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第194話:旅立ちの竪琴と、陽だまりの祈り
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陽だまりの街は、見えざる脅威への静かな警戒態勢と、未来への創造の熱気が、美しいコントラストを描きながら、運命の日を迎えようとしていた。街を守る多重防御結界は最終段階に入り、工房では大陸最高の技術者たちが魂を注ぎ込んできた『共鳴の竪琴』が、ついに完成の時を迎えた。アカデミーでは異文化の知恵が融合した新しい学びが生まれ、市場は変わらぬ活気に満ちている。だが、その陽光の下で、街の誰もが、森の奥深くへと旅立つ若き英雄たちの無事を、静かに祈っていた。
その朝、アークは兄アルフォンスと共に、『連合共同工房』へと足を運んでいた。工房の中は、これまでにないほどの神聖なまでの静寂と、完成を祝う晴れやかな空気に満ちていた。
工房の中心には、朝日を浴びて神々しいまでの輝きを放つ**『共鳴の竪琴』**が鎮座していた。聖浄樹のフレームは生命の温もりを、星屑鋼のプレートは宇宙の神秘を、水晶の共鳴板は論理の輝きを、そしてミカエラの祈りが込められた銀線は聖なる響きを宿し、一つの完璧な調和を奏でていた。心臓部にはめ込まれた『親玉』の結晶体が、まるで主の到来を待っていたかのように、穏やかな虹色の光を放っている。**それはもはや楽器ではなく、陽だまり連合の全ての知恵と祈りが結実した、新たなる時代の扉を開くための『鍵』であり、魂の器だった。**
「……できたぞ、アーク様。**俺たちの、いや、陽だまり連合の、魂の結晶だ。こいつが、新しい時代の扉を開く鍵になることを願うぜ。あとは、お前さんの腕次第だがな!**」
ダグとグンナルが、その顔に深い疲労の色を浮かべながらも、最高の満足感に満ちた笑みを浮かべて、完成を告げた。**ダグは汗を拭い、グンナルは誇らしげに顎を撫でる。言葉は少なくとも、互いの成し遂げた仕事への絶対的な敬意と、この装置が持つ意味への深い理解、そしてアークへの揺るぎない信頼がそこにはあった。**アズライトもまた、自らの理論が完璧な形で具現化したことに、「美しい…!理論を超えた美しさが、ここにある!**未知との対話…これこそ、真の魔法使いの探求!この完成に立ち会えたこと、生涯の誇りですぞ!**」と魔術師としての純粋な喜びに打ち震えていた。
####
最後の準備、仲間たちの想い
アークは、完成した竪琴の前に立った。彼は、その美しいフォルムにそっと指で触れた。ひんやりとした星屑鋼の感触と、温かい聖浄樹の脈動。そして、仲間たちの、数えきれないほどの汗と、祈りが込められた熱量。その全てが、彼の魂に流れ込んでくるようだった。
「……ありがとう、みんな。最高の『架け橋』だ。**これがあれば、きっと彼らの心にも届くはずだ**」
傍らでは、ウルが主人の傍らに寄り添い、竪琴から放たれる未知のエネルギーと主の魂の共鳴を、心配そうに、しかし誇らしげに見守っていた。
出発の時は、刻一刻と迫っていた。
『盟約の館』の作戦司令室では、アルフォンスが、残る仲間たちと最後の打ち合わせを行っていた。ローランが広げた地図には、リオンたちが記した最新の森の情報と、万が一の場合の撤退経路が書き込まれている。
「俺は街に残る。アークたちが行っている間、この陽だまりの守りは、俺たち『聖域騎士団』が死守する。ローラン殿、ミカエラ殿、結界の最終調整と、万が一の場合の避難計画を頼む」
「承知いたしました、盟主殿。抜かりなく」ローランが厳かに頷く。
「はい。ですが、アルフォンス様」ミカエラは、竪琴に祈りを込めた銀線に触れた時の感触、そしてアークの魂の輝きを思い出しながら、確信を込めて言った。「きっと、その心配は杞憂に終わるでしょう。アーク様の魂の響きは、どんな異質な理をも、温かく包み込むはずですから。**信じましょう。彼が灯す、新たなる陽だまりの光を**」
その聖女の言葉に、アルフォンスは力強く頷いた。
厨房では、セーラが旅立つ五人のために、特製の携帯食料を準備していた。それは、ただ栄養価が高いだけではない。聖浄樹の蜂蜜と太陽のリンゴを使い、一口食べれば陽だまりの温もりそのものが体に染み渡るような、愛情のこもった『お守り』だった。**保存が効くように焼き締められたクッキーには、一つ一つ、不器用ながらも温かい陽だまりの家の焼き印が押されている。**
「まったく、あの子たちは…。いっつも無茶ばっかりするんだから。**腹が減ったら、どんな英雄だって力は出ねぇんだ。**しっかり食って、全員、笑顔で帰ってきな!」
彼女は、ぶっきらぼうに言いながらも、その目元を赤く腫らしていた。
####
陽だまりの祈り、旅立ちの刻
出発の朝。陽だまりの街の門前には、全ての仲間たちが集まっていた。それは、英雄の凱旋を見送るような華やかさではなく、家族の無事を祈る、静かで、しかしどこまでも温かい空気に満ちていた。
父は、アークとアルフォンスの肩を、それぞれ力強く叩いた。「行け。そして、必ず帰ってこい。お前たちの帰る場所は、ここにある。**どんなことがあっても、この父が守り抜く**」
母は、アークの首に、再びあの木彫りの小鳥をかけ、涙をこらえながら、ただ強く抱きしめた。「**この子が、あなたを守ってくれますように。そして、道に迷った時には、帰るべき場所を教えてくれますように。**無理はしないで。あなたの無事が、私たちの一番の願いなのだから」
アークは、仲間たち一人ひとりの顔を目に焼き付けた。フィン、リーリエ、ダグ、グンナル、アズライト、セーラ、ローラン…。**アカデミーの子供たちが掲げる「いってらっしゃい!」の横断幕。工房の職人たちが打ち鳴らす、力強いハンマーのリズム。**彼らがいるから、自分は安心して未知へと挑める。
彼は、背中に、まるで翼のように『共鳴の竪琴』を背負った。その重みは、物理的なものだけではない。仲間たちの、全ての想いの重みだった。**肩に止まった『陽だまりの小鳥』が、主の覚悟に応えるかのように、一度だけ高く鳴いた。**
「……行ってくるよ、みんな。**必ず、新しい友達を連れて帰ってくるから**」
アークは、最高の笑顔で、仲間たちに手を振った。
アーク、ウル、ミカエラ、リオン、カエル。
五つの魂は、盟主アルフォンスと、街の全ての仲間たちの祈りを背に、再び、あの静寂と神秘に満ちた森へと足を踏み入れた。
彼らが目指すのは、森の奥深く、未知なる遺跡。そして、そこで待つ、星からの迷い子たちとの、最初の対話。陽だまりの街の運命、いや、この星の未来すら左右するかもしれない、あまりにもか細く、しかし、どこまでも気高い挑戦が、今、再び始まろうとしていた。
森の入り口で、アルフォンスは、弟たちの姿が見えなくなるまで、ただ、その場に立ち尽くしていた。その蒼い瞳には、盟主としての揺るぎない覚悟と、兄としての、ただ一つの切なる祈りが宿っていた。**(…頼んだぞ、アーク。お前なら、きっとできる。俺は、ここで、お前が安心して帰ってこられる陽だまりを守り続ける)**
***
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