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第237話:星の心臓と、共鳴の賛歌
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深淵の嵐、二つの戦場
アークが、相棒のウルを固く抱きしめ、赤黒い嵐が渦巻く『深淵への裂け目』へと足を踏み入れた、その瞬間。
**ゴオオオオオオオッ!**
世界が、絶叫した。
「ぐっ……!sアーク!」
裂け目の『外』で待機していたアルフォンスたちの目の前で、空間の裂け目が、まるで傷口を拒絶するかのように、激しく脈動を始めた。
『警告!『星ノ心臓』ガ、アーク様ヲ、異物トシテ認識!排除ヲ開始シマス!』
エコーの、切迫した思念が響き渡る。
嵐の裂け目から、制御不能なエネルギーの奔流が、赤黒い雷となって溢れ出し、アルフォンスたちへと襲いかかった。
「――全員、俺の後ろへ!」
アルフォンスが、虹色に輝く『盟主の戦斧』を構え、その身を盾として立ちはだかる。
「ミカエラ殿、結界を!」
「はい!『聖域結界・三重(サンクチュアリ・トリプル)』!」
ミカエラが、その聖なる力の全てを込め、黄金の防壁を展開する。だが、赤黒い雷は、その聖なる光すらも喰らい、防壁に激しい亀裂を走らせた。
「くそっ、キリがねぇ!」
アルフォンスは、弟が今まさに戦っているであろう嵐の奥を見据え、その魂の全てを込めて、斧を握りしめた。
(聞こえるか、アーク。お前が、そっちで世界を調律するなら、俺は、こっちで、お前の背中を、絶対に守り抜いてやる!)
外の世界では、アークの『今』を守るための、仲間たちの死闘が始まっていた。
####
星の心臓
一方、嵐の『内側』。
そこに、空間の感覚はなかった。ただ、赤黒い、無限の混沌が渦巻いているだけ。
アークは、ウルを固く抱きしめながら、その概念の嵐の中心へと、ただ、意識を集中させていた。
(……どこだ。聞こえるはずだ。この星の、本当の『声』が)
「きゅぅぅ……ん」
ウルの、か細い鳴き声。その聖なる魂だけが、この混沌の中で、唯一の道標だった。ウルの魂が指し示す先、その、最も深く、最も暗い闇の中心に、それはあった。
**ドクン…………ドクン…………**
それは、巨大な、赤黒く脈打つ、**『星の心臓』**だった。
だが、それは、憎悪に満ちた魔物などではなかった。その表面には、無数の、古傷のような亀裂が走り、そこから、瘴気と、制御不能なエネルギーが、血のように溢れ出している。
アークは、その魂の響きを聞いた。それは、怒りではなかった。
それは、数万年、いや、数十万年の間、誰にも理解されず、ただ一人で、この星の全ての傷を抱え続けてきた、**あまりにも永い『孤独』と、『痛み』の叫び**だった。
そして、その心臓は、アークと、その奥にある『種』の気配を、かつて自らを傷つけた、古代文明の『脅威』の再来と誤認し、ただ、怯え、拒絶していたのだ。
####
共鳴の賛歌
「……そうか。君は、ずっと、痛かったんだね。ずっと、一人で、怖かったんだね」
アークは、その、あまりにも大きな哀しみを前に、涙を浮かべた。
彼は、そっと、『共鳴の竪琴』を構えた。
「ウル。今こそ、君の、本当の歌を、聞かせてあげよう」
「きゅいっ!」
アークは、竪琴を奏で始めた。
最初に奏でたのは、『星の心臓』が奏でる、あの、赤黒い絶望の旋律。
(――痛いよね。苦しいよね。僕も、知ってるよ)
その、共感の響きに、星の心臓の脈動が、ほんの僅かに、揺らいだ。
次に、アークは、星屑の民の『種』が奏でる、故郷を失った『哀しみ』と、それでも未来を願う『希望』の旋律を重ねた。
(――君だけじゃない。僕らもまた、迷子だったんだ)
そして、最後に。
アークは、自らの魂の全てを、その旋律へと注ぎ込んだ。
それは、兄アルフォンスの不屈の魂。ミカエラの聖なる祈り。ローランの叡智。ダグとグンナルの情熱。セーラの温もり。フィンの希望。リーリエの優しさ。カエランの再起。エコーの知性。
彼が愛する、全ての仲間たちの**『陽だまりの熱量』**。
そして、二本の世界樹の調和を司る、ウルの、**『生命の賛歌』**!
緑と、黄金と、白銀。そして、星屑の民が持つ虹色の光が、一つの、巨大な交響曲(シンフォニー)となって、星の心臓を、優しく、優しく包み込んでいった。
(――だけど、僕らは、もう一人じゃない!)
####
陽だまりの夜明け
**ドクン…………!**
星の心臓が、大きく、一度だけ、脈打った。
赤黒い、拒絶の光が、その表面から、ゆっくりと剥がれ落ちていく。
そして、その傷だらけの核から、まるで、永い冬を越えた大地に、最初の春が訪れたかのように、温かく、穏やかな、**黄金色の光**が、溢れ出し始めた。
嵐が、止んだ。
外の世界で、死闘を繰り広げていたアルフォンスたちの前で、赤黒い雷が、ふっと、その勢いを失った。
「……アーク……?」
アルフォンスが、息を呑む。
裂け目の奥から、赤黒い瘴気の代わりに、あまりにも温かい、陽だまりそのもののような、黄金色の光が、溢れ出し始めたのだ。
裂け目から、アークが、ウルを抱きしめたまま、ふらつきながらも、確かな足取りで、姿を現した。
彼の、金と白銀が混じり合った髪は、星の心臓の祝福を受けたかのように、神々しいまでの光を放っている。
「……兄さん。ただいま」
アークは、兄の顔を見ると、安心したように、その場に崩れ落ちた。
アルフォンスが、その体を、固く、固く抱きしめる。
その瞬間、アークたちが調律した、星の心臓の、穏やかで、力強い『新しい鼓動』が、大地を伝い、世界中へと広がっていった。
遺跡で眠っていた『種』の揺り籠が、その鼓動に呼応し、虹色の光を、安らかに明滅させる。
陽だまりの街の、二本の世界樹が、歓喜の歌を奏で、大陸全土の龍脈が、清浄な力で満たされていく。
星は、癒やされた。
創造主と、守護者。二人の英雄と、その仲間たちの、決して諦めない『絆』の力によって。
「……帰ろう、アーク」
アルフォンスは、弟の、あまりにも温かい体を背負い直した。
「みんなが待ってる、俺たちの、陽だまりの家へ」
一行は、新たなる時代の、本当の夜明けを告げる、黄金色の光の中を、静かに、歩き始めた。
***
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