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season1
第17話:未来予測射撃(フューチャー・サイト)
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1. 王都の闇:地下水道の待ち伏せ
バルカスの工房を後にしたリアンとマリナは、王都の衛兵の目も届かない地下路を通って宿へと向かっていた。しかし、リアンのナノ・サイトは、湿った空気の中に混じる、不自然な「無音の空間」を捉えていた。
「マリナさん、下がって。奴らです。前回の失敗を糧に、音と気配を完全に遮断して待ち伏せている」
リアンの言葉が終わるより早く、暗闇から無数の鋼糸が放たれた。それは魔力を帯び、触れるもの全てを切り裂く、対人暗殺用の特殊兵装だった。
「逃がさないよ、弓術士。円卓の序列十五位、『糸使いのラゼル』がお前の命と弓を貰い受ける」
現れたのは、指先から無数の魔力糸を操る小柄な男、ラゼルだった。彼は前回の刺客が力押しで敗れたことを分析し、リアンの回避行動を物理的に封じる戦術を選んでいた。
2. ナノ・サイトの限界と、その先へ
ラゼルの放つ糸は、地下水道の壁や天井に張り巡らされ、リアンの逃げ場を瞬時に奪っていく。糸の一本一本が微細に振動し、リアンの振動弓術による防御壁を「中和」する周波数を放っていた。
(敵は俺の技術を研究している……。物理的な隙を突くだけでは、この包囲網は突破できない)
リアンは、迫りくる糸の弾幕を間一髪で回避しながら、意識の深度をさらに一段階、深く沈めた。
これまで、リアンのナノ・サイトは「現在の物理現象」を極限まで精密に捉えるものだった。しかし、ラゼルのように数手先まで罠を仕掛ける相手に対し、リアンは「現在の情報から、0.5秒先の未来を演算する」という領域に挑んだ。
(糸の角度、ラゼルの指の筋肉の収縮、風の流れ、地下水の飛沫……。これら全ての変数を統合し、『確定した未来』を視る!)
リアンの視界が変容した。暗闇の中、ラゼルが次に指を動かす瞬間の、『半透明な残像』が、0.5秒先に浮かび上がった。
これが、奥義書に記されていた究極の先読み――未来予測射撃(フューチャー・サイト)だった。
3. 0.5秒先の狙撃
「無駄だ! どこへ逃げても、僕の糸はお前の肉体を捉える!」
ラゼルが十本の指を同時に振り下ろした。網目状に迫る死の糸。しかし、リアンは既に、その網の「まだ存在しない隙間」に向かって、体を滑り込ませていた。
「なに……!? 糸が当たる前に、安置へ移動しただと?」
リアンは走りながら、背中のストーム・ウィスパーを引き絞った。
彼が狙ったのは、ラゼル本人ではない。
パァン!
放たれた一本の矢は、空間を複雑に跳弾し、ラゼルが「これから糸を固定しようとしていた壁の亀裂」に突き刺さった。
「ぐっ、僕の糸の支点が!」
ラゼルの戦術は、周囲の地形に糸を固定し、張力を操ることで完成する。しかし、リアンはラゼルが糸を放つ「前」に、その固定ポイントを潰し続けた。
「お前の次の動きは、全て視えている。ラゼル、左足の重心を移動させるな。そこには俺の『見えない矢』が既に届いている」
リアンの宣言通り、ラゼルが回避のために左へ踏み込もうとした瞬間、そこには跳弾した矢の破片が正確に配置されており、彼の足の腱を浅く切り裂いた。
4. 絶望的な分析力
ラゼルは戦慄した。この弓術士は、戦っているのではない。自分の行動を未来から逆算して「詰ませて」いるのだ。
「馬鹿な……! 人間にそんな演算ができるはずがない! 魔法か? これは予知魔法なのか!?」
「いいえ、ただの『集中』です」
リアンは、魔力貯蔵庫から一滴の魔力を取り出し、矢に込めた。未来予測射撃と魔力矢の融合。
リアンは三本の矢を同時に放った。一本目は、ラゼルが右へ避ける未来を潰し、二本目は左へ避ける未来を潰す。そして三本目――。
「逃げ場はない」
ラゼルは、自分の体が吸い込まれるように、三本目の矢の軌道上へと動かされていることに気づいた。リアンの精密な牽制によって、彼には「その場所へ行くしかない」という状況が作り出されていた。
ドォン!
