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ダークエルフの女王

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 仰向あおむけになっているダークエルフの目がカインをとらえ、にらみつける。
「なんでふた開けた!? ていうか誰よ? 店員てんいんじゃないっしょ?」
 ダークエルフはカインを警戒けいかいしている様子。

 警戒けいかいくため、まずは質問に答える必要がある。しかしカインは〝テンイン〟という響きの言葉を知らないため、最後の質問には答えられない。とりあえず、即答そくとう可能な二つ目の問いにこたえることにする。
「お前の所有者になったカインだ。よろしく」
 カインは握手をしようと右手を差し出す。利き手を相手に預ける行為には、敵意が無いこと、そして武器を持っていないこと示す意味がある。

 しかしダークエルフはカインの意に介さず、差し出された右手を振り払う。
「いやいや。初対面でお前呼び? 所有者になった? 超意味不イミフなんですけど!?」
 眉間みけんにシワを寄せ、すごむダークエルフ。

「と言われても、発見者に所有権しょゆうけんがあるとさだめられてるし……」
 カインは語尾ごびにごす。その理由、この決まりは宝箱の内容物ないようぶつが生物であることを想定そうていしたものではないからだ。宝物自身から不服ふふくを申し立てられた場合についてはさだめられていない。だからカインは、強く主張しゅちょうしたり断言することが出来ない。

 ダークエルフは腕を組み、首をかしげる。眉間みけんに寄せられていたシワは消失している。
法律ほうりつで、そうさだめられてるの?」
 先程さきほどまでのふてぶてしい態度たいどとは打って変わり、おだやかな口調。話を聞く意思はある様子。

 ずっと宝箱の中に居たのだから、外のことを知らないのも無理はない。カインは歴史的れきしてき経緯けいいを説明する。
「宝物の所有権を巡るいさかいが激化げきかし、死者が出るようになってしまった。そのような犠牲を抑制するため、協定が結ばれ取り決められたんだ」

「なるぅ。うちをめぐって争われるのはアガる展開てんかいだけど、死なれるのは後味あとあじ悪いかも……わかった。キミの彼女になったげる」
 ダークエルフはヒロイン的なものを想像している様子。今誤解ごかいかないと、後々のちのち面倒めんどうなことになると容易よういに想像出来る。

 カインがすべきことは、新たな誤解ごかいを生まないよう端的に伝えること。
むすぶのは主従しゅじゅう関係だ」
 口をあんぐり開けるダークエルフ。
「うっわぁ……ドンき! ヤバイやつ認定にんていだよ!」
「そういうルールなんだよ。所有物との関係が対等たいとうなはずがないだろう」
「そんなルールがあるわけないっしょ! 流石さすがにうちでも、おかしいってわかるし」

 このまま主張し合っても解決することは困難。
「であれば……うえの人に言われれば納得する?」
「知らん人の話を聞かされて納得するわけないっしょ。ねえ、あの棒拾ってきて」
 地面に落ちている枝を指差すダークエルフ。
 カインは棒を拾い、ダークエルフに手渡す。すると、カインはその棒で頭をペチッと叩かれる。
ひざまずいて」
「何故?」
「主従関係って言ってたじゃん。うちがキミを発見した。だからキミはうちに従う。そういうルール。女王様の命令に逆らうの? 早くひざまずいてよ」
 何の感情も読み取れない、無表情を体現するダークエルフ。ただ、命令が冗談ではないことだけは雰囲気から感じ取れる。
 そして、どうやら彼女はダークエルフの女王様らしい。要求を無碍むげにすることにより生じる影響がわからない以上、カインは従わざるをない状況に置かれている。

 ひざまずいたカインの頭頂部を踏み付けるダークエルフ。
「頭は下げる! わかった?」
「はい……」
「違う! 返事は〝ワン〟だよ。やり直し」
「ワン……」
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