ぼっちの俺にはラブコメは訪れないんですか?

最東 シカル

文字の大きさ
52 / 60
第3章 これから、変わる

第50話 アドリブ

しおりを挟む
 
 ――2Dの劇、『ヘンゼルとグレーテル』は無事成功した

 最初こそ役者陣のあたふたとした様子に皆不安が募っていたが、いざ本番になると西条と似非武者は練習の時以上の演技力を見せてくれた。

「お疲れー!皆最高の演技だったわよ!他のクラスにも負けていない素晴らしい劇だったと思う!」

 委員長が興奮気味にみんなを褒め称える。

「いやー緊張したけど、なんとか・・・」

「まぁ我なら当然の結果である」

「はっ、さっきまでキチガイみたいだった奴が何言ってんだか」

「なぬっ!それを言うならば西条殿もそうではないか!」

「いんや、俺も緊張はしていたがお前ほどじゃぁない」

「な、なんだとー!」

 本番が終わったというのに、またまた始まった口喧嘩。
 こいつらいつでもマイペースだな・・・。西条たちから目を背け反対側に顔を向けると、役者陣の女子と男子が和気藹々と会話をしていた。あいつらとうとう徹底的に無視され始めたね。それが一番効率的なんだろうけど。

「いやー楽しかった!やっぱり大勢の人の前で演技するって本当に楽しいねっ。」

 お母さん役の神咲さんが、手を大きく広げながら喜んでいる。彼女は、原作通り”最低な母”役をしっかりと、しかも高い演技力で披露して見せた。
 自分が生き残るために、血の繋がった2人の子供を見捨てる最低な母親。この『ヘンゼルとグレーテル』という童話は、一般的にはとても心がウキウキするような、子供向けの内容として知られている。だがそれは、原作の内容をかなりマイルドにしたものだ。原作の『ヘンゼルとグレーテル』はもっと生々しく、汚い人間の本性や良心の沙汰を描いたストーリーとなっている。
 
「美南、演技上手過ぎだよ・・・」

「そうかな?」

「うん。本当に泣きそうになったもん(笑)」

「えぇー!?私そんな怖かった?・・・あんまり自覚ないや」

 これこそ天才というのかもしれない。
 役に入り込み過ぎて、実際にその人物になったかのように錯覚することが、俳優の人に偶にいるらしい。もしかして神咲さんはそういうタイプなのかもしれない。
 そしてもちろん俺も彼女の演技力には驚かされた。特に、母親がヘンゼルとグレーテルを山奥に見捨てるシーンは圧巻だった。本当に一つの映画のワンシーンを見ているかのようだった。

「でもえりっちもとっても良かったよ。あの魔女を釜に落とすシーンは超スカッとしたもん!」

「そう?なら良かった」

 山奥で何の当てもなく途方に暮れていた時、ポツンとあったお菓子の家に目が眩んだヘンゼルとグレーテルは、魔女に囚われそして喰われようとしていた。
 
 だが、それを救ったのは妹であるグレーテルだった。幼いながらも聡明な頭を活かし、彼女は今から煮こまれ焼かれようとしていた釜に魔女を突き落としたのだった。そこから彼女は大急ぎで鉄の戸を閉めかんぬきを掛けた後、牢獄で囚われている兄、ヘンゼルを助け無事感動の再会を果たした。

「あっ、えりっちアドリブで演技したシーンあったよね?」

「・・・うん」

「セリフ飛んじゃったの?」

「・・・いや、違うよ。なんだが本番になってこっちの方が良いかなって思って・・・」

「へぇー凄いねえりっち、咄嗟にアドリブが出るなんて普通出来ないよっ」

「ありがとう」

 確かに、絵里奈のセリフが間違っていたなとは思っていた。だが敢えてアドリブを追加したとは思わなかった。そして何より、俺的にも絵里奈のアドリブの方がしっくり来た。

 絵里奈がアドリブを追加したシーンは、ヘンゼルとグレーテルが魔女を倒し、逃げのびた際に父と再会した時の会話だ。
 
 ヘンゼルとグレーテルの父親――似非武者が父親役――はとても心優しい人物だった。もちろん、ヘンゼルとグレーテルを見捨てると妻が言った時、彼は反対した。だがそれは残念なことに認められなかった。そうであるならな、離婚して子供たちを預かると言えば良いのだが、彼にはそうできない理由があった。
 父親は2人を見捨てたことに深い罪悪感と後悔の念を抱ぎ、毎日夜も満足に寝れない日々を過ごしていた。

