交流が、異世界生活を鮮やかに彩っていきます。 一部、残酷な表現もありますのでR15にしてあります。 ハッピーエンドです。 最終話まで書きあげましたので、順次更新していきます。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

攻略. 解析. 分離. 制作. が出来る鑑定って何ですか?

mabu
ファンタジー
平民レベルの鑑定持ちと婚約破棄されたらスキルがチート化しました。 乙ゲー攻略?製産チートの成り上がり?いくらチートでもソレは無理なんじゃないでしょうか? 前世の記憶とかまで分かるって神スキルですか?

「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。 「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」 精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。 それでも生きるしかないリリアは決心する。 誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう! それなのに―…… 「麗しき私の乙女よ」 すっごい美形…。えっ精霊王!? どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!? 森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

処理中です...