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だが、それは明人にも分かっていた…

佐々木が、いつものアルファとしての力を、恒輝に阻止されている事も理解していた。

そして、明人は、さっき、自分が恒輝を止めようとした時を思い出す。

(いつもと大河の様子が違う…ごめん…西島君…俺は、たった一人の運命の番に余計な事をして、自分自身後悔する所だったよ…)

ただ静まり返る道場に、恒輝と、佐々木の息と、激しい畳の擦れる音だけがする。

そこに、一瞬の佐々木の隙が出来た事を恒輝が見定めた。

恒輝が佐々木の腕を大きく取り、投げる体勢に持って行こうとした。

佐々木はハッとして、恒輝の目を見たが、その瞬間…

その恒輝の目付きに、佐々木程の男の体が固まった。

「そこまで!」

折角の所だったのに、体育教師がタイムオーバーを出した。

恒輝も佐々木も激しい息をして、
1礼し、乱取りは終わった。

「いやー、流石ですね、佐々木先生。西島に気を使ってわざと力を抜いて下さって」

体育教師が、佐々木に近づきコソッと呟いた。

「えっ!あっ…あっ…ええ…」

佐々木は、笑顔で答えたが…本当
は…

(別に、力は…抜いてない…それに…)

佐々木はそう心の中で呟き、さっきの恒輝の目を思い出した。

(俺が…この俺が…西島に、あの西島の目に、一瞬ビビった…のか?)

佐々木は、余りのショックで放心し、恒輝の背中を見た。

その恒輝は、自分の席に帰ろうとして明人と視線が合い立ち止まる。

激しい掴み合いで恒輝の道着が乱れ、汗に塗れた上半身がかなり露出している。

それを明人は見て一瞬心臓を跳ねさせて顔を紅潮させたが…

そのまま明人は、優しく穏やかに恒輝に微笑んだ。

恒輝は、それにどんな表情をしていいのか戸惑い、3歳児のようにプイっと横を向く。

そしてそのまま、元居た所に戻ろうと明人の近くに来た。

すると…

さっと、明人が立ち上がり、恒輝のタオルを恒輝に差し出した。

そして…恒輝を見詰めて…

特に回りを全く気にする事も無く、まるでここに恒輝と明人しかいないかのように恒輝に告げた。

「カッコ良かった…凄く…カッコ良かったよ…」

「……」

恒輝は、明人を見詰め無言のままで次の言葉を失い…

タオルを受け取ったはずの恒輝の手から、それがサラリと畳に落ちた。

そして…

佐々木所か回りにいたクラスメート全員が、その様子を見てあっけに取られポッカーンとしてしまった。







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