最弱弓術士、全距離支配で最強へ

Y.

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season1

第4話:近接弓術、初披露

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 1. Bランク冒険者の侮蔑

 アストリアの冒険者ギルド『クライスラー』は、昼食時特有の喧騒に包まれていた。リアンとマリナは、次のEランク依頼の情報を整理するため、ギルドの隅にあるテーブルで資料を広げていた。

「リアンさんの弓術は、Eランクどころか、Cランク冒険者にも引けを取らないと思うわ。そろそろ昇格試験を受けるべきよ」

 マリナが熱心に話す。

「まだです。遠距離と中距離の精度は上がりましたが、近接戦闘への対応力を試す実戦経験が足りていません」

 リアンは資料から目を離さなかった。

 その時、一際大きな笑い声と共に、一団の冒険者が二人のテーブルの傍を通りかかった。リーダー格は、鍛え抜かれた肉体に上質な鉄の鎧を纏ったガリオス・ドレイク。彼こそ、リアンがDランクに昇格した際に模擬戦を挑み、わずかに敗北した著名な剣士だった。現在、彼はBランク昇格を控えた実力者として、ギルドでも一目置かれている。

「よお、運任せの弓術士」

 ガリオスはリアンのテーブルを叩き、あからさまに軽蔑の視線を向けた。

 リアンの眉間にわずかに皺が寄る。前回の勝敗は、ガリオスにとって屈辱でしかなかったようだ。

「相変わらず、ちまちまと小細工を弄しているな。お前は前回、たまたま運が良かっただけだ。あの時も言ったはずだ、弓術士に居場所はない、と」

「俺は弓術士の誇りにかけて、あなたを正します」

 リアンは冷たく言い返した。

 ガリオスは顔を歪め、さらに侮辱的な言葉を投げかけた。

「誇り? 弓術士の誇りなど、最初から存在しない。弓は女子供の遊び道具だ。剣士や魔法使いの影に隠れて、遠くから卑怯に矢を放つだけの最低職が、何を偉そうに──」

 その言葉は、リアンにとって、叔父アルスが全てを懸けてくれた『弓術』そのものへの侮辱だった。彼の瞳の奥で、静かな怒りの炎が燃え上がった。

「模擬戦を。今、ここで」

 リアンの声は静寂に包まれたギルド内に響いた。

 ガリオスは一瞬驚いたが、すぐに傲慢な笑みを浮かべた。

「いいだろう。そのお遊びの弓が、本当に剣に勝てるのか、皆の前で証明してやる。ただし、近接戦闘だ。俺がお前の目の前に立つ瞬間、お前は弓を捨て、降参しろ」

「いいでしょう。ただし、俺は弓を捨てない。そして、俺の弓は全ての距離に対応している」


 2. 距離の支配者

 ギルドマスターの許可を得て、模擬戦はギルドの訓練用スペースで行われることになった。多くの冒険者が二重、三重の輪を作って見物している。彼らの視線は、ガリオスへの期待と、リアンへの軽蔑と好奇心に満ちていた。

「弓術士がBランクのガリオスに近接戦を挑むなんて、正気の沙汰じゃない」

「どうせ一瞬で終わるさ。弓が剣に敵うわけがない」

 マリナは心配そうにリアンに囁いた。

「リアンさん、無理しないで。ガリオスさんの防御は鉄壁よ」

「心配ありません。俺の弓は、単なる弓ではない」

 リアンは静かに『ストーム・ウィスパー』を構えた。ガリオスも重装剣と巨大な盾を構え、その全身から闘気を発している。

「来い、最弱職! 貴様のような雑魚は、俺が叩き潰してやる!」

 ゴオォン!

 ガリオスは地を蹴り、その重い全身を加速させてリアン目掛けて突進した。彼の目的は明確だ。リアンの得意な遠距離戦を許さず、一瞬で距離をゼロにすること。

 距離が20メートル、10メートルと縮まる。リアンは矢を装填する素振りすら見せない。周囲の冒険者は「やはり遠距離戦を諦めたか」と囁き始めた。

 距離が5メートル。ガリオスの剣が、今にもリアンを薙ぎ払おうという瞬間。

 (超感覚集中(フォーカス・ゼロ)深度最大)

 リアンの世界が、再び静止した。ガリオスの剣の軌道、その剣に込められた力の方向、そして重い鎧の接合部に生じる、肉眼では決して見えない『わずか0.2mmの隙間』。全てがリアンの『ナノ・サイト』に焼き付いた。

 リアンは矢を放たなかった。

 彼は弓を構えたまま、左手のグリップ下にある特殊なレバーを操作した。

 カシャン!

