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1巻
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「ん、ぁん……ん、……ふぁ、ん……? ん、ん……あっ?」
なんだ、何が起こっている?
何かが中に埋まっている感覚がする。奥までいっぱいにされて、侵食されていて、それがとてつもなく気持ち良い。腰の中からゾクゾクと快楽が湧き上がり、身体が震えている。
なんだこれは。訳がわからない。
埋まっているもので、くちゅんと奥を突き上げられた。ひ、と悲鳴が零れる。ブワブワッと大きな快感が全身を巡っていき、腰がガクガクする。
「ぁ、あ……なに、なにが……」
「起きたんだね、ザガン。良かった」
ホッとした様子で、覗き込んでくる顔があった。知っている相手だ。
「お、まえ……リュカ、なに、……あ」
自分がどうなっているかわからなくて、助けを求めようと手を伸ばしたら、その手を握られた。指先に唇を寄せられキスされたあと、くちゅん、くちゅんと断続的に腹の奥をつつかれる。
「ぁっ……あん、んっ? なに、や、あ」
なんだこれ、気持ち良い。中が擦られている。尻もゾクゾクする。気持ち良くて、中のものをきゅっと締め付けて、余計に感じてしまう。状況を把握しようとしても、どうしてか頭がふわふわするし、視界もチカチカする。本当に、何が。
「ふふ、訳わからないって顔して戸惑ってるザガン、すごく可愛い。いつもは冷静だし、表情もほとんど動かないのにね」
「ふぁ……あ、あんっ、……んあ、あ……」
「ん、気持ち良さそうな声。俺もザガンに包まれて、とても気持ち良いよ。はぁ……今ね、ザガンの胎内に、俺のペニスが入ってるの。お尻でずっぽり、俺の熱くて大きいペニスを咥えているんだよ。わかる?」
握られていた手を、尻に持っていかれた。そして自分のアナルに触れさせられる。
そこはリュカの言うように、彼のペニスを咥えて広がっていた。把握したと同時にきゅっと締め付けてしまい、無理矢理広げられている縁から、ゾクゾクした感覚が溢れてくる。どうにかしたいのに、快感のせいか身体に力が入らない。
「そ、そんな……何故、こんな……ぁ、んっ」
「まだぼんやりしてるザガン、ホント可愛い。いいよ、そのまま俺でいっぱい感じて」
ちゅ、ちゅっと、頬や眦にキスされた。柔らかな唇の感触に、反射的に目を瞑る。するとポロリと零れた涙を舐められ、耳を食まれた。
「はう……リュカ、……あん、ん……あふ、……あ、ん」
何故このような状況に陥ってしまっているのか。
ちゅぷちゅぷ胎内を掻き混ぜられ、喘ぎながらも、どうにか思考を巡らせた。
*
俺は産まれた時から、母に忌避されていた。黒髪だったからだ。
この世界は、属性や魔力量、その強さなどの性質によって、髪色が決まっている。たとえば母の髪は空色なので、属性は水、魔力量は少なめだ。濃紅色の父は、強大な力を持つ火属性。
そして黒髪の俺は、膨大な魔力を秘めた闇属性になる。
これが薄紫だったなら、母は怯えなかっただろう。無視はされたかもしれないが。
紫色でも、貴族の一員として存在していることは許されたかもしれない。ただし確実に、他貴族の者達から迫害を受けるが。
しかし漆黒である。闇属性持ち自体がとても少なく、闇属性というだけで迫害の対象になるこの王国において、漆黒の髪を持って生まれたのだ。邪悪の象徴である。
さらに赤目とくれば、国を滅ぼそうとしている、邪神そのもの。それゆえ母は、俺を視界に入れるだけで怯えた。
救いだったのは、王都魔導師団に所属する父が、優しく聡明だったことか。赤子ならずっと帽子を被っていても問題ないからと、髪を剃ったうえで帽子で頭を隠し、周囲を騙してくれた。だから乳母はミルクをくれたし、世話を一任されていた執事だけでなく、手の空いたメイド達も面倒を見てくれていた。
なお、髪を染めることは不可能である。髪にも魔力が通っているので、染料を弾いてしまう。無理に着色しようとすると魔力の流れが乱れてしまい、酷い頭痛に苛まれるらしい。下手をすれば脳が破壊されるとか。
とにかく闇属性とバレないようにするには、髪を隠すしかない。
したがって室内で帽子を被るのが難しくなってきた三歳の頃には、周囲に見られないよう、地下に幽閉された。
そうして父により、徹底的に魔法を排除した教育を受ける。
邪神によって幾度も王国が滅びかけた歴史を教えられ、闇魔法の恐ろしさや、闇属性を持つ者達の危険性もたくさん語られた。俺は国にとって邪悪な存在と見なされるため、人目に付いてはいけないのだと。決して魔法を使ってはいけないと。
返事を躊躇すると怒られ、頬をぶたれることもあった。その時は痛かったし、幽閉されてつらく感じたこともある。だが俺は父を憎まなかった。
中身が本当に子供であれば、憎んだだろう。それが本来のシナリオだから。
俺は前世持ちだ。日本で生きた記憶がある。
