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プロローグ
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レースを何重にもあしらった天蓋ベッドの中に、純白のネグリジェを纏った少女は横たわっていた。
抜けるように白い肌、繊細な睫毛が涙袋に陰を落としている。艶やかに濡れた唇だけが赤い。
シルクの滑らかなシーツに沈み込んだ少女は、触れればたちまち溶けてしまいそうな、春の雪解けを思わせる儚さをもっていた。
傍らに腰掛けた青年は、無造作に散らばったプラチナブロンドのウェーブがかった髪を一房だけすくうと、躊躇いがちに口付けた。
少女の纏った甘やかな香りが鼻腔をくすぐる。それが更に青年の胸を締め付けた。
「また……貴方を救えなかった」
懺悔の言葉をいくら囁いたところで、少女が目を覚ますことはもう無い。
蜂蜜色の瞳が青年をとらえる事も、今は雪のように白い頬に暖色が差す事も、もう叶わない。
少女をこの世に繋ぎ止めていた鼓動は、とうに脈打つことをやめてしまったのだから。
青年は、漆黒の髪を揺らすと、静かに立ち上がった。
涙は零れなかった。青年は、泣いてもどうにもならない事を知っていたのだ。
「必ず貴方を助ける。だからそれまで……」
ーー待っていてくれ
青年が様々な国の言葉を継ぎ接ぎに組み合わせたような、ちぐはぐな詞を唱えると、途端に辺りは眩い光で覆われた。
柔らかな光のヴェールは青年と少女を包み込む。
青年は端正な顔立ちを苦しげに歪ませた。吐き出された息は荒い。それでも詞を唱える事をやめない。
二人を包み込む光のヴェールはやがて収束し始め、光は目を開けていられない程密なものとなった。
「例えこの身を滅ぼそうと、貴方が救われるのなら……僕は」
光に全てを委ねるよう、目を瞑る。
恐れる事は無い。
ただ、物語を繰り返すだけなのだから。
抜けるように白い肌、繊細な睫毛が涙袋に陰を落としている。艶やかに濡れた唇だけが赤い。
シルクの滑らかなシーツに沈み込んだ少女は、触れればたちまち溶けてしまいそうな、春の雪解けを思わせる儚さをもっていた。
傍らに腰掛けた青年は、無造作に散らばったプラチナブロンドのウェーブがかった髪を一房だけすくうと、躊躇いがちに口付けた。
少女の纏った甘やかな香りが鼻腔をくすぐる。それが更に青年の胸を締め付けた。
「また……貴方を救えなかった」
懺悔の言葉をいくら囁いたところで、少女が目を覚ますことはもう無い。
蜂蜜色の瞳が青年をとらえる事も、今は雪のように白い頬に暖色が差す事も、もう叶わない。
少女をこの世に繋ぎ止めていた鼓動は、とうに脈打つことをやめてしまったのだから。
青年は、漆黒の髪を揺らすと、静かに立ち上がった。
涙は零れなかった。青年は、泣いてもどうにもならない事を知っていたのだ。
「必ず貴方を助ける。だからそれまで……」
ーー待っていてくれ
青年が様々な国の言葉を継ぎ接ぎに組み合わせたような、ちぐはぐな詞を唱えると、途端に辺りは眩い光で覆われた。
柔らかな光のヴェールは青年と少女を包み込む。
青年は端正な顔立ちを苦しげに歪ませた。吐き出された息は荒い。それでも詞を唱える事をやめない。
二人を包み込む光のヴェールはやがて収束し始め、光は目を開けていられない程密なものとなった。
「例えこの身を滅ぼそうと、貴方が救われるのなら……僕は」
光に全てを委ねるよう、目を瞑る。
恐れる事は無い。
ただ、物語を繰り返すだけなのだから。
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