現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん

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第211話:共生の炉心と、豊かさの火種

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創造主が描いた、新たなる時代の設計図。
『穀物発電所(バイオマス・エナジー・プラント)』の建設。それは、陽だまり連合の未来を賭けた、最初にして最大の共同プロジェクトだった。
その報せは、連合各国を、熱狂の渦へと巻き込んだ。南方のカエランは「我らの麦が、大陸を照らす光になる!」と歓喜の涙を流し、西方のヴォルカンは「最高のタービンを創る!」と職人たちの魂に火をつけた。ディアナは即座に『未来エネルギー事業部』を立ち上げ、その莫大な利権の計算に胸を躍らせた。

その数週間後。
陽だまりの街の『連合共同工房』は、大陸の歴史上、誰も見たことのない、異文化の知恵がぶつかり合う、灼熱の戦場と化していた。
「――だから、話にならんと言っておるのだ!」
西方の鍛冶師長グンナルが、アークが描いた『炉心』の設計図を前に、その鋼のような腕を組んで唸った。「これほどの熱量を生み出す炉心を、木材で創るなど!正気の沙汰ではない!燃え尽きるどころか、暴走して全てを吹き飛ばすぞ!ここは、我が公国の誇る『耐熱鋼』で、寸分の狂いなく組み上げるのが常識だ!」

「へっ、だから頭が硬ぇんだよ、頑固爺!」
ダグが、一歩も引かずに怒鳴り返す。「鉄は熱を伝えるだけだ!アーク様の設計は、聖浄樹の『浄化』の力で熱そのものを『調和』させ、エネルギーに変換するんだ!木の『命』を信じねぇお前さんに、この神聖な炉心は打てねぇよ!」

「お二人とも、論点がズレております!」
その二つの『経験』と『魂』の激突に、蒼の賢塔のアズライトが、冷徹な『論理』の刃を差し込んだ。
「問題は素材ではない!この、エネルギーを抽出する魔術回路の『効率』です!この配列では、エネルギーの70%が熱として失われる!もっと、論理的で、美しい配列があるはずだ!」

木か、鉄か。魂か、効率か。
三つの、決して交わることのない正義が激しく火花を散らし、工房の空気は、一触即発の寸前まで張り詰めていた。

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その、凍りついた空気を溶かしたのは、穏やかな、しかし、有無を言わさぬ、創造主の声だった。
「――みんなの言う通り、だよ」
兄アルフォンスに支えられ、まだ万全ではない体ながらも、アークが工房へと姿を現した。その膝の上には、工房の熱気に少し戸惑いながらも、好奇心に目を輝かせるウルがちょこんと座っている。
「グンナル師の言う通り、この炉心には、千年の時にも耐える『強さ』が必要だ。ダグさんの言う通り、木の『命』の力なくして、エネルギーは生まれない。そして、アズライト様の言う通り、その力を、一滴たりとも無駄にしない『効率』こそが、未来を創る」

アークは、三人の巨匠の前に立つと、一枚の、新しい羊皮紙を広げた。
「だから、僕らは、その全てを、一つにすればいい」
彼が、その場で描き上げたのは、三つの理が融合した、全く新しい『共生の設計図』だった。

「炉心の『骨格』は、グンナル師の『耐熱鋼』で創ります。ですが、その鋼に、ダグさんの手で、生きた『鉄鋼樹』の若木を、打ち込みながら、融合させてほしいんです」
「なっ……!?」
「鉄鋼樹が、鋼の強さを、その養分として成長し、鋼は、木のしなやかさを、その身に宿す。互いを高め合う、**『生きた合金』**を創るんだ」
「そして、アズライト様。その『生きた合金』の表面に、あなたの魔術回路を刻んでください。ただし、エネルギーを抽出するためじゃない。**木が呼吸し、鋼が脈打つ、その『リズム』を調和させるための、音楽の『指揮棒』**として、です」

その、あまりにも大胆不敵で、あまりにも美しい、三つの文化の融合案。
三人の巨匠は、しばし、言葉を失い、その設計図に描かれた、神の領域の創造に、ただ、打ち震えていた。
「……面白い」グンナルが、最初に、その武骨な顔を、最高の職人の笑みに歪ませた。「生きた鉄を、打つ、だと……?生涯最高の仕事になりそうだ」
「へっ、望むところだぜ!」ダグも、その拳を鳴らした。
「……なんと。なんと詩的な、設計思想…!」アズライトもまた、その知的な瞳を、未知なる探求への歓喜に輝かせた。

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その日から、工房の槌音は、一つの、完璧な交響曲となった。
アズライトの魔術が、炉の炎を、寸分の狂いなく制御する。その炎で熱せられた耐熱鋼に、ダグとグンナルが、互いの呼吸を読み合いながら、阿吽の呼吸で、同時に槌を振り下ろしていく。鋼に、聖浄樹の若木が打ち込まれ、火花と共に、清浄な生命の香りが工房に満ちる。
アークは、その傍らで、彼らの作業が最高の形で調和するよう、創造主としてのアドバイスを送り続けた。
その、神話の創造にも等しい光景の片隅で。
ウルは、職人たちが持ち寄った、それぞれのお弁当の匂いに、そわそわしていた。南方のスパイシーな干し肉、西方の硬い黒パンとチーズ、陽だまりの街の甘い蜂蜜パン。
ウルは、意を決すると、最も無骨で、最も近寄りがたい雰囲気を放つ、グンナル師の足元へと駆け寄った。そして、その黒パンの欠片を、おずおずと見上げ、「きゅぅん…」と、この世の全てを溶かすかのような、愛らしい声で鳴いてみせた。
「……ふん」
グンナルは、その聖なる獣の、あまりにもあざとい(しかし、抗いがたい)要求に、一瞬だけ面食らったが、やれやれと肩をすくめると、その無骨な指で、パンの小さな欠片をちぎり、ウルの口元へと運んでやった。
その、あまりにも温かい光景に、工房を満たしていた鉄と汗の匂いが、ふわりと、陽だまりの温もりを帯びた。

#### 

そして、運命の日。
南方のカエラン、盟主アルフォンス、連合の全ての仲間たちが見守る中、ついに完成した『共生の炉心』に、最初の燃料となる、南方の麦が投入された。
アークが、その炉心に、そっと手を触れる。
「――目覚めよ。新たなる時代の、最初の火種」

ゴオオオオオッ!
炉心は、暴走することなく、まるで喜びに満ちた、力強い産声を上げるかのように、安定した、美しい青白い炎を燃え上がらせた。
その炎は、アズライトの魔術回路を駆け巡り、工房の天井に設置された、巨大な水晶の灯りを、眩いばかりに輝かせた。
それは、ただの光ではなかった。
飢えと争いの象徴であったはずの『余剰の麦』が、大陸の未来を照らす、温かい『希望のエネルギー』へと生まれ変わった、記念すべき、最初の灯火だった。

その、あまりにも神々しい光景を、アークは、兄の隣で、満足げに見上げていた。
(……まずは、第一歩、だね。兄さん)
(ああ。お前が描いた未来を、俺たちが、必ず現実にしてみせる。二人で、な)
創造主と、守護者。二人の英雄は、言葉もなく、ただ、互いの魂の響きを、確かに感じ合っていた。

***

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