最弱弓術士、全距離支配で最強へ

Y.

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season1

第21話:Aランクの代償と、祭典の陰謀

 1. 王宮極秘書庫:叔父の残した「契約」

 Aランク冒険者。それは、一国の軍隊を動かす権限すら持ち、王宮のあらゆる機密情報へのアクセスが許される、冒険者の到達点の一つである。

 リアンは、昇格に伴う祝賀行事を全てマリナに任せ、一人、王宮の最深部にある『禁忌書庫』へと足を運んでいた。ゼノンとの戦いで確信したのだ。叔父アルスの死と、あの弓『ストーム・ウィスパー』には、まだ語られていない裏がある。

 古びた羊皮紙の海の中で、リアンはついに、叔父アルスの直筆サインが記された一通の書状を発見した。

「これは……『影の円卓』の総帥、エグゼスとの契約書……?」

 そこには、戦慄すべき内容が記されていた。叔父アルスは、かつて『影の円卓』の最高技術顧問であったこと。そして、リアンの持つ『ストーム・ウィスパー』は、組織が追い求める「神の領域」に到達するための最終実験体として設計されたこと。

「叔父さんは、俺を最強の冒険者にするためではなく……この弓を完成させるための『観測者』として、俺にこれを与えたのか?」

 書状の最後には、叔父の苦悩に満ちた走り書きがあった。


『リアン、許してくれ。私は組織からお前を守るために、この契約を結んだ。だが出し抜く。お前がAランクに到達した時、この弓は組織の制御を離れ、真に「お前のもの」になる。それまで、何があってもマリナから離れるな』


「マリナから離れるな……?」

 リアンのナノ・サイトが、その一文に含まれた、時間をも超えた「殺気」のような警告を捉えた。


 2. 王都最大の祭典:星降祭(せいこうさい)

 その頃、王都は年に一度の『星降祭』の熱狂に包まれていた。夜空には数万の魔導花火が打ち上がり、街は光と音で溢れかえっている。

 Aランク昇格の祝賀会を終えたマリナは、リアンの帰りを待ちながら、祭りの喧騒の中を一人で歩いていた。

「リアンさん、遅いわね……。せっかくの星降祭なのに」

 マリナは、自分の首にかかったペンダントをそっと握った。それは、アストリアを出る際、リアンが「もしもの時のために」と渡してくれた、ストーム・ウィスパーと同じ素材で作られた、小さな魔力共鳴器だった。

 その時、周囲の音が、一瞬にして消えた。

 魔導花火の轟音も、人々の笑い声も、風の音さえも。

「……あ。これ、ゼノンの……」

 マリナが振り返る間もなかった。人混みの中から現れた、白い仮面を被った男たちが、無言でマリナを取り囲む。

「『観測者』の半身を確保せよ。総帥の命である」

 マリナは悲鳴を上げようとしたが、喉が凍りついたように動かない。彼女が意識を失う寸前、手の中のペンダントが、リアンの集中力に呼応するように、鋭い不協和音を奏でた。


 3. 予感と追跡:0.1秒の遅滞

 書庫で異変を察知したリアンは、全力で王宮を飛び出していた。

 彼の超感覚集中(フォーカス・ゼロ)は、既に王都全土に広がる魔力の糸を解析し、マリナのペンダントが発した「救難信号」をキャッチしていた。

(間に合え……! 叔父さんの警告は、このことだったのか!)

 リアンの視界では、祭りの群衆が静止した彫像のように流れていく。

 だが、誘拐犯たちの手口は、これまでの刺客とは次元が違っていた。彼らは、王都の地下に流れる『魔力中枢』のバイパスをハッキングし、「空間の断裂」を利用して移動していた。

「いた……!」

 リアンのナノ・サイトが、祭りの雑踏のわずかな歪みを捉えた。

 1000メートル先。ビルの屋上から屋上へと、マリナを抱えて跳躍する影。

 リアンは、走りながら弓を引いた。

 だが、放とうとした瞬間、彼の脳裏に叔父の言葉がリフレインする。

『この弓は、お前がAランクに到達した時、組織の制御を離れる』

 ギギギ……ッ!

 突如、ストーム・ウィスパーが、これまで聞いたこともないような異音を立て、リアンの魔力を強引に吸い込み始めた。弓自体が、まるで「目覚め」を拒むかのように暴れている。

「……くっ、このタイミングで!」

 リアンの集中力が、弓の制御と、マリナの追跡の間で分断される。

 そのわずかな、0.1秒の遅滞。

 放たれた矢は、誘拐犯の足元をかすめるに留まった。
 空間の断裂が閉じ、マリナの気配が、王都の闇の中へと完全に消失した。


 3. 孤高の誓い:Aランクの孤独

 祭りの花火が空を彩る中、リアンは一人、ビルの屋上に立ち尽くしていた。

 手元には、制御を取り戻したものの、冷たく輝くストーム・ウィスパー。

 周囲の冒険者たちは、Aランクの英雄が何をしているのかと不思議そうに見上げている。だが、リアンには彼らの声は届かない。

「マリナさん……」

 リアンは、地面に落ちていた、マリナの髪飾りを拾い上げた。

 ナノレベルの解析をするまでもない。そこには、組織の総帥、エグゼスの刻印が、挑発するように残されていた。

「叔父さん。あなたは言ったね。この弓は、組織を出し抜くためのものだと」

 リアンの瞳から、一切の迷いが消えた。

 これまでの「全距離支配」は、敵を無力化するためのものだった。

 だが、これからの弓術は、大切な者を取り戻し、組織を根絶やしにするための「処刑」の技術へと変わる。

「影の円卓。……お前たちの『円卓』を、一本の矢で粉砕してやる」

 Aランク冒険者リアン・アークライト。

 彼は、初めて手に入れた「最高の地位」を、たった一晩で「最強の復讐者」としての覚悟へと燃料(くべ)た。

 王都の祭典の喧騒を背に、リアンは一人、組織の隠れ家があると言われる極北の地、『氷獄の塔』を見据えた。
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