エロゲーの悪役に転生したはずなのに気付けば攻略対象者になっていた

柚木ハルカ

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80話

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 自分の中から響いてきた声。その声に包まれていくと同時に、スゥッと頭痛が消えた。身体が意識から離れているような、それでいて自分の思考で動かしているような、不思議な感覚。

「悪ぃな。このままじゃ女神のところに着くのが遅くなるから、勝手に代わったぜ。リュカに心配かけたくねぇしな」

 ――助かる。だが、表に出てきて大丈夫なのか?

「大丈夫じゃねぇ。あんま持たねぇから、急ぐぞ」

 ――ああ、急ごう。

 同意すると、ザガンは瞼を閉じ、女神の気配を探り始めた。怨念はずっと続いているものの、彼女の気配を感じられるようになっていた。向こうだ。

 それにしても、うるさい。だからか目を開くと、クッと嘲るように喉を鳴らす。

「いいねぇいいねぇ、良い憎悪じゃねぇか。だが俺を狂わすには足りねぇな。俺の憎悪はこんなもんじゃなかった。自分の憎悪に飲まれて愛する者の苦しみまでわからなくなるような、クソダセェもんじゃねぇんだよ。ああ、久しぶりに誰かを殺したくなってきた」

 まぁ、しないけどな。そんな内情が自然と浮かぶ。本当に不思議な感覚だ。そう考える俺自身の思考も並列してあるので、さらに不思議である。

 とにかく女神の場所が判明したので、どんどん進んでいく。身体が勝手に動いていく。

 数分後には、女神リュヌの元に着いた。事前情報通り、黒猫の銀ソックスで、体長は4mほど。正気を失って暴れていたら厄介だったものの、実際はグッタリした様子で目を閉じているだけ。不安要素が無くなり、ホッと吐息が漏れる。

「この中じゃ何も出来ねぇからな。女神を見つけたんだ、そろそろ元に戻るぞ」

 ――まださほど経っていないから、表に出ていて平気だろう?

「あー……、俺自身のことだから何を考えているかよくわかるが、俺はおまえであり、おまえは俺だからな? 今は俺が無理して表に出ているから並列思考になっているが、普段は意識も思考も同化してんだ。だからわざわざ危険を犯してまで、表に出ていたいなんて思わねぇよ。今はあくまでも、緊急事態だからだ」

 ――そうか、そうだったな。リュカを愛しているのも、俺でありザガンなんだ。

「毎晩抱かれているのもな。……ああクソ、思い出したら恥ずかしくなってきた。でも好きだ、リュカ、すげぇ好き」

 呼応するように俺も恥ずかしくなってきたし、それ以上に愛が溢れてくる。リュカ好きだ、大好き。

『――――……す、き?』

 うるさい怨念に混じり、微かに聞こえてきたのは、透明感のある声。もしかして女神か?

 とりあえずザガンが元に戻ろうとしてきたので、取り込むように覆いながら、魂を融合させていく。すると身体と意識がきちんと繋がり、思考も再び1つになった。

 そうして女神リュヌに触れる。掌からとてつもない生命力が感じられるが、気配は弱々しい。

「女神リュヌ、貴女を助けにきた」

 声をかけてみても、まったく動かなかった。先程の声は無意識だったのか。どうすれば彼女を問題無く起こせるだろう? 試しに揺すってみても駄目で、銀ソックスの前足を握ってみてもやはり駄目。

 ずっと聞こえてくる怨念に飲まれているのなら、魔瘴を消せば目覚めるかもしれない。女神を触手で守りながら魔法を撃ちまくれば、凝固している魔瘴を吹き飛ばせるだろう。だが今はダイブを発動しているので、他の魔法が使えない。同時に2つの魔法は使用出来無いから。ちなみにダイブを止めたら、窒息する。

 先程はどうして女神が反応したのか。……リュカを好きだと考えたから、か? これだけ負の感情が渦巻いている中で、正の感情を感じたから。ならばもっとリュカのことを考えれば、正気に戻ってくれるかもしれない。

 思い付いたら即実行。俺の感情がより伝わるように、大きな胴体に腕を回した。形態が猫であろうと女神に抱き付くのは失礼かもしれないが、緊急事態なので許してほしい。

 額も体躯に触れさせ、集中するように目を瞑る。そして頭に響き続けている怨念を振り払うように、リュカのことを考える。

 リュカの幸せそうな笑顔、名前を呼んでくる嬉しそうな声。抱き締められてリュカに包まれると、ホッとするし俺も幸せになる。額にキスされ、顔を上げれば唇にもちゅっと触れてきて。そうして優しく愛を囁いてくれる。ザガン大好き、と。

