現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん

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第184話:陽だまりの警戒態勢と、創造主の思索

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緊急評議会から一夜明け、陽だまりの街には、目に見えない緊張感が漂い始めていた。未知なる侵略者の影。それは、街の隅々にまで静かに、しかし確実に広がっていた。だが、人々の顔に絶望の色はない。工房からはいつも以上に力強く、そしてどこか緊迫感を帯びた槌音が響き、アカデミーの塔からは深夜まで議論を戦わせる魔術師たちの灯りが漏れていた。城壁では、アルフォンス自らが指揮を取り、聖域騎士団が黙々と訓練に励んでいる。彼らには、頼れる盟主と、帰還したばかりの創造主がいる。その絶対的な信頼が、街の心を一つに繋ぎとめていた。

その朝、アークは自室のベッドで静かに目を覚ました。昨日の無理が祟ったのか、体にはまだ鉛のような重さが残っている。窓の外からは、警戒態勢に入った街の、いつもとは違う引き締まった空気と、訓練に励む騎士たちの鋭い掛け声が微かに聞こえてきた。
「…おはよう、ウル」
傍らで心配そうに主を見守っていたウルが、「きゅぅん」と甘えた声でアークの頬に鼻先を擦り付ける。その温かい毛皮の感触だけが、この部屋に変わらない日常をもたらしていた。アークはウルの頭を優しく撫でながら、昨日の評議会での自分の提案を反芻していた。(今は休む時だ。だが、時間は限られている…僕にしかできないことがあるはずだ)

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動き出す歯車:森の目と耳

アルフォンスの指示の下、街は迅速に動き出していた。
エルフの弓兵長リオンと、人間の域を超えた斥候カエルは、夜明けと共に再び森の奥深くへと出発した。彼らの任務は、戦闘ではなく、徹底的な情報収集。ウルも同行を強く望んだが、アークは「君の鼻と僕の魂は繋がっている。ここからでも、森の異変は感じ取れるはずだ。それに、君には僕の傍で、僕の『目』になってほしいんだ」と優しく諭し、街に残らせた。
二人の影は、浄化された森の、そのさらに奥、生命の循環が乱れ始めた不穏な領域へと慎重に足を踏み入れていく。彼らは決して深追いはしない。ただ、あの存在が残した痕跡――大地に残る奇妙な削り跡、生命力を吸い取られ白化した植物、そして、明らかにその領域を避けて移動する動物たちの気配――を、一つ一つ丁寧に記録していく。彼らが持ち帰るであろう断片的な情報こそが、アークが次なる設計図を描くための、唯一の手がかりとなるのだ。

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動き出す歯車:街の盾と矛

アカデミーの一室は、臨時の結界設計室と化していた。蒼の賢塔のアズライトと、元『熾天使』ミカエラが、エルフの長老も交え、巨大な羊皮紙を前に、額を突き合わせていた。
「…つまり、敵はマナそのものを吸収し、動力源とする、と。ならば、通常の魔力障壁では、逆にエネルギーを与えてしまうことになる…」アズライトが、水晶のペンを走らせながら唸る。「むしろ、マナの流れを完全に『遮断』する結界…いや、それでは街自体の生命力が弱まる。…そうだ!マナの流れを『一方通行』にするのはどうだ?街から外へは流れず、外からの侵入は拒絶する、半透膜のような…」
「聖なる力は、悪意ある存在を退けます。ですが、リオン殿の報告によれば、あれには悪意すらない、と…」ミカエラもまた、自らの知識体系にはない脅威を前に、苦悩の色を浮かべていた。「ならば、試すべきは『拒絶』ではなく、『調和』による無力化…?例えば、聖浄樹のマナと、陰の世界樹のマナ。その二つの、相反するようでいて根源は同じであるエネルギーを螺旋状に編み込み、接触した異質なエネルギーを中和・還元する『浄化の渦』のような結界は…?」
賢塔の論理と、教会の聖なる力、そして森の叡智。三つの異なる知性が、アークが残した「生命力を逆用する」というヒントを元に、未知の脅威に対抗するための、全く新しい防御理論を紡ぎ出そうとしていた。

一方、『連合共同工房』では、ダグとグンナルが、リオンが持ち帰った謎の『欠片』を前に、腕を組んでいた。工房の炉の最高温度でも、その欠片は僅かに赤らむだけで、溶ける気配すら見せない。魔法的な解析を試みても、アズライトの弟子たちが首を捻るばかりだった。「この金属…いや、金属ですらないのかもしれん。組成が、我々の知るどの物質とも異なる…」
「…へっ、面白いじゃねぇか」ダグが、その無骨な顔に獰猛な笑みを浮かべた。「俺たちの炎でも溶かせねぇってんなら、力ずくで叩き割るしかねぇだろうが!おい、グンナル!お前のとこの一番でけぇ槌を貸せ!」
「待て、ダグ殿」グンナルが、冷静に制止する。「その前に試すべきことがある。この構造…あまりにも精密すぎる。破壊ではなく、その『理』を理解することこそが、我ら職人の道のはずだ。この表面の、僅かな傷…これは、もしかしたら…」二人の巨匠は、破壊と解析、二つの異なるアプローチで、この未知なる物質の秘密に迫ろうとしていた。同時に、彼らの弟子たちは、アークの指示に基づき、巨大な弩(バリスタ)のような形状をした、奇妙な装置の試作に取り掛かっていた。それは、物理的な矢を放つのではなく、聖浄樹の枝を触媒とし、凝縮された生命エネルギーを撃ち出すという、対『機構』用の特殊兵器のプロトタイプだった。

