虚しくても

Ryu

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第十三章

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大阪拘置所から刑務所に移送されるまでの間、確定房で過ごす事になる。
私は二舎五階から四舎一階へと移動した。
「よろしくお願いします」
雑居房のドアが開けられたので、私は部屋の中にいる人達に向かって挨拶をした。
ところが、私の正面に座っていたのは、目を丸くした公ちゃんだった。
まさかこんな偶然が起こるなんて考えてもいなかった。
この部屋では八人前後で生活して、朝から夕方まで室内で作業をする。
そんな生活を一ヶ月から二ヶ月送っている間に服役先が決まって、順次、刑務所へ移送されていく事になる。
数年ぶりに会った公ちゃんは、部屋で見事なまでに苛められていた。
その苛められ方も哀れな程だった。
しかし、ほぼ百パーセント公ちゃんが悪かったので、私にはどうする事も出来なかった。
そんなある日、公ちゃんと二人きりになる機会が出来た。
他の六人はみんな運動へ行き、公ちゃんと私だけ運動を辞退したのだが、それは勿論、公ちゃんの話を聞いてやるためだった。
「リュウジ、、、俺、どないしたらええねん、、、」
「、、、、、」
公ちゃんは塀の中の生活が初めてだったので、務め方が判っていなかったのだ。
「お前は判ってるやろけど、ほんまは俺、喧嘩なんか強ないんや、、、」
「、、、、、」
「昔、たまたま喧嘩して、たまたま勝った相手が小園のマッサンやっただけなんや、、、」
「、、、、、」
「それもあれがマッサンて判っとったら、俺、逃げとったわ、、、」
マッサンというのは小園中学校出身で、私より四歳年上、公ちゃんより二歳年上の先輩になる。
喧嘩愛好家、人を殴る事が趣味のような、地元では有名な怪物だった。
十代の頃、公ちゃんはそのマッサンとタイマンをはって勝った事があった。
それで公ちゃんは地元で有名になってしまったのだ。
「あんな、公ちゃん」
「うん」
「やるかやらんか、それだけの話やねん」
「、、、、、」
「公ちゃんがやるんやったら付きおうたるし、詫び入れる言うんやったら間に入ったるがな」
「、、、、、」
「どうせ、あいつら帰ってきたらどないかなんで」
「、、、、、」
運動に行っている六人は、地元の先輩と後輩とはいえ、標的にしている公ちゃんが、私と一緒に運動を辞退して部屋に残っているというだけで邪気を回すに決まっている。
案の定、運動から帰って来た六人は早速公ちゃんに絡んできた。
「お前鬱陶しいんじゃ、出て行かんかい」
その一人が公ちゃんに前蹴りを入れた。
それで公ちゃんにもスイッチが入ったんだろう。
うしろからその男の腰に手を回して持ち上げた。
公ちゃんは十代の頃に空手と柔道をやっていた。
なので、何かやってくれるんじゃないかと期待をこめて観戦していたら、、、
公ちゃんは、持ち上げている相手をそのまんまバックドロップしてしまった。
「いっぽん」
よせば良いのに、調子に乗った公ちゃんは右手人差し指で天井を指して、大声で勝利宣言をしてしまった。
おまけにでっかい屁までこきやがった。
「舐めとんかワレ」
公ちゃんの勝利宣言と、でっかい屁がゴングの代わりになって乱闘になったので、私は公ちゃんの加勢をするために乱闘の中へ入った。