「俺もリュカが大好きだ。愛している」

 闇属性なのに、差別せずに話しかけてくれた。何度もギルド依頼に誘われ、仕事するリュカを眺めながらいろんな話をした。仕事のあとも2人で街を歩き、夕飯まで一緒に食べたこともある。ゴンドラに乗り、桜も眺めた。
 それらのほとんどがデートだと気付いたのは、リュカに指摘されてからだったが。

 そういえば初めて抱かれたのは、魔力枯渇で気絶したせいだったな。起きたら繋がっていたのには驚いたが、嫌悪感が無かったのは、その頃からリュカに好意を寄せていたからだろう。

 なにせバレンタインは俺から板チョコを食べるかと提案し、ホワイトデーでもお返しクッキーを当然のように2人で食べていたのだ。バレンタインだけなら友情の範囲内でも、ホワイトデーまで男2人でこなすのは、さすがに友情を越えている。
 ただし当時は独りで生きていたし、男同士なので、なかなか恋愛に結び付かなかった。

 俺自身は自覚していなかった恋心にリュカが気付いていたのは、神ソレイユの眷属だからだろう。正の感情に、とても敏感だから。
 なので告白を断ってしまった時も、リュカは諦めないでくれた。恋になるまで待つと言ってくれた。それまでに、たくさんの愛を伝えると。

 もしリュカが諦めていたら――俺は死んでいた。

 ドラゴン戦直後、魔力枯渇で死にかけた俺を、必死に抱いてくれたリュカ。それまでに何度もセックスして彼の魔力を吸収しやすくなっていたから、生きながらえた。リュカが諦めずに、俺を愛し続けてくれたから。

 そもそもリュカがドラゴン戦に参加していなかったら、俺は確実に死んでいただろう。ドラゴン5体相手に、独りでは無理だったから。
 俺を守りたいと、努力して強くなってくれたのだ。そうして2人で支え合うことの強さと、仲間達と共に歩むことの強さを教えてくれた。

「リュカ……リュカ、……好きだ、リュカ」

 リュカのことを考えると、たくさん浮かんでくる。まだ出会ってから1年も経っていないのに、俺の中は、こんなにもリュカでいっぱいだ。

 恋を自覚して、それでも闇属性だから別行動しようとした時も、リュカは慌てて説得してきた。全てを懸けて守っていく、だから傍にいてほしいと。

 リュカがたくさんの愛をくれるから、差別と向き合えた。リュカが支えてくれるから、俺もリュカを支え、守っていきたいと思うようになった。ずっと傍にいたいと。その為には、差別を無くさなければならない。
 俺をここまで突き動かした、もう半分の要因は、もちろんリュカである。

 千年前の真実を知ったあと、オロバスから申し込まれた手合わせでも、リュカは決して諦めなかった。相手は7千年以上生きている悪魔なのに絶対勝つと約束してくれて、本当に勝利してくれた。そう、絶対に諦めないことも、リュカが教えてくれたんだ。

 ありがとうリュカ。俺を諦めないでくれて。俺を愛してくれて。お前がいたから、俺は今、ここにいる。

「好きだリュカ。好き、好き、好き、好き」

 愛が溢れてくるまま、言葉を紡いでいく。うるさい怨念を掻き消すように。リュカが好きだ、好き、好き、好き。

『――私は、ソレイユが、好き』

 また怨念ではない声が聞こえてきた。今度はハッキリと。それに身じろぎしている。顔を上げれば、ゆっくりと瞼を開いた女神リュヌが、俺を見下ろしてきた。

『会いたかった。私の眷属』

 感情の読み取れないような、あまり抑揚の無い、静かな声。それでいてとても喜んでいるのが伝わってくるのは、彼女に触れているからか?