『ストーム・ウィスパー』の弓本体のグリップから、鋭利な黒曜石のような特殊合金のブレードが展開した。弓は一瞬にして、近接戦闘用の武器、『ボウ・ブレード』へと変貌した。


 3. ゼロ・ブレイク:精密の極致

 リアンは、ゼロ・ブレイクを発動させた。

 ガリオスの重装剣がリアンの首元を狙う。リアンは弓本体を盾のように使い、剣を迎え撃つのではない。

 彼は、その剣がガリオスの手から離れる直前の『手首の腱の動き』を予測し、展開したブレードを、ガリオスの剣の『鍔(つば)とグリップの間のわずかな接合点』めがけて、寸分の狂いもなく叩きつけた。

 キンッ!

 極めて正確な衝撃は、ガリオスの手に大きな振動を与え、剣の軌道をわずかに、しかし致命的なまでに逸らさせた。剣はリアンの頬をかすめ、空を切る。

「なっ……何だ今の!?」

 ガリオスは驚愕した。

 リアンは、カウンターを狙う。ガリオスが次の一撃を繰り出そうと体勢を立て直す瞬間、リアンはボウ・ブレードを構えたまま、ガリオスの『胸当てと肩当てを繋ぐ、わずかな革紐の接続部』に、ブレードの先端を突き入れた。

 スッ、と音もなく革紐が切れる。

 ガリオスは気づかない。だが、その一撃で、彼の肩当ては防御力を著しく失った。

 ガリオスは怒りに任せ、盾を構えて突進し、リアンを押し潰そうとする。リアンは避けない。

 ナノ・サイトが捉える。ガリオスの盾の持ち手の『親指の骨格の動き』。

 ガリオスの盾がリアンに激突する寸前、リアンはブレードの刃先を、盾の側面から滑り込ませ、『ガリオスの親指と人差し指の間に、わずかに露出した皮膚』をかすめる。

 チッ!

 皮膚が切れた痛みは小さい。しかし、その刹那の痛みと、ブレードが盾の持ち手に与えた極限の衝撃により、ガリオスは盾を握る力を失った。

 ドォン!

 盾は彼の制御を離れ、地面に落下する。

 武器を失ったガリオスは、完全に動揺した。リアンは勝機を逃さない。

「終わりです」

 リアンはブレードを構えたまま、ガリオスの鎧の『喉元を覆う金属板と顎の隙間』へ、ブレードの先端をわずか数ミリ突きつけた。

「貴方の心臓ではなく、喉元の呼吸器を狙いました。これで勝敗は決しました」

 ガリオスは、自分が死の淵に立たされたことを理解した。彼の鎧は鉄壁のはずだった。だが、この弓術士は、その鉄壁に存在する「ナノレベルの穴」を、全て見抜いていた。


 4. 異端者への評価

「勝者、リアン・アークライト!」

 ギルドマスターが呆然と宣言した。

 訓練スペースは一瞬の静寂に包まれ、次の瞬間、ざわめきと怒号が渦巻いた。

 ガリオスは膝から崩れ落ち、震える手で剣を拾い上げた。彼は敗北した。剣士の誇り、そして弓術士への侮蔑心、全てが打ち砕かれた。

「ふざけるな! あんなものは弓術ではない! 剣の真似事だ!」

「ボウ・ブレード? 卑怯な異端者だ!」

「たまたま盾が滑っただけだろう!」

 周囲の冒険者は、リアンの神業的な精密さを認めようとせず、『弓術士』という枠に収まらない彼の戦い方を『異端』として攻撃した。

 リアンはブレードを弓に収納し、静かにガリオスに一礼した。

「これが、俺の弓術です。全ての距離を支配し、最弱職と呼ばれる弓術士の地位を、最強へと引き上げる」

 ガリオスは、顔を上げることができなかった。彼はリアンを憎む一方で、その異次元の集中力と技術に、得体の知れない恐怖を感じていた。

 その中で、マリナだけが拍手を送った。

「素晴らしいわ、リアンさん! これで誰も、あなたを雑魚だなんて言えない!」

「いいえ、マリナさん。彼らはまだ認めません。だからこそ、俺はもっと強くなければならない」

 リアンはギルドの冷たい視線を一身に浴びながら、確信した。この世界で弓術士の地位を変えるには、彼ら全員が『運』や『異端』では片付けられない、圧倒的な実力を見せつけるしかない、と。

 弓術士リアンの伝説は、周囲の誤解と異端視をエネルギーに変えて、さらに加速していく。
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