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運命の「花笑み」
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入学して二週間。
大学という新しい世界の広さに、俺——夏目一太は、いまだ怯えていた。
周囲の学生たちが繰り広げる、キラキラしたコミュニケーションは、人見知りには眩しすぎる。昼食も、講義の間の休み時間も、俺はスマホを盾に、教室の隅で息を潜めているのが常だった。このまま四年が過ぎて、人知れず卒業していくのだろう、と半ば諦めていた。
そんな俺の灰色の日々が一瞬で、鮮やかな春の色に染まったのは、新入生歓迎のサークル合同説明会でのことだ。
特に目当てもなく体育館をうろついていた俺の足が止まったのは、写真サークル『光と影』のブース前だった。正確には、ブースに立っていた一人の先輩に、完全に目を奪われたからだ。
佐倉春香先輩。二年。
白いブラウスに、春らしい薄黄色のカーディガン。ただそれだけのシンプルな装いなのに、その場だけ光を浴びているように見えた。ブースの説明を、新入生に向けてしているその人から、俺は目を離せなかった。
そして、その瞬間、彼女は笑ったのだ。
「…と、いうわけで、経験不問です!カメラを持っていなくても大丈夫ですよ。私たちと一緒に、キャンパスライフの素敵な一瞬を切り取りませんか?」
その声とともに、彼女は俺たち新入生全員に向かって、満面の笑顔を向けた。
まるで、凍てついた冬の池に、一輪の睡蓮が一瞬で花開いたようだった。世界から雑音が消え、照明が強くなり、先輩の背後に暖かな光が差したように錯覚した。誰もが振り返るほどの、完璧な、無敵の笑顔。
——ああ、これだ。これこそが。
俺は、心の中で、その笑顔を『花笑み』と名付けた。
先輩の笑顔は、あまりにも華やかで、眩しくて、見ているだけで胸が苦しくなる。春の陽射しを浴びた満開の桜のように、俺の心に根を張り、一瞬で恋に落ちた。
「あの…」
気がつけば、俺はブースの一番前まで進み出ていた。先輩が、その花笑みを俺に向けた。
「あ、興味持ってくれた?ありがとう!」
「……写真、撮りたい、です」
かろうじて絞り出した声は、ひどく掠れていた。先輩の『花笑み』が、俺の拙い言葉に反応して、さらに輝きを増した気がした。
俺は、佐倉春香先輩の『花笑み』を、この目で見つめ、心に刻むためだけに、写真サークル『光と影』に入会することを決めた。
大学という新しい世界の広さに、俺——夏目一太は、いまだ怯えていた。
周囲の学生たちが繰り広げる、キラキラしたコミュニケーションは、人見知りには眩しすぎる。昼食も、講義の間の休み時間も、俺はスマホを盾に、教室の隅で息を潜めているのが常だった。このまま四年が過ぎて、人知れず卒業していくのだろう、と半ば諦めていた。
そんな俺の灰色の日々が一瞬で、鮮やかな春の色に染まったのは、新入生歓迎のサークル合同説明会でのことだ。
特に目当てもなく体育館をうろついていた俺の足が止まったのは、写真サークル『光と影』のブース前だった。正確には、ブースに立っていた一人の先輩に、完全に目を奪われたからだ。
佐倉春香先輩。二年。
白いブラウスに、春らしい薄黄色のカーディガン。ただそれだけのシンプルな装いなのに、その場だけ光を浴びているように見えた。ブースの説明を、新入生に向けてしているその人から、俺は目を離せなかった。
そして、その瞬間、彼女は笑ったのだ。
「…と、いうわけで、経験不問です!カメラを持っていなくても大丈夫ですよ。私たちと一緒に、キャンパスライフの素敵な一瞬を切り取りませんか?」
その声とともに、彼女は俺たち新入生全員に向かって、満面の笑顔を向けた。
まるで、凍てついた冬の池に、一輪の睡蓮が一瞬で花開いたようだった。世界から雑音が消え、照明が強くなり、先輩の背後に暖かな光が差したように錯覚した。誰もが振り返るほどの、完璧な、無敵の笑顔。
——ああ、これだ。これこそが。
俺は、心の中で、その笑顔を『花笑み』と名付けた。
先輩の笑顔は、あまりにも華やかで、眩しくて、見ているだけで胸が苦しくなる。春の陽射しを浴びた満開の桜のように、俺の心に根を張り、一瞬で恋に落ちた。
「あの…」
気がつけば、俺はブースの一番前まで進み出ていた。先輩が、その花笑みを俺に向けた。
「あ、興味持ってくれた?ありがとう!」
「……写真、撮りたい、です」
かろうじて絞り出した声は、ひどく掠れていた。先輩の『花笑み』が、俺の拙い言葉に反応して、さらに輝きを増した気がした。
俺は、佐倉春香先輩の『花笑み』を、この目で見つめ、心に刻むためだけに、写真サークル『光と影』に入会することを決めた。
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