魔力矢はラゼルの胸元をかすめ、背後の壁を粉砕した。殺すためではなく、戦意を喪失させるための一撃。
ラゼルは膝をつき、震える声で漏らした。「……怪物め。円卓は、お前のその『集中力』を逆手に取る準備をしている。どれほど先を視ようと、視るべき情報そのものを汚染されたら……お前は終わりだ」
ラゼルは煙幕を張り、地下の闇へと消えていった。
5. 迫りくる汚染の影
戦闘は終わったが、リアンの表情は険しかった。
マリナが駆け寄る。
「リアンさん、今の言葉……集中力の弱点って?」
「俺の弓術は、周囲の情報を完璧に処理することに基づいています。もし、その情報源そのものに『偽の情報』を混ぜられたり、感覚を狂わせる毒を使われたりすれば、予測は逆転し、自滅の刃となる。奴らは、俺のナノ・サイトそのものを攻撃対象に選んだようです」
リアンは、自分の瞳を見つめた。最強の武器である超感覚が、最大の弱点になろうとしている。
『影の円卓』は、リアンの能力を正しく脅威と認め、それを内部から崩壊させるための策を講じていた。
「マリナさん、王都での修行を急ぎます。予測を狂わされても、『本質』を見失わないための技術。感覚に頼らない、魂の弓術……。奥義書のさらに奥にある、本当の『無』の境地を見つける必要があります」
リアンの旅は、物理的な戦いから、自身の精神と感覚を懸けた、より内面的で過酷な領域へと足を踏み入れようとしていた。王都の月は、暗雲に隠れ、決戦の時が近いことを予感させていた。
バルカスの工房を後にしたリアンとマリナは、王都の衛兵の目も届かない地下路を通って宿へと向かっていた。しかし、リアンのナノ・サイトは、湿った空気の中に混じる、不自然な「無音の空間」を捉えていた。
「マリナさん、下がって。奴らです。前回の失敗を糧に、音と気配を完全に遮断して待ち伏せている」
リアンの言葉が終わるより早く、暗闇から無数の鋼糸が放たれた。それは魔力を帯び、触れるもの全てを切り裂く、対人暗殺用の特殊兵装だった。
「逃がさないよ、弓術士。円卓の序列十五位、『糸使いのラゼル』がお前の命と弓を貰い受ける」
現れたのは、指先から無数の魔力糸を操る小柄な男、ラゼルだった。彼は前回の刺客が力押しで敗れたことを分析し、リアンの回避行動を物理的に封じる戦術を選んでいた。
2. ナノ・サイトの限界と、その先へ
ラゼルの放つ糸は、地下水道の壁や天井に張り巡らされ、リアンの逃げ場を瞬時に奪っていく。糸の一本一本が微細に振動し、リアンの振動弓術による防御壁を「中和」する周波数を放っていた。
(敵は俺の技術を研究している……。物理的な隙を突くだけでは、この包囲網は突破できない)
リアンは、迫りくる糸の弾幕を間一髪で回避しながら、意識の深度をさらに一段階、深く沈めた。
これまで、リアンのナノ・サイトは「現在の物理現象」を極限まで精密に捉えるものだった。しかし、ラゼルのように数手先まで罠を仕掛ける相手に対し、リアンは「現在の情報から、0.5秒先の未来を演算する」という領域に挑んだ。
(糸の角度、ラゼルの指の筋肉の収縮、風の流れ、地下水の飛沫……。これら全ての変数を統合し、『確定した未来』を視る!)
