現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん

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第135話:物語の槌音と、陽だまりの旋律

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#### 盟主の朝

『陽だまり連合盟約』が結ばれてから、数週間が過ぎた。
祝祭の熱気は穏やかな日常へと溶け込み、街は、新たなる時代の最初のページをめくる、静かな、しかし確かな活気に満ち溢れていた。

領主の館、その主の机がある書斎。アルフォンス・ライナスは、日の出と共に、山と積まれた羊-皮紙の束と格闘していた。連合各国から寄せられる陳情書、ディアナが送ってくる膨大な経済報告、そして、フィンが提案するアカデミーの新しい教育カリキュラム案。その一つ一つが、この連合の未来を形作る、重要な設計図のピースだった。
「くそっ……アークなら、こんな書類仕事、半日で終わらせちまうんだろうな……」
アルフォンスは、ガシガシと頭を掻きながら悪態をつく。だが、その口元には、不思議と笑みが浮かんでいた。弟のような天才的な閃きはない。だが、一つ一つの声に耳を傾け、仲間たちを信じ、誠実に汗を流す。それこそが、自分だけの、自分らしい王の在り方なのだと、彼はすでに気づいていた。

執務の合間、彼は決まって、弟が眠る部屋を訪れた。
雪のように真っ白な髪の少年は、今日も穏やかな寝息を立てている。その傍らでは、聖なる番人ウルが、主の毛づくろいをしたり、窓から差し込む陽の光を浴びたりして、静かな時間を過ごしていた。
枕元に飾られた花瓶。黄金の芽は、今や五枚の若葉を誇らしげに広げ、その生命の輝きは日ごとに増しているように見えた。
「見てろよ、アーク。お前が安心して眠っていられるように、最高の国を創ってやる。お前が目を覚ました時、度肝を抜くような、面白くて、温かい世界をな」
その静かな誓いに、ウルが「きゅい」と一つ、信頼を込めて鳴いた。

#### 物語の槌音

その日、街の創造の中心である工房では、二人の巨匠が、熱い火花を散らしていた。
『印刷ギルド』の設立に向け、陽だまりの街が誇る鍛冶神ダグと、西方職人公国が誇る至宝グンナルが、一つの巨大な印刷機を前に、唸り声を上げていたのだ。それは、もはや喧嘩ではない。互いの、全てを懸けてきた職人としての誇りをぶつけ合う、神聖な儀式だった。

「だから、話にならんと言っておるのだ!」
グンナルが、南のカエランから実験的に送られてきた『麦わらを原料にした新しい紙』の試作品を、陽光にかざして顔をしかめる。「安価なのは認める。だが、これではインクの乗りが悪すぎる。物語の価値が、紙の質で落ちてどうする!」
「へっ、そいつはどうかな!」ダグは、西のヴォルカンが開発した『鉱物由来の新しいインク』の壺を指差した。「こいつは乾きが早いが、木の活字を僅かに傷める。だが、この紙となら、どうだ? 傷む前にインクが染み込み、独特の風合いを生むかもしれんぞ!」

それは、これまで決して交わることのなかった、異文化の知恵の衝突だった。木と対話するダグの柔軟な発想と、寸分の狂いなき精度を神と崇めるグンナルの剛直な理論。二人は、ああでもない、こうでもないと、時には怒鳴り合い、時には互いの妙案に唸りながら、何十、何百という組み合わせを試していく。
そして、夕暮れ時。ついに、奇跡の組み合わせが生まれた。麦わらの紙に、鉱物のインクを、エルフの知恵である特殊な樹脂を僅かに混ぜて印刷する。すると、文字は滲むことなく、まるで古文書のような、気品と温かみを両立した、美しい風合いで紙の上に定着したのだ。

「……ふん。悪くない」
「へっ、お前さんこそな」
二人の巨匠は、互いの顔を見合わせると、まるで悪戯が成功した子供のように、ニヤリと笑った。その夜、二人は工房の隅で、互いの故郷の酒を酌み交わした。犬猿の仲だった二人が、最高のライバルであり、かけがえのない親友となった、その記念すべき夜だった。

