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第十七話 石工術の基礎と、職人の心意気 第1部『ドワーフの設計図と、最初の石切り』
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祝宴の翌朝。郷には、新たな計画への期待と興奮が、朝霧のように立ち込めていた。
その中心にいたのは、もちろんギムレットさんだ。彼は、僕たちの家のテーブルの上に、ゴトリ、と重々しい音を立てて、古びた革の巻物を広げた。
「これが、わが一族に伝わる醸造所の設計図じゃ」
そこに描かれていたのは、もはや芸術品だった。
水車の動力を利用した巨大な粉砕機、麦汁を煮込むための三重構造の銅釜と、それを川の冷水を引き込んで効率的に冷やすための冷却管。そして、洞窟の壁をくり抜いて造られる、一年を通して完璧な温度管理を実現する石造りの地下貯蔵庫(セラー)。その一つ一つが、ドワーフの知恵と技術の結晶として、**緻密**な線で描き出されていた。
「す……すごい……」
ズボラが、職人として、その完璧な設計に感嘆の息を漏らす。
「こりゃあ、とんでもねえ城ができそうだな!」
ガラクが、完成した未来を想像して、興奮に声を弾ませた。
壮大すぎる計画。だが、僕たちの心には、不思議と「やれる」という確信があった。
計画の第一歩は、膨大な量の、そして質の良い石材の確保だった。
**ギムレット**さんは、僕たちを、かつて彼が斧を見つけた「ドワーフの古い石切り場」へと案内した。
「ふむ……この岩盤なら、申し分ない。数百年は、わしらドワーフの帰りを、ここでじっと待っておったようじゃな」
彼は、石切り場の岩肌を、まるで旧友と再会したかのように、愛おしげに撫でた。
「いいか、小僧ども。石にも、木と同じように『目』がある。石が生まれた時にできた、力の流れじゃ。この石目に沿って力を加えれば、最小限の力で、望む形に切り出せるんじゃ」
そして、ギムレットさんによる、オークの木工職人ズボラへの、前代未聞の「石工術」の個人指導が始まった。
だが、それは困難を極めた。
木工の達人であるズボラも、相手が木とは全く違う、硬く、そして気難しい石となると、勝手が違うようだった。力を込めすぎれば、石はあらぬ方向へと割れて砕け、力を弱めれば、鑿(のみ)がカン、と甲高い音を立てて弾かれる。
「ちくしょう……!なんて硬えんだ……!」
何度目かの失敗に、ズボラが悔しそうに唸る。
そんな彼に、ギムレットさんの厳しい声が飛んだ。
「この石頭が!だから、力でねじ伏せるなと言っておる!**石と対話するんじゃ!石が、どこで割れたいと囁いておるのか、その声を聞け!**」
「石と……対話する?」
その言葉に、ズボラはハッとした。
(木と向き合う時と、同じだ……。木の声を聞き、その木目が進みたい方向へと、刃を導いてやる……。石も、同じなのか……?)