リアンの視界が変容した。暗闇の中、ラゼルが次に指を動かす瞬間の、『半透明な残像』が、0.5秒先に浮かび上がった。
これが、奥義書に記されていた究極の先読み――未来予測射撃(フューチャー・サイト)だった。
3. 0.5秒先の狙撃
「無駄だ! どこへ逃げても、僕の糸はお前の肉体を捉える!」
ラゼルが十本の指を同時に振り下ろした。網目状に迫る死の糸。しかし、リアンは既に、その網の「まだ存在しない隙間」に向かって、体を滑り込ませていた。
「なに……!? 糸が当たる前に、安置へ移動しただと?」
リアンは走りながら、背中のストーム・ウィスパーを引き絞った。
彼が狙ったのは、ラゼル本人ではない。
パァン!
放たれた一本の矢は、空間を複雑に跳弾し、ラゼルが「これから糸を固定しようとしていた壁の亀裂」に突き刺さった。
「ぐっ、僕の糸の支点が!」
ラゼルの戦術は、周囲の地形に糸を固定し、張力を操ることで完成する。しかし、リアンはラゼルが糸を放つ「前」に、その固定ポイントを潰し続けた。
「お前の次の動きは、全て視えている。ラゼル、左足の重心を移動させるな。そこには俺の『見えない矢』が既に届いている」
リアンの宣言通り、ラゼルが回避のために左へ踏み込もうとした瞬間、そこには跳弾した矢の破片が正確に配置されており、彼の足の腱を浅く切り裂いた。
4. 絶望的な分析力
ラゼルは戦慄した。この弓術士は、戦っているのではない。自分の行動を未来から逆算して「詰ませて」いるのだ。
「馬鹿な……! 人間にそんな演算ができるはずがない! 魔法か? これは予知魔法なのか!?」
「いいえ、ただの『集中』です」
リアンは、魔力貯蔵庫から一滴の魔力を取り出し、矢に込めた。未来予測射撃と魔力矢の融合。
リアンは三本の矢を同時に放った。一本目は、ラゼルが右へ避ける未来を潰し、二本目は左へ避ける未来を潰す。そして三本目――。
「逃げ場はない」
ラゼルは、自分の体が吸い込まれるように、三本目の矢の軌道上へと動かされていることに気づいた。リアンの精密な牽制によって、彼には「その場所へ行くしかない」という状況が作り出されていた。
ドォン!
魔力矢はラゼルの胸元をかすめ、背後の壁を粉砕した。殺すためではなく、戦意を喪失させるための一撃。
ラゼルは膝をつき、震える声で漏らした。「……怪物め。円卓は、お前のその『集中力』を逆手に取る準備をしている。どれほど先を視ようと、視るべき情報そのものを汚染されたら……お前は終わりだ」
ラゼルは煙幕を張り、地下の闇へと消えていった。
5. 迫りくる汚染の影
戦闘は終わったが、リアンの表情は険しかった。
マリナが駆け寄る。
「リアンさん、今の言葉……集中力の弱点って?」
「俺の弓術は、周囲の情報を完璧に処理することに基づいています。もし、その情報源そのものに『偽の情報』を混ぜられたり、感覚を狂わせる毒を使われたりすれば、予測は逆転し、自滅の刃となる。奴らは、俺のナノ・サイトそのものを攻撃対象に選んだようです」
リアンは、自分の瞳を見つめた。最強の武器である超感覚が、最大の弱点になろうとしている。
『影の円卓』は、リアンの能力を正しく脅威と認め、それを内部から崩壊させるための策を講じていた。
「マリナさん、王都での修行を急ぎます。予測を狂わされても、『本質』を見失わないための技術。感覚に頼らない、魂の弓術……。奥義書のさらに奥にある、本当の『無』の境地を見つける必要があります」
リアンの旅は、物理的な戦いから、自身の精神と感覚を懸けた、より内面的で過酷な領域へと足を踏み入れようとしていた。王都の月は、暗雲に隠れ、決戦の時が近いことを予感させていた。
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