最弱弓術士、全距離支配で最強へ

Y.

文字の大きさ
18 / 47
season1

第18話:心眼の弓術(ブラインド・サイト)

しおりを挟む
 1. 王都郊外:廃れた修道院での修行

『影の円卓』の刺客、ラゼルの言葉は、リアンの心に深く突き刺さっていた。

「視るべき情報そのものを汚染されたら……お前は終わりだ」

 リアンは、王都の地下水道での戦闘後、すぐに新たな修行を開始した。場所は、王都からほど近い森の奥にひっそりと佇む、廃れた修道院。そこは、俗世の喧騒から隔絶され、静寂が支配する場所だった。


「ラゼルの言葉の通り、奴らは俺のナノ・サイトを逆手に取るでしょう。視覚、聴覚、嗅覚、触覚……あらゆる感覚を狂わせる『幻惑』や『情報汚染』の術を使ってくるはずです。その時、俺の集中力は『偽りの未来』を予測し、自滅を招く」

 マリナは心配そうにリアンを見つめた。

「そんなこと……本当にできるの? 視覚を封じて、戦うなんて」

 リアンは静かに答えた。

「奥義書には、こう記されています。『全ての感覚が欺かれる時、真実を捉えるのは、魂の目』。叔父さんも、この領域に挑んだのだと思います」


 2. 視覚の封印と魂の集中

 修行は過酷を極めた。

 リアンは、まず目隠しをした。視覚からの情報が遮断された瞬間、周囲の音、匂い、肌に触れる空気の感触が、これまで以上に鮮明に意識を襲う。しかし、それらの情報すらも、いつか敵に操られる可能性をリアンは知っていた。

「もっと深く。もっと深く……」

 リアンは、ナノ・サイトを、外の世界ではなく、『自身の内側』へと向けた。心臓の鼓動、血流の音、筋肉の微細な震え、そして体内に流れるごく微量の魔力。

「リアンさん、いくわよ!」

 マリナは、修道院の広間で、リアンを囲むように、ゆっくりと、不規則な動きで歩き始めた。手には、リアンの位置を特定するための『音』を立てるための小石を持っている。

「チリン、チリン……」

 リアンは、その音の反響から、マリナの動きを予測しようとした。

 ヒュン!

 しかし、目隠しをしているため、矢はマリナのいた場所を大きく外れ、壁に激突する。

「今の音の波長は、壁からの反響と混じり合って、マリナさんの位置を誤認させた」

 リアンは、『音』という情報すらも、敵が『複雑な反響』や『偽の音源』を用いて攪乱してくる可能性を考慮した。

「視覚も、聴覚も、当てにならない。頼れるのは、もっと根源的な情報。魂の波長、あるいは……『存在そのものの揺らぎ』」

 リアンは、ストーム・ウィスパーを構えたまま、広間の中心で瞑想を続けた。彼の集中力は、もはや五感の延長線上にはない。それは、空間そのものに刻まれた、『存在の痕跡』を読み取る領域だった。


 2. 精神の揺らぎとマリナの支え

 修行が数日続いた。リアンは疲弊していた。視覚を封じ、他の感覚すら信じられない極限状態は、彼の精神を蝕んでいく。

「くそっ……! まるで、世界の全てが偽りのようだ……。このままでは、俺は何も信じられなくなる」

 リアンの集中力は、彼の身体だけでなく、精神にも大きな負担をかけていた。過去の成功体験が、今の彼には通用しない。己の才能が、逆に弱点となる苦悩。

「リアンさん……」

 マリナは、憔悴していくリアンを見て、胸を痛めた。

「俺は、本当にこの道を選んでよかったのか。叔父さんは、こんな孤独な修行を、ずっと一人で……」

 リアンの口から、弱音が漏れた。

 マリナはリアンの隣に座り、そっとその手に触れた。

「リアンさん、あなたは一人じゃないわ。叔父さんも、きっとあなたのそばにいる。そして、私もずっとそばにいるわ。あなたが、どんなに深い闇の中にいても、私はあなたを見つけることができる」

 マリナの言葉は、リアンの心を深く癒やした。彼女の温かい手が、彼の精神の揺らぎを鎮めていく。

「マリナさん……」

 リアンは、目隠しをしたまま、マリナの体温、鼓動、そして『存在そのものの揺らぎ』を感じ取った。それは、視覚や聴覚を超えた、純粋な『生命の光』だった。

「これだ……。これこそが、魂の目が見る『真実』。感覚が汚染されても、生命の本質は欺けない」

 リアンは、マリナの存在を起点に、自身の『心眼(ブラインド・サイト)』の輪郭を掴み始めた。


 3. 心眼の開眼:盲目の狙撃

 リアンは、再び修行を再開した。

 今度は、マリナが、修道院の広間の隅々に隠れた的に向かって、小さな『魔力の灯火』を点滅させた。その灯火は、音もなく、匂いもなく、ごく微細な熱を発するだけだ。

 リアンは、目隠しをしたまま、弓を構えた。彼の意識は、魔力の灯火が放つ『存在の波動』を捉えようとしていた。

 ジー……

 リアンの額に、汗が滲む。しかし、彼の瞳は、目隠しの向こうで、これまで以上に深く澄み切っていた。

 そして、放たれた一本の矢は、音もなく、匂いもなく、ただ『そこにある』だけの魔力の灯火を、正確に射抜いた。

 カチッ!

