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一章:傭兵フラウと聖女様

10.二人の狂犬①

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宿舎に今までありがとう、とお別れを告げ門前へと急ぐ。
リシテアとフィガナ、ルツなんて絶対に相性が悪いはずだ。なんとか揃う前に合流しなければ…。
本日は休みであろう私服姿の騎士達の前を通ると皆一様に青い顔で振り返る。えっそんなに酷い顔をしていたかな。
小走りで正面入口を出て、いざ戦場へ!と思い一歩踏み出したが二歩目で止まった。

遠くからでも分かるあの煌びやかな空間。何でしょうかあれは。
人目を惹きつける美男美女が門前にいるではないか。だがその三人はただならぬ雰囲気を醸し出しているため誰も近付けない。
今まさにそこに飛び込もうとしている私はある意味勇者では??正直行きたくねぇ~~!!!とウダウダと駄々をこねたいがそれをすると不審者になってしまうので、脳内に留めておく。
行くタイミングを逃し、どうしたものかと考えているとフィガナとばっちり目があった。
不満げな顔のフィガナが一瞬にして満面の笑みになった。


「フーーーーちゃぁーーーーーん!!!!!!」


「グエッ!!」


私に気付いたフィガナが勢いよく走ってきてそのまま抱きついてきた。
分厚い胸板に弾き飛ばされそうになったが手を引かれ腕の中に閉じ込められる。
顔を埋めるとふんわりと彼が普段から愛用している香水の香りがした。


「フーちゃん、フーちゃん!!無事で良かったぁ。アルくんから聞いたよ、酷い目にあったってっ…!!心配で仕方なかったから受けてた依頼速攻で終わらせて来たからね。よしよし、もう大丈夫だよ…オレたちがいるからね」


「ちょっ、フィガナ!離れてっ…苦しい」


「だぁめ、フーちゃんが無事だってこと、ちゃんと確認させて…」


「…フィガナ、もういいだろ。」



フィガナを止めに入ってくれたのは相棒のルツだった。ルツに手を握られ、引っ張られるが負けじとフィガナは私の首に腕を回した。
嬉しそうなフィガナとは真逆でルツは険しい表情をしている。


「アルバートからは大体聞いた。あの女と接触したってな…俺達も気を付けていたんだが、バレてたらしい。お前にとっちゃアレは害にしかならないから会わせたくなかったんだが」


「ティシーちゃんのこと、黙っててごめんね?知ったらフーちゃんを悲しませると思ってさ。ティシーちゃんの婚約者って立場だけど、オレの一番のお姫様はフーちゃんだけだからね」


私の首に顔をうずめながら話すフィガナと手を優しく握ってくるルツ。
全く話に集中できないので一度離れてもらう。


「とりあえず、二人とも離れて。聞いていると思うけど私は今回の件で、宿舎に戻れなくなったの。だからこれから拠点となる新しい家を探すのだけど…」


「うん!それも聞いてるよ~。依頼終わらしたらフーちゃんの手伝いをして来いってさ」


「あと護衛と荷物持ちだな。好きなもん買ってやるから早く行くぞ」


「ありがとう…じゃあ先ずは拠点から決めようかな。リシテア、場所なん…」


「さっさと行くぞ。ちんたらしてると日が暮れちまう」


「ちょっ!そんな引っ張らないでってルツ!」


「デートだねっっ!」と嬉しそうに引っ付いてくるフィガナ。ルツも眉間に皺を寄せてはいるが早く行こうとグイグイ引っ張ってくるため嫌ではないらしい。が、ちょっと待ってほしい。さっきからリシテアが一言も喋っていない。一度歩みを止めてリシテアを見るとニコニコと笑っていた。



「あぁー、忘れてた。リシテア様、ここからは俺達が引き受けるから城に戻って頂いて結構ですよ」



「オレとルツくんいれば大抵のことはどーにかなるからねー。あっ!おひとりでお戻り出来ないのであれば、従者を呼びますよ!三秒で!!」


「…ふふふふっ!元は私とフラウの二人で行く予定でしたのをお忘れかしら?貴女方こそお戻りになってもよろしいのよ?ティシーの婚約者様は色々お忙しいハズでは???」


「フラウの好みを知らないようなお方が一緒に買い物行ったところで喜ばせてあげられねえだろうが。黙ってお家に帰りな聖女様」


「オレ、女の子には優しくしたいタイプなんだよねー。乱暴したら流石に可哀想じゃん?ここは大人しく帰ったほうがいいよ?フーちゃんとのデート邪魔されたくねえのよ」



最大に煽り合いを始める三人に膝をつきそうになった。やっぱり相性は最悪だったらしい。きっと私が来る前からこの調子だったのだろうと簡単に予想がついた。


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