『そのまま、掴まっていて』

 咄嗟に離れようとしたら止められたので、言われた通り掴まっておく。するといきなりゴウッ! と突風が吹いた。あまりの強さに飛ばされそうになり、慌てて触手も伸ばして女神から離れないようにする。すると必然的にもふもふに顔を押し付ける状態になり、背後で何が起こっているのか確認出来無くなった。

 ふわふわの毛に包まれながら、ゴウゴウと吹き荒れている音を聞く。しばらくすれば風は弱まっていき、止んだ。

『もう大丈夫』

 声をかけられたので、触手を消して、彼女から少し離れる。いつの間にか怨念が聞こえなくなっているし、周囲の魔瘴もすっかり消えていた。そして傍に浮かんでいる、黒光りする宝石。なるほど、魔瘴をリュミエールに変換したのか。あれだけの魔瘴を一気に集めて凝縮させたから、突風が吹いたと。

 魔瘴が消えたのでダイブは止めたが、落下せずに宙に浮かんでいるのは、女神の力に包まれているからだろう。

「ザガン!」

 呼ばれた声に振り返れば、リュカがよろけながら歩いてきていた。駆け寄ろうとして前屈みになると、そのまま地面に下りていき、無事着地。すぐにリュカの、フラフラしている身体を支える。

「リュカ、無事で良かった。よく1人で耐えてくれた」
「ザガンも、帰ってきてくれて良かった。魔瘴に飲み込まれたまま、出てこなかったらどうしようって、不安だったから」

 ぎゅうぎゅう抱き締められて、頭に頬を擦り寄せられる。やはりリュカに包まれると心地良くてホッとするし、それだけで幸せになる。だが抱き合っている場合ではない。

 ぽんぽん背中を叩いてから腕を離し、リュカの身体をきちんと確認する。

「外傷は無いな? 防具も、大きな破損はしていないか」

 あちこち擦れていたり汚れてはいるものの、この程度なら骨折まではしていないはず。ふらついていたのは、すさまじい威力の攻撃を防御しなければならないという、極度の緊張感に晒されていた疲労のせいか。リュカは光属性なので闇属性に弱く、しかも現在は夜である。

「闇属性が強くなる時間帯で、よくこの程度に抑えられたな」
「……えっと、物理攻撃ならガード出来たんだけどね。でもさすがにあの威力の魔法を防御するのは難しくて、周辺の建物はこの有様だよ。前にザガンから貰った魔導バリアも出したんだけど、数発で壊れちゃったし。俺の為に作ってくれたのに、ごめんね」
「それなら修理すれば良いだけだから、気にするな」

 言われてみれば建物もボロボロになってるが、リュカが無事であることに比べれば、些細な問題だろう。

『王城のほとんどは、魔法で造られてる。これくらいなら、修理するのは簡単』

 いつの間にか、女神リュヌが傍に来ていた。黒い靄を纏っているし、とてつもない強さは感じるものの、姿が猫だからかどうにも和んでしまう。だがリュカからは緊張感が伝わってきたし、しかも地面に膝を付いて、頭を下げた。そうか、相手は女神なのだから、礼を尽くさねばならないか。

『私の眷属は、必要無い』

 ならば俺も、と両手を前に出しかけたところで牽制されてしまい、結局リュカの隣で立ったまま。ほんの少ししか動いていないのに、女神は俺の行動がわかるらしい。

「お初にお目に掛かります、女神リュヌ。私はソレイユ王国第2王子、リュカ・ソレイユでございます。この国を千年に渡り守り続けてくださっていること、まことに感謝いたします」
『初めまして、ソレイユの眷属。君のことは、私の眷属から時々伝わってきていた』

 女神がリュカの頭にそっと鼻を近付ける。するとリュカは、優しくあたたかな光に包まれた。たぶんヒール。詠唱無しで魔法を使えるなんて、さすがは女神である。

『私の眷属と同じように、楽にして。畏まられるのは、好きじゃない』
「わかりました」

 リュカは立ち上がると、すかさず俺の腰を抱いてきた。俺に触れているのが肉体的にも精神的にも楽なのは理解しているが、神前なので自重すべきでは。……リュカだから良いか。

 女神もまったく気にしていないようで、数歩後ろに下がると、モンスター特有の纏っている魔瘴を、ブワッと膨らませた。靄が変形していき、すぐに人型になる。
 もの静かな雰囲気の、とても美しい少女だ。身長は150cm程度、長い黒髪は艶やかで、一部分だけが銀髪。

 彼女は人化を終えると、浮いているリュミエールを引き寄せた。女神の力により禍々しさは抑えられているようだが、それでも見ているだけで危険を感じる。

『そう、とても危険。弱き者達が触れたら、発狂して死ぬ。もし触れてマジックバッグにしまえたとしても、中から腐敗してバッグが崩れ、塊は何事も無かったかのようにその場に残る。魔瘴を集めた子達も、いくつかの袋に分けて、保管していたはず』