#### 陽だまりの旋律

その頃、『陽だまりの教会』では、もう一つの、静かなる文化の融合が進められていた。
聖浄樹が美しいドームを形成する聖堂に、人間とエルフの子供たちの、澄んだ歌声が響き渡る。
教壇に立つのは、元『熾天使』ミカエラと、エルフの弓兵長リオン。

ミカエラがオルガンで奏でるのは、規律正しく、荘厳な教会の聖歌。それは、魂を天へと導く、垂直の祈りの音楽。
リオンが竪琴で奏でるのは、森の囁きや風の歌を模した、自由で自然なエルフの古謡。それは、大地と生命を祝福する、水平の喜びの音楽。
二つの、あまりにも異なる旋律は、最初は不協和音となってぶつかり合い、子供たちは戸惑いの表情を浮かべていた。

だが、ミカエラは、アークの「理は違えど、根っこは同じ」という言葉を思い出していた。彼女は、ふと演奏を止めると、リオンに優しく微笑みかけた。
「リオン殿。あなたの、その自由な森の歌に、私たちの、祈りの和音を重ねてみてはいただけませんか?」
リオンは、一瞬驚いた顔をしたが、すぐにその意図を理解し、静かに頷いた。

彼が、竪琴で、風が若葉を揺らすような、軽やかな即興の旋律を奏で始める。その、生命の息吹に満ちたメロディに、ミカエラが、まるで大地がそれを支えるかのように、オルガンで荘厳で、温かい和音を重ねていった。
するとどうだろう。これまでに誰も聞いたことのない、天への祈りと大地への感謝が完璧に融合した、力強さと優しさを兼ね備えた、全く新しい『陽だまりの聖歌』が生まれたのだ。
その、あまりにも美しく、魂を揺さぶる旋律に、人間とエルフの子供たちは、自然と手を取り合い、声を合わせて歌い始めた。文化の壁が、音楽という名の温かい光によって、完全に溶かされていく、奇跡の瞬間だった。

#### 小さな使者の囁き

夕刻。盟主としての長い一日を終えたアルフォンスが、書斎で報告書に目を通していた。
その、静寂を破り、開かれた窓から、ちゅん、と可愛らしい鳴き声と共に、再びあの『陽だまりの小鳥』が飛び込んできた。今回は、その小さなくちばしに、一枚の、瑞々しい聖浄樹の葉を咥えている。

小鳥は、まっすぐにアルフォンスの机の上に着地すると、まるで「これを、あの方へ」とでも言うかのように、その葉をそっと置いた。
そこへ、アークの部屋から、ウルがひょっこりと顔を出す。彼は、その小鳥を見ると、敵意を見せるどころか、まるで旧知の友に再会したかのように、嬉しそうに「きゅい」と鳴き、二匹はしばし、楽しげに鳴き交わした。
アルフォンスは、この小鳥がただの鳥ではないことを、確信した。

その、瞬間だった。
ウルの魂を通じて、アルフォンスの心に、一つの、温かいイメージが流れ込んできた。言葉ではない。眠る弟の、穏やかな寝顔。そして、その魂から、まるで夢の欠片がこぼれ落ちるかのように、小さな光の鳥が生まれ、仲間たちの活躍を、嬉しそうに見守っている光景。
アルフォンスは、全てを悟った。この小鳥は、ただの使いではない。眠っているアークの魂が、仲間たちの活躍を祝福し、その温かい想いが形となって現れた、『陽だまり』そのものの化身なのだ、と。弟は、眠りながらも、この街の全てを見守り、そして、その小さな翼で、仲間たちの心を繋いでいる。

彼は、小鳥が運んできた聖浄樹の葉を、そっと手に取った。そして、弟が待つ部屋へと向かう。
眠る弟の顔は、以前よりも血色が良く、穏やかに見えた。彼がその葉を枕元の花瓶にそっと添えると、黄金の芽がひときわ強く輝き、**六枚目となる新しい葉**が、ゆっくりと、しかし、力強く、その姿を開いた。
そして、アークの雪のような髪の中に、また一本、確かな金色の筋が生まれるのを、アルフォンスは確かに見た。

「そうか……お前も、ちゃんと見ててくれるんだな。俺たちの、この国づくりを」
アルフォンスは、眠る弟と、その魂の欠片である小鳥に向かって、これ以上ないほど誇らしげに、そして、どこまでも優しく、微笑むのだった。

***

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