ズボラは、一度目を閉じると、そっと岩肌に手を触れた。そして、その巨大な体躯に似合わぬ、繊細な集中力で、石の内部に意識を潜らせていく。**ひんやりとした石の感触。その奥に眠る、数千、数万年の記憶。気の遠くなるような時間をかけて形成された、石の『目』の流れが、まるで血管のように、彼の指先に伝わってくるようだった。**
やがて、彼は目を開くと、ギムレットさんに示された一点に、静かに鑿を当てた。
そして、教わった通りに、体の軸を使い、無駄のない動きで、槌を振り下ろす。
カーン!と、これまでとは全く違う、澄んだ音が響き渡った。
次の瞬間、岩肌に、ピシリ、と一本の美しい亀裂が走る。そして、ズシン、という重い音を立てて、設計図通りの完璧な形をした巨大な石材が、岩壁から綺麗に剥がれ落ちたのだ。
「……できた」
呆然と呟くズボラ。
ギムレットさんは、その見事な仕事ぶりを、腕を組んでじっと見ていたが、やがて、満足げに、その見事な髭の奥で、ニヤリと笑った。
「ふん、まあまあじゃな」
それは、頑固な師匠からの、最高の賛辞だった。
その中心にいたのは、もちろんギムレットさんだ。彼は、僕たちの家のテーブルの上に、ゴトリ、と重々しい音を立てて、古びた革の巻物を広げた。
「これが、わが一族に伝わる醸造所の設計図じゃ」
そこに描かれていたのは、もはや芸術品だった。
水車の動力を利用した巨大な粉砕機、麦汁を煮込むための三重構造の銅釜と、それを川の冷水を引き込んで効率的に冷やすための冷却管。そして、洞窟の壁をくり抜いて造られる、一年を通して完璧な温度管理を実現する石造りの地下貯蔵庫(セラー)。その一つ一つが、ドワーフの知恵と技術の結晶として、**緻密**な線で描き出されていた。
「す……すごい……」
ズボラが、職人として、その完璧な設計に感嘆の息を漏らす。
「こりゃあ、とんでもねえ城ができそうだな!」
ガラクが、完成した未来を想像して、興奮に声を弾ませた。
壮大すぎる計画。だが、僕たちの心には、不思議と「やれる」という確信があった。
計画の第一歩は、膨大な量の、そして質の良い石材の確保だった。
**ギムレット**さんは、僕たちを、かつて彼が斧を見つけた「ドワーフの古い石切り場」へと案内した。
「ふむ……この岩盤なら、申し分ない。数百年は、わしらドワーフの帰りを、ここでじっと待っておったようじゃな」
彼は、石切り場の岩肌を、まるで旧友と再会したかのように、愛おしげに撫でた。
「いいか、小僧ども。石にも、木と同じように『目』がある。石が生まれた時にできた、力の流れじゃ。この石目に沿って力を加えれば、最小限の力で、望む形に切り出せるんじゃ」
そして、ギムレットさんによる、オークの木工職人ズボラへの、前代未聞の「石工術」の個人指導が始まった。
だが、それは困難を極めた。
木工の達人であるズボラも、相手が木とは全く違う、硬く、そして気難しい石となると、勝手が違うようだった。力を込めすぎれば、石はあらぬ方向へと割れて砕け、力を弱めれば、鑿(のみ)がカン、と甲高い音を立てて弾かれる。
「ちくしょう……!なんて硬えんだ……!」
何度目かの失敗に、ズボラが悔しそうに唸る。
そんな彼に、ギムレットさんの厳しい声が飛んだ。
「この石頭が!だから、力でねじ伏せるなと言っておる!**石と対話するんじゃ!石が、どこで割れたいと囁いておるのか、その声を聞け!**」
「石と……対話する?」
その言葉に、ズボラはハッとした。
(木と向き合う時と、同じだ……。木の声を聞き、その木目が進みたい方向へと、刃を導いてやる……。石も、同じなのか……?)
ズボラは、一度目を閉じると、そっと岩肌に手を触れた。そして、その巨大な体躯に似合わぬ、繊細な集中力で、石の内部に意識を潜らせていく。**ひんやりとした石の感触。その奥に眠る、数千、数万年の記憶。気の遠くなるような時間をかけて形成された、石の『目』の流れが、まるで血管のように、彼の指先に伝わってくるようだった。**
やがて、彼は目を開くと、ギムレットさんに示された一点に、静かに鑿を当てた。
そして、教わった通りに、体の軸を使い、無駄のない動きで、槌を振り下ろす。
カーン!と、これまでとは全く違う、澄んだ音が響き渡った。
次の瞬間、岩肌に、ピシリ、と一本の美しい亀裂が走る。そして、ズシン、という重い音を立てて、設計図通りの完璧な形をした巨大な石材が、岩壁から綺麗に剥がれ落ちたのだ。
「……できた」
呆然と呟くズボラ。
ギムレットさんは、その見事な仕事ぶりを、腕を組んでじっと見ていたが、やがて、満足げに、その見事な髭の奥で、ニヤリと笑った。
「ふん、まあまあじゃな」
それは、頑固な師匠からの、最高の賛辞だった。
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