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違和感を覚えます
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煌耶と付き合ってから3回目の夏休みを迎え、インターン先がいくつか決まると、就職がより現実的に見えてきた舞琴は、久々の休みに約束した場所で煌耶を待っていた。
普段なら車で家まで迎えに来ると、しつこいくらいの煌耶だが、今日に限っては電車移動出来る距離なので、たまには外で待ち合わせがしたいとごねて、なんとか説き伏せた。
黒いオープンショルダーのシフォンワンピースに、フラットな編み上げサンダルを履いて、髪の毛はおさげにした髪をほぐしてみた。久々にデートするので、気合いを入れ過ぎただろうか。
「あら?貴方、あの時の」
夏休みで人がごった返す駅前で、突然そう言って腕を掴まれて舞琴はギョッとする。
「え?」
「やっぱり!私を覚えてないかしら。去年海で」
「……?」
「ほら!カッコいい背の高い彼氏と、海に遊びに来てたわよね?名刺を渡したんだけど」
「……ああ、もしかして雑誌の」
「そう。そうよ!覚えててくれたのね」
女性は嬉しそうに満面の笑みを作ると、改めて舞琴に名刺を差し出して、azaleaの編集長をしてます高山ですと頭を下げる。
以前は良く分からなかったが、azaleaと言えばめちゃくちゃ有名な女性向け雑誌だ。舞琴もうっかり、そのネームバリューにやられて名刺を受け取ってしまう。
「すみませんけど、そういうのは興味がないので」
それでもなんとか先んじて断りを入れて、すぐに会話が終わるように牽制するが、高山の方は会話を終わらせたくない様子だ。
そんなこと言わずにと、ごり押しして舞琴の隣りに立つと、悪質な業者並みに舞琴を誘ってくる。
「私もこんなに気になった子は初めてなの。一回だけで良いのよ。それで面白いと感じたら続けてくれて良いし、嫌ならその一度だけで大丈夫だから」
「いや、もっと素敵な女性が沢山居るのに、私なんかじゃおかしいですから」
「そんなことないわよ。貴方だからお願いしてるの。それに1年前より益々綺麗になってるじゃない。こんなところで会えたのも運命よ」
「いや勘違いだと思います」
どうにかして逃げられないかと困惑していると、向こうから見知った人影が近付いてきて、ようやくホッとする。
「すみません。その子に何か用事ですか」
「あら、貴方あの時の彼氏くんね、貴方も素敵になったわね!」
ほら去年海でと、煌耶に対しても動じる様子がない高山に露骨に嫌な顔を向けると、煌耶は舞琴を庇うような形で間に割って入り、けれど落ち着いた声で断りを入れる。
「あの時はっきりお断りしましたよね?そういうことが迷惑だと感じる人間も居るんです。これから予定がありますので失礼します」
舞琴の手を握って行こうと呟くと、その場に高山を残して改札を抜ける。
「なんなのあの人。怖いくらいしつこいね」
「ごめんね煌耶。ちょっとボーッとしてて、気付く前に話し掛けられちゃった」
「仕方ないよ。会ったのもだいぶ前だし、女の人だから警戒心も薄れるよ」
「ね。なんか偉くなったみたいで、今はazaleaの編集長なんだって」
「へえ。俺でも聞いたことある雑誌だね。まあ確かに舞琴に声を掛けるのは、百歩譲って見る目あるとは思うけどね」
「また、身内贔屓が酷い。私、煌耶以外にモテたことないよ」
笑いながら煌耶の顔を見上げると、困ったように笑う煌耶と目が合って、舞琴は少し驚いた。
電車に乗って映画館に行くと、楽しみにしていた映画を二本とも観ることにしてチケットを購入し、時間を潰すためにカフェに入る。
夏休みの間に遠出する予定を沢山立てたので、その準備をどうしようかと、騒がしくなってきた店内で細かいことを決めていく。
「まずキャンプだね。道具は現地でレンタル出来るところなら、そんなに荷物を持ち込まなくて済むけど、テントはさすがに買わないとだよね」
「ああ、うん」
「煌耶?」
「あ、ごめん。ちょっと別のこと考えてた。テントだよね、二人用の小さいのでも良いけど、もう少し大きいのでも良い気がするね。あと寝袋も要るか」
少しだけ煌耶の様子がおかしい気がしたが、普通に楽しそうに会話しているので、気のせいかも知れない。
心配になって顔を覗き込むが、可愛いとかキスするよと揶揄われているうちに、色々と気にし過ぎかも知れないと思って、舞琴は話に集中することにした。
時間が来て、その後映画を見てる間も、何か言いようのない違和感を覚えたが、顔を覗き込むといつもの笑顔が向けられるので、その違和感を上手く説明出来る自信がなかった。
「ねえ煌耶、なにかあったんじゃないの」
「ん?どうかしたの」
「それを今、私が煌耶に聞いてるんだけど」