 的に命中した感触が、修道院の静寂に響き渡った。

「リアンさん! 命中よ! 音も、熱も、ほとんどないのに!」

 マリナが歓声を上げた。

 リアンは、目隠しを外した。彼の視界は、以前とは全く異なるものになっていた。物理的な世界に加えて、『存在の波動』が、まるでオーラのように揺らめいて見える。

 これが、『盲目の狙撃(ブラインド・サイト)』。五感を超越した、心眼の弓術だった。

「これで、どんな幻惑にも、どんな情報汚染にも、俺の集中力が狂わされることはありません」

 リアンの瞳は、これまで以上に深く、そして力強かった。それは、『影の円卓』のどんな策謀も、その『本質』を捉え、打ち破る、真実の目だった。

「マリナさん、ありがとう。あなたがいてくれたから、俺は、この領域に到達できた」

 リアンの新たな力は、彼自身の進化だけでなく、マリナとの絆によってもたらされたものだった。彼らの旅は、一層深い絆で結ばれ、来るべき『影の円卓』との最終決戦へと向かっていく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔物に嫌われる「レベル0」の魔物使い。命懸けで仔犬を助けたら―実は神域クラスしかテイムできない規格外でした

たつき
ファンタジー
魔物使いでありながらスライム一匹従えられないカイルは、3年間尽くしたギルドを「無能」として追放される。 同世代のエリートたちに「魔物避けの道具」として危険な遺跡に連れ出され、最後は森の主(ヌシ)を前に囮として見捨てられた。 死を覚悟したカイルが崩落した壁の先で見つけたのは、今にも息絶えそうな一匹の白い仔犬。 「自分と同じように、理不尽に見捨てられたこの子だけは助けたい」 自分の命を顧みず、カイルが全魔力を込めて「テイム」を試みた瞬間、眠っていた真の才能が目覚める。

異世界レストラン・フェルマータ ~追放料理人の俺、神の舌で世界を喰らう~

たまごころ
ファンタジー
王都の五つ星料理店を追放された若き料理人カイ。理不尽な仕打ちに絶望しかけたその瞬間、彼は異世界で目を覚ます。 そこは「味覚」が魔力と結びついた世界──。美味を極めれば魔力が高まり、料理は民を癒やし、王すら跪く力を持つ。 一介の料理人だったカイは、神の舌「フェルマータ」の力に目覚め、貧しい村に小さな食堂を開く。 だがその料理は瞬く間に世界を変え、王侯貴族、聖女、竜姫、女勇者、果ては神々までが彼の皿を求めるようになる。 追放された男の、料理と復讐と愛の異世界成り上がり劇、ここに開店!

最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』 たったこの一言から、すべてが始まった。 ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。 そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。 それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。 ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。 スキルとは祝福か、呪いか…… ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!! 主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。 ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。 ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。 しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。 一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。 途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。 その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。 そして、世界存亡の危機。 全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した…… ※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。

ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!

さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。 冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。 底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。 そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。  部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。 ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。 『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

トップ冒険者の付与師、「もう不要」と言われ解雇。トップ2のパーティーに入り現実を知った。

ファンタジー
そこは、ダンジョンと呼ばれる地下迷宮を舞台にモンスターと人間が暮らす世界。 冒険者と呼ばれる、ダンジョン攻略とモンスター討伐を生業として者達がいる。 その中で、常にトップの成績を残している冒険者達がいた。 その内の一人である、付与師という少し特殊な職業を持つ、ライドという青年がいる。 ある日、ライドはその冒険者パーティーから、攻略が上手くいかない事を理由に、「もう不要」と言われ解雇された。 新しいパーティーを見つけるか、入るなりするため、冒険者ギルドに相談。 いつもお世話になっている受付嬢の助言によって、トップ2の冒険者パーティーに参加することになった。 これまでとの扱いの違いに戸惑うライド。 そして、この出来事を通して、本当の現実を知っていく。 そんな物語です。 多分それほど長くなる内容ではないと思うので、短編に設定しました。 内容としては、ざまぁ系になると思います。 気軽に読める内容だと思うので、ぜひ読んでやってください。

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

異世界と地球がダンジョンで繋がった ー異世界転移者の私ー

黒木夏
ファンタジー
2040年の初春、突如として地球上の主要都市に謎のダンジョンが出現した。 その特異性は明らかで、人口密集地を中心に出現し、未開の地には一切現れないという法則性を帯びていた。 人々は恐怖に震えつつも、未知なる存在に対する好奇心を抑えきれなかった。 異世界転移した最強の主人公のほのぼのライフ

処理中です...