この乱闘での懲罰を終えて、再び確定房で生活する事になった。
今度の部屋では良いメンバーに恵まれた。
三島組(当時)の寺田さん、清勇会(当時)の大石さん、松龍会(当時)の天野さん、義竜会(当時)の大川さん、幸導舎(当時)の友田さん達と一緒に過ごす事になった。
ここで、この部屋で一緒に過ごしていたメンバーの一人を紹介したいと思う。
姫路の田口さん、、、
彼は変質行為の常習者で、それで何度も服役しているという人だった。
彼は女性の驚く反応を見たり、悲鳴を聞く事に快感を感じるという話だった。
女性用トイレの個室に忍びこみ、隣の個室に女性が入ってくるのをひたすら待ち続ける。
そして、女性が入ってくると、壁の上から顔だけを覗かせるというのだ。
女性にすれば、用を足している最中に正面の壁の上から、にょっきり変態の顔が現れるのだからたまったものではないだろう。
またある時には、留守中の女性宅に忍びこみ、ベッドの中にもぐりこんで、ひたすら女性の帰りを待っている事もあるそうだ。
仕事を終えてから帰宅し、、、
シャワーでも浴びてベッドに入ろうとすれば、そこには見た事もない変態の顔が笑っているのだ。
女性にとってみれば、そんな恐ろしい事はないに違いない。
田口さんは、そんな瞬間の女性の驚く反応を見る事と、悲鳴を聞く事に快感を抱くというのだから、正真正銘の変質者であり、間違いなく病気なんだろう。
田口さんのような人物は意外と少なくはない。
私は身近な女性達が、田口さんのような人物と出会わずに済むように祈らずにはいられなかった。
田口さんのような人物や、痴漢、わいせつ行為、強姦等の罪状で収容されている人物は、監獄内でピンク犯と呼ばれ、苛めの標的とされる。
これは私の偏った偏見でしかないのかも知れない。
我々ボンクラにはガキの頃から、弱い者苛めはしてはいけない、喧嘩をするのはボンクラ同士だけといった、暗黙のルールが存在していた。
ピンク犯というのは大抵が真面目な人であったり、公務員のような堅い職業についている人だったりする。
ガキの頃、、、
弱い者苛めをしていたのはそういった、後々、堅い職業に就くような、真面目な子供が大半をしめていたように思える。
恐らくそういった人は、ストレス発散になるガス抜きの方法が判っていないんだろう。
そして、弱い者苛めの延長でピンク犯に成り下がってしまうのではないだろうか、、、
また、真面目な子供から苛められていた子供というのは、何も言い返す事が出来ない気の弱い子供だったりするのがお決まりのパターンだったようにも思える。
そうやって、子供の頃に苛められていた人が引きこもりになったり、、、
後々、凶悪犯罪を引き起こしているような気がしているのは、果たして私だけだろうか、、、
昨今のニュースを見ると、教師や公務員、警察官に至るまでがピンク犯に成り下がって、医療、介護現場で働いている人、引きこもっているような人等が凶悪犯罪を引き起こしているような気がしてならない。
そんな現状は、子供の頃からの環境に大きく影響を受けているのではないだろうか、、、
勿論、それは千差万別なんだろうし、私の偏った偏見でしかないだろう、、、
とにかく、弱い者苛めが人格破壊な事は間違いないと思う。


この部屋で暫く過ごした頃、ドラム缶コンクリート詰め殺人事件の蛇嶋君が下獄してくるという話が耳に入ってきた。
私は、この部屋に蛇嶋君を入れてもらえるように担当刑務官にかけあっていたのだが、蛇嶋君が下獄してくるよりも先に私の服役先が姫路少年刑務所に決まった。
姫路少年刑務所といえば、少し前に雄輝連合会の会長が入っていた。
ベティ主力メンバーの健一君やモトジ君も空港線暴走族殺人事件で入っていた。
喧嘩が多い事で有名な刑務所だった。


姫路少年刑務所に移送されてから判った事なんだけれど、、、
蛇嶋君は私が移送された翌日に下獄してきて、私がいた部屋に入ったそうだ。
そしてその後、京都刑務所へ送られたようだ。
寺田さんは徳島刑務所、大石さんは福島刑務所、天野さんは青森刑務所、大川さんは神戸刑務所、友田さんは仮釈放期間中の逮捕だったため、その後、未決囚になった筈だ。
そして公ちゃんは水戸少年刑務所に送られたと聞いている。
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