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創造主の思索

アークは、兄に支えられながら自室に戻り、静かにベッドに横になっていた。肉体的な疲労もさることながら、未知の存在と精神感応を試みたことによる魂の消耗は、彼が思うよりも深かった。傍らでは、ウルが心配そうに主の寝顔を見守っている。主人の苦痛を和らげようとするかのように、その小さな体から穏やかな癒やしのオーラを放っていた。
だが、アークの意識は、深く、深く、内へと沈んでいた。
(木魔法が効かない。生命ではない。だが、脈打っている。そして、森を蝕む…)
彼の脳裏に、前世の記憶が断片的に蘇る。コンピュータウイルス、自己増殖するナノマシン、あるいは、制御不能となった古代の自動機械…。だが、どれも違う。あれには、人の手による『設計』の匂いがしなかった。もっと、根源的で、異質な…。
(まるで…星そのものが持つ、免疫システムのような…?古くなった細胞を排除し、新陳代謝を促すための…?だとしたら、僕らは、この星にとっての『異物』なのか?いや、違う。僕らは、この星を癒やしたはずだ…世界樹の再生は、星自身の喜びだったはずだ…)
思考が、袋小路に入り込む。アークは、そっと、自らの胸に手を当てた。そこには、二本の世界樹が再生した証として、陽と陰、二つの力が穏やかに脈打っている。
(…もし、あれが、僕らが起こした『再生』に対する、星の、意図せざる『副作用』なのだとしたら…?良かれと思って行った手術が、予期せぬ拒絶反応を引き起こしたように…)
その、あまりにも恐ろしい可能性に、彼の背筋を冷たいものが走った。だが、彼はすぐにその考えを打ち消した。
(いや、違う。あの旋律は、冷たいだけじゃなかった。どこか、哀しい響きがあった。まるで…**生まれたばかりで、自分の役割も分からず、ただ本能のままに動き回る、迷子になった子供のような…**)
破壊ではない。理解。対話。そして、もし可能ならば…**『調律』**。
アークは、ゆっくりと目を開いた。その二色の瞳には、恐怖ではなく、創造主としての、揺るぎない決意の光が宿っていた。
「…ウル。もう少しだけ、君の力を貸してくれないかな。あの音の、本当の意味を知りたいんだ。あの存在が、何を『求めて』いるのかを」
ウルは、主の決意を悟ると、静かに、しかし力強く頷き返し、その小さな体を主人の胸にぴったりと寄せた。二つの魂が、再び深く繋がり、森の深淵へと意識を飛ばす準備を始めた。

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陽だまりの日常と、静かなる警鐘

街は、警戒態勢にありながらも、その温かい日常を失ってはいなかった。
セーラが、アークのために滋養満点のスープを届けに来て、「ほら、創造主様!しっかり食って、早く元気になりな!あんたが寝てると、街の灯りが一つ消えたみたいで、寂しいんだから!」と、いつものように快活に笑い飛ばす。その言葉には、ただの気遣いだけでなく、街の皆がアークの完全回復を心から願っているという、温かい想いが込められていた。
アカデミーでは、フィンが、不安がる子供たちに「大丈夫だよ!アルフォンス兄ちゃんと、アーク兄ちゃんがいる限り、この陽だまりは絶対に消えたりしない!それに、僕らが学ぶこの知識こそが、未来を守る力になるんだ!」と、力強く語り聞かせている。リーリエもまた、小さな子供たちに月光花の世話の仕方を教えながら、「この花のように、どんな暗闇の中にも、希望の光は必ずあるのですよ」と、自らの経験を優しく伝えていた。
人々は、未知の脅威に怯えながらも、互いを信じ、支え合い、自らの『陽だまり』を守り、そして育てようとしていた。

その夜、書斎でアルフォンスと回復したアークが、リオンたちが持ち帰った偵察報告を共有していた。
「…敵の数は、やはり複数いるようだ。森の、特定の領域にだけ出現し、まるで縄張りを守るかのように、規則的に巡回しているらしい」アルフォンスが、地図に新たな印をつけながら報告する。「だが、その目的は、依然として不明だ。ただ…奇妙なことに、奴らが通過した後の土壌から、これが見つかった、と」
アルフォンスが差し出したのは、リオンが持ち帰った、あの金属質の欠片よりもさらに小さい、しかし完璧な幾何学模様を描く**『結晶体』**だった。それは、月光を受けて、微かに虹色に輝いていた。
アークは、その結晶体を手に取った瞬間、再びあの『冷たく規則正しい旋律』を、より鮮明に感じ取った。だが、今回はそれだけではなかった。その旋律の奥に、ごく微かに、しかし確かに存在する、別の響き。それは、まるで遠い星々が奏でるかのような、どこか懐かしく、そして…孤独な響きだった。
「兄さん…もしかしたら、あれは、敵じゃないのかもしれない。**ただ…迷子になっているだけなのかもしれない。**この星に、たった一人で」
「…どういうことだ?」
「まだ、確信はないけど…」アークは、窓の外の、闇に包まれた森を見つめた。「あれは、何かを破壊しようとしているんじゃない。何かを**『探して』**いるのかもしれない。僕らが、まだ知らない、この星の、もっと深い場所に眠る『何か』を…。あるいは、還るべき場所を」
その、あまりにも意外な言葉に、アルフォンスは息を呑んだ。
ウルが、アルフォンスが持つ『結晶体』に鼻先を近づけ、クンクンと匂いを嗅いだ。そして、小さく首を傾げると、警戒ではなく、**まるで新しい友達に出会った時のような、純粋な好奇心**をその瞳に浮かべ、「きゅ?」と不思議そうな声を上げた。陽だまりの街に忍び寄る影は、単純な『敵』ではないのかもしれない。その予感が、二人の英雄の胸に、新たな波紋を広げていた。

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