【悪役令嬢ゲームブック】正しいルートでトゥルーエンドを【ルートは7通り】

九十九沢 茶屋

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【27】 ─演奏室 13時─

 演奏室の扉を少しだけ開けると、そこからは誰かがいるのか、曲が耳に入ってきた。

「あら、この音色は……──」

 聞き馴染みのある音色に、私はクスッと笑みを浮かべると、音を立てない様に少し開けた扉から、中を覗き見る。

 視線の先には、優雅な音色を響かせるバイオリンの音と、それを弾いている義弟のマティアスの姿が目に入ってきた。


 義弟の名前はマティアス、マティアス・ルントシュテット。わたくしの三つ下の義弟。
 
 お母様がわたくしを産んだ後亡くなってしまって、お父様が他に妾を作る事をよしとしない事もあり、我が家の侯爵家の跡継ぎとして、マティアスは養子としてやってきたのだ。

 とは言っても、無理やりお金でとかご家族から引き剝がしてとか……ではない。
 マティアスの本当のご両親は、彼が幼い頃に、事故で亡くなってしまった事もあって、うちが引き取ったという経緯なのよね。

 お父様はマティアスにも、不当な扱いをする事なく、わたくしと分け隔てなく愛情を注いで育ててくれ、利発で実直な子に育った。

 跡継ぎとして育ててはいたけれど、マティアスが10の歳を迎えた時に、彼の両親、生い立ちについてもきちんと両親は知らせた。
 社交界で会合などで、これから公爵家の嫡男としてやっていくのに、耳障りな事を言ってくる輩はごまんといる。その前にきちんと伝えたのだと言う事だった。

 話を聞いたマティアスは、驚いてはいたけど、落ち着いて静かでもいた。一週間だけ考える時間を欲しいとの言葉に、私たちは頷くと、マティアスは一週間部屋から出てこなかった。

 大丈夫なのかと心配になったけれど、一週間後に、話してくれたこと、育ててくれた事に感謝しする事、きちんと公爵家の跡継ぎとして、恥じない様にしていくと、晴れやかな顔で言ってくれたのを、今も覚えている。
 今では跡継ぎとして、お父様の仕事をよく手伝っているのを見る様になった、わたくしの自慢の義弟。

 
 そんなマティアスの趣味の一つが、バイオリンの演奏だ。
 プロ顔負けの演奏の腕前なので、跡継ぎでなければ、演奏家としてやっていけたかもしれない程の腕前なのよね。本人はそこまでではないと言っているけれど。

 そしてそんなマティアスのバイオリンの演奏を見るのが好きな私は、ひょっこりと扉から顔を覗かせた。

「……! 義姉さま!」

 わたくしいの姿に気が付いた義弟が、演奏の手を止めると、にこっと笑ってこっちを見た。

⇒【69】へ進む



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【28】

 ベルツ男爵令嬢の突然の叫びに、ただでさえ静かだったこの会場が、水を打ったように静かになる。

「リ、リーリア……? その資料集? とやらは?」
「キリルもキリルだわ!! なんでそんな影が王様にいるなんて教えてくれなかったのよ!」
「え? でも影を使うなんて、本来よほどの事がない限り不要だし、リーリアが王妃になれば影の事だって勿論王妃教育で教わる事だぞ……?」
「そうじゃなくて!! 先に知っておきたかったのに!」
「な、んでだ……?」

「そんなのがいるって知ってたら、わたしもっと上手く立ち回ったもん! 悪役令嬢からイジメられてる証拠とか、きちんと誰にもバレない様に作るくらい考えたのに!! 信じらんない!」

「っ……!」

 自分でこれ以上なく、自白と言うか自爆してしまってるけれども、彼女は気が付いてないわね。

 やっぱり彼女も転生者だったのか。うん、予想はしてたし、むしろ「ですよねーお約束ですよねー」だけれど。

 わたくしの事よりも、殿下が割と本気で泣きそうな顔になってるわ。
 まぁ、影から報告される前に、好いて信じていた人からガッツリ嘘でした!って言われたようなものだものね。仕方ないけれど。

「あんたもよ!! あんたもどうせ転生者なんでしょ!! クソッ、キリルも他の攻略対象達も好感度MAXのルートだったから、それなら大丈夫かなと思ってたのに!」

 殿下を詰ってるかと思えば、わたくしに今度は言いたい放題叫び出して来た。
 あぁ、プリンセスエンドではなく、逆ハーエンド狙ってたの。気が付かなかったけれど、他の攻略対象も落としていたのね。

「キリル!! 私の事好きなら、あの悪役令嬢を早く殺すなり、薬漬けにするなり、性奴隷にして娼館に売るなりしてよ!」
「リ……リア……」

 隠す気が無くなったのか、ベルツ男爵令嬢もとい、ヒロイン転生者の彼女は、殿下に噛みつかんばかりに叫び出した。
 彼女の言葉に相当ショックだったのか、殿下が瞳を見開いて固まってしまっている。

 清純可憐な少女と思っていた所に、そうでは無いと言わんばかりの本性を見せられたのは同情するけれども。
 そもそも殿下が浮気をしなければ良かっただけなのですよね。

「殿下」
「ト、トルテリーゼ……」

 あら、その呼び方久しぶりね。何の感情も沸かないけれど。

「わたくしからは、この場でこれ以上申し上げる事はございません。また、ベルツ男爵令嬢の行動についても、ハッキリさせる気はございません」

「改めて陛下の御前で、ハッキリさせましょう?」

「うるさいうるさい! 何が陛下の御前でー、よ! アンタみたいな悪役令嬢は、わたしの掌の上で、シナリオ通りに躍らせられてなさいよ!!」

 ベルツ男爵令嬢が叫ぶと、殿下をドンッと押して離れると、隠し持っていたドス黒いナイフをスカートの裾から取り出し、私目掛けて向かって来た。

 え、刃物を隠し持っていたの?

 そんな流れになるとは思わなかったので、わたくしもビックリしてしまい、体が動かず。
 周囲からは悲鳴が上がる中、刺される! と思ったその時。

「義姉さまに近付くな!」

 エスコートとして来てくれてたマティの声が響き渡り、サッとわたくしの前に出て来た。

 そのまま帯剣していた剣を抜くと、ベルツ男爵令嬢の手にしていたナイフを弾くと、そのまま彼女の方へ走りより、柄頭の部分をお腹にくらわせる。

 ドスッといい音がしたので、かなり強く当てたようで、ベルツ男爵令嬢も「ぐへぁっ」という、女の子が出すには中々厳しいくぐもった声を上げると、そのままバタリと倒れてしまった。胃の中のものを吐き出さく事なく気を失ったのは不幸中の幸いかしらね。

「義姉さま、大丈夫?」
「えぇ、わたくしは近寄られただけで、触れる前にマティか対応してくれたもの。怪我とかも何もしてないわ」
「そう、良かった」

 ホッと息を吐くマティに、わたくしも思わず微笑み返す。

「リ、リーリア!」

 倒れたままの彼女へ殿下が近付くも、先程のやり取りを思い出したからなのか、抱き上げるべきか悩んでるようだけれど。
 正直そこはもう、わたくしが関与する所でも無いのだし。

「殿下。婚約諸々、全ては明日、陛下と王妃陛下の御前にてお話しましょう」
「ま、待ってくれ、トルデリーゼ」


「卒業パーティにお越しの皆々様、せっかくの祝いの場を汚してしまった事、心よりお詫び申し上げます。後ほど、改めて我が家から謝罪のご連絡をさせて頂きたいと思います」

 わたくしは殿下の言葉を遮り、くるりと周囲の皆様方へと向き直り、お詫びを告げた。

「本日、私どもはこのまま退場致します。皆様方は、どうぞ引き続きパーティを、楽しんでくださればと思います。……それでは、ごきげんよう」


 そうして、わたくしはカーテシーを、マティはボウ・アンド・スクレープをして皆様への挨拶を済ませ、会場を後にしたのだった。 



⇒【32】へ進む



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