 ――そしてある時、妻が野獣に喰われ死亡した

 彼はいいタイミングだと思い、せめて2人の亡骸を探し埋めてやろうと考え、2人を見捨てた山奥に行こうとした。
 そして出掛けようとした時、死んだはずのヘンゼルとグレーテルが家に帰ってきた。
 ヘンゼルとグレーテルは父親を見つけた時、勢いよく父親の首に抱き付いた。彼はなぜ生きている?とうわごとのように繰り返し聞いた。

「お菓子の家を食べて生き延びたわ」

 グレーテルは答える。

 父親は納得は出来なかったが、今は2人が無事だったことに喜ぶべきと考えた。

「お父さん、お母さんは・・・?」

 ヘンゼルが問う。

「死んだよ」

 ヘンゼルは驚いた顔を見せ、すぐ安堵した顔を見せた。

 原作通りならここでヘンゼルとグレーテルは歓喜の涙を流すはずだった。


 だがグレーテル――絵里奈――は、アドリブを加えた。

「なんで?私は会って言いたかった」

 疑問をぶつける。

「会って、なんで私達を捨てようとしたか聞きたかった。お母さんはなんであんなに私を嫌っていたの?・・・」  

 突然のアドリブに、父親役である似非武者は動揺していたが、絵里奈の意を瞬時にくみ取りアドリブにアドリブで応えた。


 口に出して言わなくちゃ分からない、か・・・。なぜ彼女がそのアドリブ加えたのか、聞くのは簡単だがそれは余りにも無粋な質問だろう。絵里奈にも、何か思う事があるのかもしれない。

「よしっ!劇は無事終了したし、あとは明日のメイド喫茶だけ。みんなで頑張りましょう!」

「「「おぉー!!!」」」

 委員長の掛け声にみんなで応える。

 素晴らしい劇を披露出来たのは事実だ。俺も道具作りを頑張った甲斐があるってもんだ。そして一番頑張った若山さん。彼女には後で色々とお礼を言おうかな。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

幼馴染に告白したら、交際契約書にサインを求められた件。クーリングオフは可能らしいけど、そんなつもりはない。

久野真一
青春
 羽多野幸久(はたのゆきひさ)は成績そこそこだけど、運動などそれ以外全般が優秀な高校二年生。  そんな彼が最近考えるのは想い人の、湯川雅(ゆかわみやび)。異常な頭の良さで「博士」のあだ名で呼ばれる才媛。  彼はある日、勇気を出して雅に告白したのだが―  「交際してくれるなら、この契約書にサインして欲しいの」とずれた返事がかえってきたのだった。  幸久は呆れつつも契約書を読むのだが、そこに書かれていたのは予想と少し違った、想いの籠もった、  ある意味ラブレターのような代物で―  彼女を想い続けた男の子と頭がいいけどどこかずれた思考を持つ彼女の、ちょっと変な、でもほっとする恋模様をお届けします。  全三話構成です。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』

まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。 朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。 「ご主人様の笑顔が見たいんです」 その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。 全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!? 甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。

失恋中なのに隣の幼馴染が僕をかまってきてウザいんですけど?

さいとう みさき
青春
雄太(ゆうた)は勇気を振り絞ってその思いを彼女に告げる。 しかしあっさりと玉砕。 クールビューティーで知られる彼女は皆が憧れる存在だった。 しかしそんな雄太が落ち込んでいる所を、幼馴染たちが寄ってたかってからかってくる。 そんな幼馴染の三大女神と呼ばれる彼女たちに今日も翻弄される雄太だったのだが…… 病み上がりなんで、こんなのです。 プロット無し、山なし、谷なし、落ちもなしです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...