 言葉にしていないのに、女神が同意してきた。女神テールは俺の思考までは読み取れなかったのに、女神リュヌはわかるのだな。眷属だからか。

『そう、眷属だから』

 また返答された。彼女には俺の思考が筒抜けらしい。女神相手に知られて困ることは無いので構わないが、意思伝達で会話するとリュカが内容を把握出来無いので、口から発した言葉だけに返答してほしい。
 そう考えると、女神は頷くだけに留めてくれた。

『君達がリュミエールと呼んでいるこの塊は、強い光魔法でないと壊せない。母なる世界が用意してくれた石か、あるいはソレイユくらいの魔力でないと。……ソレイユの眷属、君には彼の正気を戻す算段があると、私の眷属から伝わってきた。それは、本当?』
「はい。確実とは言い切れませんが」

 リュカはベルトに提げているマジックバッグ3つのうち、1つを外した。そういえば結局、どんな方法なのか、秘密のままだったな。興味が湧いてじっと見ていると、リュカはそのバッグを開く。

 するとブワッ! と、大量の光が溢れ出した。闇夜に包まれている中、どんどん溢れてくる光が眩しくて、目を瞑りながら顔を背ける。

「ああ眩しかったね。ごめんねザガン」
「ん。こんなに眩しいのに、リュカは平気なのか」
「そうだね。光属性だからかな」

 話している間にも間近から光は止み、見上げれば、まばゆい光の魔力……魔清で覆い尽くされていた。クラージュ達が集めた魔瘴には遠く及ばないものの、充分すごい量である。しかも2つ目のマジックバッグも開けると、さらに魔清が溢れてきた。

「魔清、集められるようになっていたんだな」
「うん。ザガンが魔瘴や魔清収集について教えてくれた日、君が眠ったあとに練習したら、出来るようになったよ」
「…………」

 教えたその日に出来るようになったのに、今まで秘密にされていたのか。それはちょっと拗ねたくなるが、しかしこのタイミングで魔清を出したのは、これが神ソレイユを救う方法になるからだろう。

 ――『ごめんね、ザガンには言えないんだ。ザガンに教えたら、変に気負っちゃうから。自然体のまま俺の傍にいてくれることが重要だから』。

 以前そう言われたが、確かに、魔清を集めたいから正の感情をたくさん持ってほしいと頼まれたら、変に気負っていたと思う。何も知らなかったから、自然体のままリュカの傍で幸せを感じていられた。

 光と闇は表裏一体、真逆の反応が起こる。よって女神が大量の魔瘴を取り込んだせいで正気を失い邪神になるのなら、大量の魔清を取り込めば正気を戻せる。
 考えてみれば簡単に思い付きそうな方法だけれど、あくまでもリュカが、魔清収集出来ることが前提だ。

 それに、よくこれだけの魔清を集められたな。国中に神ソレイユの怨念が漂っていて、正の感情は相殺されるのに。まぁ室内やテントなど、密閉されている空間なら可能だが。しかし、そうなると。

「いったい、いつ魔清収集していた? これほどの量なら、ほぼ毎日集めていたはずだ。だが俺は、まったく気付かなかった」

 問いかけると、リュカはマジックバッグをベルトに装着し直しながらも、こちらに視線を向けてきた。そして少々申し訳無さそうに眉毛を下げながら、柔らかく微笑む。

「毎晩、エッチしたあとに集めてたよ。だからこの魔清は、ザガンが俺のこと大好きって気持ちや、俺とのエッチが気持ち良いっていう感情なんだ。もちろん半分以上は、俺のザガンに対しての愛だけど」
「そ、そうか」

 つまり俺が眠ったあとに、集めていたと。……すぐ傍で大量の魔力を使われていたのに気付かなかったなんて、気を抜きすぎじゃないか俺。いやでも、ベッドの中でリュカに抱き締められると、安心感と幸福感に包まれてすぐ眠ってしまうのだ。

 だがどうりで、毎朝俺の方が早く起きていたわけである。以前きちんと眠れているか聞いた時、俺の寝顔を堪能してから寝ていると返答されたが、魔清収集しながらだったらしい。

 内緒にされていたことがいろいろ判明して嬉しい反面、この大量の魔清がリュカとセックスした時の愛だと思うと、かなり恥ずかしい。目に見える形にされるとどうにも羞恥を抑えきれず、ぽぽぽと頬が火照ってしまう。

「ザガン可愛い」

 魔清の明るさのせいで照れているのがバレてしまい、愛しげに頬を擦り寄せられた。神前でイチャイチャするのはどうかと思うが、やはり女神リュヌは気にならないようだ。それどころか、魔清を見上げて感動している。

『なんて、素敵な魔清。2人の優しくあたたかな愛で、溢れてる。本当に素敵』
「お褒めいただき、ありがとうございます。ふふ、嬉しいねザガン」

 またしてもバレてさらに照れくさくなるが、今度は素直に頷いておく。リュカとの愛を素敵だと褒められるのは、とても嬉しい。リュカを、愛しているから。

『でもこれだけじゃ、彼を正気に戻すには足りない。ソレイユの眷属。私の愛も、魔清に変えてほしい。……私の、ソレイユへの愛を』
「もちろんです。ですが私の魔力量の関係で、一度に変換出来る量は多くありません。仲間が製作してくれたMPポーションのおかげで回復はし続けますが、それでも必要な量を集めるのに、どれだけ掛かるか」
『君が持っている、世界の力を使うと良い』

 そういえば神ソレイユを正気に戻せれば、星の欠片を使用する必要が無くなるな。リュカも気付いたようで、すぐに星の欠片を出す。

 6つの星の欠片。それらを落ちないように持ったリュカの手を、下から支えるようにして女神リュヌが触れてきた。そうして瞼を閉じる。想いを馳せているのだろう。愛しい、神ソレイユへと。

 リュカは掌に乗っている星の欠片を見つめていた。約2ヶ月間魔清を集め続けてきたのだから、魔力操作は完璧だろう。だが星の欠片の魔力は膨大なので、コントロールが難しいかもしれない。

「出来そうか?」

 リュカの両手が塞がっているので、俺から腰に腕を回して、身体を寄せる。すると嬉しそうに微笑み、頷いてきた。そのあとリュカも目を瞑り、魔清へと変換し始める。
 最初は探るように、少しずつ。けれどすぐに問題無いと判断したのか、噴出するようにどんどん変換していく。

 どれだけ魔力があろうと、そこに正の感情が無ければ、魔清を集めることは出来無い。だというのに凄まじい勢いで生成されていき、元あった魔清に加わっていく。上空を覆っている光の範囲が広がっていく。

 これが数億年という長い時間を生きてきた、女神の愛か。

 パリンッ。小さな音を立てて、星の欠片が1つ砕け散った。そのまま粒子となり消滅する。パリンッ、パリンッ、パリンッ、パリンッ。魔清の勢いが衰えないまま、数分ごとに砕けていく欠片。

 パリンッ。最後の欠片が砕けたことで、リュカは魔清収集を止めて上を見上げた。そしてまばゆい光の量に、息を飲む。

「……すごい。こんな短時間で、これほどの魔清が集まるなんて」

 本当にすごい。ほんの十数分で、魔清は倍に増えたのだから。女神も満足する量になったらしく、頷いた。

『これだけあれば大丈夫。じゃあソレイユの封印を解くから、私から離れないで』

 そう言われたあと、何かに覆われる感覚がした。これは、結界か。人間には使えない、身体のほとんどが魔素で出来ている、魔物のみが持っている能力。

 ちなみに自分だけを守るのが魔法壁で、どこにでも、どんな範囲でも張れるのが結界である。もちろん使用者の魔力により最大サイズは変わってくるが、神ソレイユは王国全土を覆うほどだし、女神リュヌは月が見えないよう毎夜上空を移動させるという、まさに神業な結界を張っている。

 その女神が、地面に向かってちょいちょいと指を動かした。するとドオオォッと下から押し上げられるような、とてつもなく膨大な気配が溢れてきた。

 足元から、死が迫ってくる。心臓がドッドッドッドッと早く脈打つし、身体が震えて竦みそうになる。女神の結界で守られているにもかかわらず、これほどの恐怖に駆られるとは。
 これが人間を憎むあまり、自らの負の感情に飲まれて狂ってしまった、神ソレイユの怒りか。

 リュカの腰を強く抱き締めると、すぐにきつく抱き返された。リュカも震えている。……守らなければ。

「大丈夫だリュカ、俺が傍にいる」
「ありがとうザガン。ザガンも、俺が傍にいるからね」

 耳元で囁かれる言葉に、コクリと頷く。もちろん守ってもらう。どちらかでなく、互いに守り合うのが俺達だから。

 そうして迫りくる恐怖に耐えていると、地面から光の粒子が湧いてきた。ザアァァァとうねりながら増えていき、形成されていく。美しく黄金に輝く……。

『グオオオオオォォ――――ッ!!』

 けれど人間を殺すことしか考えていない、狂気に満ちた狼へと。

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