「別になにもないよ。なにか気になるの?俺なんか変かな」
困ったように眉尻を下げて小さく笑うと、本当になにもないと煌耶は繰り返して苦笑するだけだった。
普段なら車で家まで迎えに来ると、しつこいくらいの煌耶だが、今日に限っては電車移動出来る距離なので、たまには外で待ち合わせがしたいとごねて、なんとか説き伏せた。
黒いオープンショルダーのシフォンワンピースに、フラットな編み上げサンダルを履いて、髪の毛はおさげにした髪をほぐしてみた。久々にデートするので、気合いを入れ過ぎただろうか。
「あら?貴方、あの時の」
夏休みで人がごった返す駅前で、突然そう言って腕を掴まれて舞琴はギョッとする。
「え?」
「やっぱり!私を覚えてないかしら。去年海で」
「……?」
「ほら!カッコいい背の高い彼氏と、海に遊びに来てたわよね?名刺を渡したんだけど」
「……ああ、もしかして雑誌の」
「そう。そうよ!覚えててくれたのね」
女性は嬉しそうに満面の笑みを作ると、改めて舞琴に名刺を差し出して、azaleaの編集長をしてます高山ですと頭を下げる。
以前は良く分からなかったが、azaleaと言えばめちゃくちゃ有名な女性向け雑誌だ。舞琴もうっかり、そのネームバリューにやられて名刺を受け取ってしまう。
「すみませんけど、そういうのは興味がないので」
それでもなんとか先んじて断りを入れて、すぐに会話が終わるように牽制するが、高山の方は会話を終わらせたくない様子だ。
そんなこと言わずにと、ごり押しして舞琴の隣りに立つと、悪質な業者並みに舞琴を誘ってくる。
「私もこんなに気になった子は初めてなの。一回だけで良いのよ。それで面白いと感じたら続けてくれて良いし、嫌ならその一度だけで大丈夫だから」
「いや、もっと素敵な女性が沢山居るのに、私なんかじゃおかしいですから」
「そんなことないわよ。貴方だからお願いしてるの。それに1年前より益々綺麗になってるじゃない。こんなところで会えたのも運命よ」
「いや勘違いだと思います」
どうにかして逃げられないかと困惑していると、向こうから見知った人影が近付いてきて、ようやくホッとする。
「すみません。その子に何か用事ですか」
「あら、貴方あの時の彼氏くんね、貴方も素敵になったわね!」
ほら去年海でと、煌耶に対しても動じる様子がない高山に露骨に嫌な顔を向けると、煌耶は舞琴を庇うような形で間に割って入り、けれど落ち着いた声で断りを入れる。
「あの時はっきりお断りしましたよね?そういうことが迷惑だと感じる人間も居るんです。これから予定がありますので失礼します」
舞琴の手を握って行こうと呟くと、その場に高山を残して改札を抜ける。
「なんなのあの人。怖いくらいしつこいね」
「ごめんね煌耶。ちょっとボーッとしてて、気付く前に話し掛けられちゃった」
「仕方ないよ。会ったのもだいぶ前だし、女の人だから警戒心も薄れるよ」
「ね。なんか偉くなったみたいで、今はazaleaの編集長なんだって」
「へえ。俺でも聞いたことある雑誌だね。まあ確かに舞琴に声を掛けるのは、百歩譲って見る目あるとは思うけどね」
「また、身内贔屓が酷い。私、煌耶以外にモテたことないよ」
笑いながら煌耶の顔を見上げると、困ったように笑う煌耶と目が合って、舞琴は少し驚いた。
電車に乗って映画館に行くと、楽しみにしていた映画を二本とも観ることにしてチケットを購入し、時間を潰すためにカフェに入る。
夏休みの間に遠出する予定を沢山立てたので、その準備をどうしようかと、騒がしくなってきた店内で細かいことを決めていく。
「まずキャンプだね。道具は現地でレンタル出来るところなら、そんなに荷物を持ち込まなくて済むけど、テントはさすがに買わないとだよね」
「ああ、うん」
「煌耶?」
「あ、ごめん。ちょっと別のこと考えてた。テントだよね、二人用の小さいのでも良いけど、もう少し大きいのでも良い気がするね。あと寝袋も要るか」
少しだけ煌耶の様子がおかしい気がしたが、普通に楽しそうに会話しているので、気のせいかも知れない。
心配になって顔を覗き込むが、可愛いとかキスするよと揶揄われているうちに、色々と気にし過ぎかも知れないと思って、舞琴は話に集中することにした。
時間が来て、その後映画を見てる間も、何か言いようのない違和感を覚えたが、顔を覗き込むといつもの笑顔が向けられるので、その違和感を上手く説明出来る自信がなかった。
「ねえ煌耶、なにかあったんじゃないの」
「ん?どうかしたの」
「それを今、私が煌耶に聞いてるんだけど」
「別になにもないよ。なにか気になるの?俺なんか変かな」
困ったように眉尻を下げて小さく笑うと、本当になにもないと煌耶は繰り返して苦笑するだけだった。
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