221 / 241
第220話:白き森と、星を喰らうもの
しおりを挟む#### 静寂の境界線
リオンとカエルがたどり着いた南方の森の異変地点は、異様な光景だった。
そこには、定規で引いたような明確な「境界線」が存在していた。一歩手前までは、いつもの生命力に満ちた緑の森。だが、一歩先は、まるで世界そのものが『死』に塗り替えられたかのような、色彩が完全に失われた白亜の世界が広がっていた。
木々も、下草も、土すらも、全てが真っ白に脱色され、乾ききっている。風が吹くと、サラサラと白い粉になって崩れ落ちていく。
「……ひどいな。生命(マナ)を吸われた、なんて生易しいもんじゃねぇ」
カエルが、足元の白い砂を掬い上げて呟く。「『存在』そのものを、食いつくされてやがる」
リオンは、千年の時を生きたエルフの鋭敏な感覚で、周囲を警戒していた。
「鳥の声も、虫の音もない。ここにあるのは、完全なる『死』だ。……そして、その死が、今もゆっくりと広がっている」
彼が見つめる先で、一本の緑の巨木が、根元から急速に白く変色し、音もなく崩れ落ちた。
#### 古き天敵
その映像は、リオンが持つ通信用の魔道具を通じて、『盟約の館』の円卓中央に投影されていた。
息を呑むアルフォンスたちの中で、ただ一人、激しい反応を示した者がいた。
『――!!』
星屑の民、エコーだ。常に穏やかな黄金色を保っていた彼のコアが、まるで悲鳴を上げるかのように見たこともないどす黒い紫色に激しく明滅し、全身をガタガタと震わせ始めたのだ。それは、感情を持たないはずの彼らが示す、原初的な『恐怖』の反応だった。
「エコー!どうしたんだ!」
アークが駆け寄る。エコーは、震える指で投影された白い森を指差した。
『……ヤツラダ……!我々ノ故郷ヲ……星ヲ、喰ライ尽クシタ……古キ、天敵……!』
アズライトが、顔色を変えて叫ぶ。「まさか、昨夜の深宇宙からのノイズは……!」
『……警告ダッタノダ。「ヤツラガ来ル」「逃ゲロ」ト……!』
戦慄が、円卓を支配した。彼らが直面しているのは、一国の軍勢などではない。かつて一つの星を滅ぼした、宇宙規模の厄災そのものだったのだ。
#### 虚空からの尖兵
その時、通信機からカエルの鋭い警告音が響いた。
『ッ!何か来る!地中からだ!』
映像の中で、白い大地が盛り上がり、数体の異形の存在が姿を現した。
それは、生物ではなかった。白磁のような滑らかな外殻を持ち、関節のない滑らかな肢体で動く、無機質な多脚型の『何か』。顔に当たる部分には目も口もなく、ただ、底なしの虚無のような黒い穴が開いているだけだった。
『――!!』
映像越しでも伝わる、圧倒的な「飢え」の気配。
それらが、生きているリオンたちを感知し、一斉に向きを変えた。
「くっ、迎撃する!」
リオンが矢を放つ。エルフの魔力が込められた必殺の矢は、先頭の一体に直撃した――はずだった。
だが、矢は外殻に触れた瞬間、ジュッという音と共に白く変色し、砂となって霧散した。
「……なっ!?魔力を、分解しただと!?いや、存在そのものを……」
カエルがクナイを投げるが、それも同様に、触れることすらできずに朽ち果てる。
『逃ゲテ!ソレニ触レテハナラナイ!』エコーの悲鳴のような思念が響く。『アレハ「喰らうもの(イーター)」!触レル全テノエネルギーヲ、虚無ヘト還元スル!』
#### 創造主の決断
物理攻撃も、魔法攻撃も通じない、絶対的な捕食者。
映像の向こうで、リオンとカエルが防戦一方に追い込まれていく。
「……兄さん!」
アークが、アルフォンスを見る。その瞳には、恐怖ではなく、仲間を救うための強い光が宿っていた。
「彼らを救えるのは、僕だけかもしれない。あの『全てを無にする力』……僕の『生み出す力』なら、あるいは相殺できるかもしれない!」
「馬鹿野郎!お前をそんな危険な場所に!」
「でも、行かなきゃ、二人が死んでしまう!それに……」
アークは、震えるエコーの肩に、そっと手を置いた。
「彼らの故郷を奪った悲劇を、この星で繰り返させるわけにはいかない。僕らの『陽だまり』は、絶対に、あんな白い砂漠になんかさせない!」
創造主の覚悟が、場の空気を変えた。
アルフォンスは、ギリッと奥歯を噛み締め、そして吠えた。
「……くそっ、わかった!だが、お前一人では行かせん!聖域騎士団、総員出撃!俺たちの全力をもって、あのふざけた『白い絶望』を叩き潰す!」
陽だまりの街に、最大の危機を告げる警鐘が鳴り響いた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価、フォローをいただけますと、執筆の励みになります。
0
あなたにおすすめの小説
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
異世界の片隅で、穏やかに笑って暮らしたい
木の葉
ファンタジー
『異世界で幸せに』を新たに加筆、修正をしました。
下界に魔力を充満させるために500年ごとに送られる転生者たち。
キャロルはマッド、リオに守られながらも一生懸命に生きていきます。
家族の温かさ、仲間の素晴らしさ、転生者としての苦悩を描いた物語。
隠された謎、迫りくる試練、そして出会う人々との交流が、異世界生活を鮮やかに彩っていきます。
一部、残酷な表現もありますのでR15にしてあります。
ハッピーエンドです。
最終話まで書きあげましたので、順次更新していきます。
【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~
川原源明
ファンタジー
秋津直人、85歳。
50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。
嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。
彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。
白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。
胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。
そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。
まずは最強の称号を得よう!
地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語
※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編
※医療現場の恋物語 馴れ初め編
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?
白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。
「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」
精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。
それでも生きるしかないリリアは決心する。
誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう!
それなのに―……
「麗しき私の乙女よ」
すっごい美形…。えっ精霊王!?
どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!?
森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。
攻略. 解析. 分離. 制作. が出来る鑑定って何ですか?
mabu
ファンタジー
平民レベルの鑑定持ちと婚約破棄されたらスキルがチート化しました。
乙ゲー攻略?製産チートの成り上がり?いくらチートでもソレは無理なんじゃないでしょうか?
前世の記憶とかまで分かるって神スキルですか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる