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数分後…

明人は、男子更衣室の近くの廊下の窓辺で、晴れ渡る外を見ていた。

恒輝と他のクラスメートが、次の授業の柔道着に着替えるのを待っていた。

そこに、ふと…佐々木が通りかか
る。

佐々木は、回りに人がいない事を確認すると、明人の背中に声をかけた。

「明人…」

明人は、声で誰かが分かると振り返り、恒輝に向けている穏やかさではなく、ただ淡々とした表情を向けた。

佐々木は、薄っすら笑いながら、
皮肉っぽく喋り始めた。

「俺は…赤ん坊の頃からずっと一緒にいた明人は、望まなくても沢山のアルファが勝手に無償で下僕になってくれて、アルファ達の上に君臨していく女王様だと思っていたが、まさか…こんなに献身的なお姫様だったとは知らなかったよ…余りに素晴らしい献身ぶりで、見ていて涙が出そうだよ…」

明人は黙ったまま、目を眇めた。

佐々木は、その明人の威嚇すら美しいと感嘆しつつ続けた。

「けど…その相手が…事もあろう
に、あのどうしようも無い西島だとはな…」

その言葉に、明人はキッとなり佐
々木を睨んで言い放った。

「黙れ!大河!いくら幼馴染で付き合いの長いお前でも、俺のたった1人のアルファを、俺のたった1人の番を悪く言うのは許さない!」

普通のオメガは、アルファに対して弱く従順なのが一般的だ。

だが、このアルファに対して圧倒的な姿こそが明人だと佐々木は思いながら、何故か笑いが止まらない。

「クッ…フフフッ…俺の…たった一人のアルファ…番ねぇ…」

更衣室から、着替え終わった生徒達が出て来そうな気配がした。

「又、このすぐ後で…明人…」

佐々木は右腕を上げ挨拶し、廊下の角をすぐ曲がった。

(このすぐ…後?)

柔道の授業と佐々木が結びつい
て、明人は嫌な予感がした。






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