さらには、前世で大好きだったエロゲー『リュミエール~星の欠片を求めて~』の、悪役ザガンに転生している自覚があった。
ゲームでのザガンは、幽閉されてから何度も何度も怒鳴られ叩かれた。そのせいか、成長するにつれて増えていく魔力を暴走させ、母親を意識不明の重体に追い込んでしまう。結果として十歳に満たない年齢で、国境のエトワール大森林に捨てられる。
虐待から解放された彼は、暴走気味の膨大な魔力でもって襲ってくるモンスターを退けながら、数ヶ月かけてどうにか大森林から脱出した。
けれど辿り着いた村で待っていたのは、村人達からの残酷な対応だった。悪魔だと悲鳴を上げられ、罵声を浴びせられながら石を投げられる。武器を持つ者達からも追いかけられて、反射的に闇魔法を使用すると、余計に激昂されてしまう。
泣きながら逃げた彼は、最初は己の境遇を呪った。
しかしすぐに、自分を認めない人間や国を憎むようになる。父親に付けられた名を捨てて、昔存在したと言われる悪魔『ザガン』を名乗り、人を殺すようになる。
殺して、殺して、殺して、殺し続けて。
その命が数万になる頃には、殺戮者と呼ばれ、人々から恐れられるようになっていた……そんな極悪非道の悪役だ。
だからか、外見も邪悪そのもののように描かれていた。黒髪で顔半分を隠され、赤い片目がギロリとこちらを向いている。そして薄汚れた黒いローブ。ストーリー中盤までは主人公達の邪魔をしてくるものの、あまりにも狂気に満ちたうえに自己中なせいで、終盤手前で同じ闇組織の者達と衝突し、殺されるキャラである。
ちなみにザガンを殺した闇組織は邪神復活を目論んでおり、それ自体は成功するものの、制御出来ずに全員死亡。主人公達が邪神を倒して、エンディングを迎える。
そんなわけで、俺は邪神がどのような存在かを理解していた。属性のせいで、世間から迫害されることも。ゆえに俺の存在を隠そうとする、父の心も。
彼は濃紅髪であり、幼少期から称賛を浴びながら育った魔導師である。天才だと自負さえしていた。伯爵令嬢の美しい妻も娶れた。
なのに産まれてきたのは――黒髪の子供。
俺という存在が公になれば、元凶である息子だけでなく、親である自分達まで周囲から忌避されてしまう。貴族社会から爪弾きにされてしまう。
守らなければならなかったのだ。魔導師として積み上げてきた輝かしい功績を。歴史を紡いできた家系を。そして愛する家族を。
よって俺は、屋敷を出ることになった。当時九歳。九歳にして、魔力量だけなら父に匹敵するほどになっていたから。魔力操作について何も学んでおらず、もしも膨大な魔力を暴走させてしまったら、優秀な父でも防ぎきれない。
だが魔力量が多いということは、屋敷を出ても生きていけるという意味でもある。病弱と偽って地下に隠れ続けるよりも、貴族の身分を捨てて外へ出たほうが、俺のためになるのではないか。そんな父の提案に、俺は頷いた。
彼は、俺を家族として愛してくれた。言われた通り地下から一度も出ようとせず、魔法も一切発動しなかったからだろう。しっかり教育を施してくれた。
美味い食事や高級な服も与えられたし、本をたくさん買ってくれた。部屋に本が入りきらなくなると、大容量の劣化を防止するマジックバッグまで買ってくれた。父と執事だけは、誕生日も毎年祝ってくれた。
それゆえ屋敷を出るのは寂しかったが、最後の最後に遠くからでも母上の姿を見られたし、時々地下に忍び込んできていた小さな妹が、笑顔で手を振ってくれたのも嬉しい思い出か。妹を抱えていた執事も、かけてくる言葉は少なかったものの、幌馬車に乗った俺から、姿が見えなくなるまで決して目を逸らさなかった。
何より父上が、エトワール大森林まで俺を送ると、ひと月ほど共に森で暮らしてくれた。最後に生きる術と、戦い方を教えてくれたのには、感謝してもしきれない。
ゲームの裏設定がどうだったかは知らない。けれど俺は、父が買ってくれたマジックバッグを持っていた。今まで買ってもらった本は全部しまっていたし、衣類や食料、魔導具、日用品やポーション類などの必需品は、父がたくさん入れてくれた。
頭を隠せるフード付きマントや、クリスタルの短剣までいただいた。
だから父と別れてからの数年間は、そのまま大森林で生活した。ようやく魔法が解禁されたのだから、鍛練しないはずがない。
なおゲームでのステータス画面に並ぶ技名は、現実だと魔法や剣技を使おうとした際に、自然と脳内に浮かぶ。『○○○を覚えた』というテロップも同様。前世の記憶がある俺からすると不思議な現象だが、これがこの世界の理だ。
またモンスターは魔瘴から発生するものであり、倒すと消滅して、その種ごとに決められたアイテムが残る。核となる魔石に、生肉、皮、爪、牙や骨など。武器や防具を装備している奴もいるが、装備品までがそのモンスターの括りらしく、基本的には討伐と同時に消滅する。でもたまにレアアイテムとしてドロップする。
大森林には動物も普通に生息しており、動物に似ているモンスターもたくさんいた。それでも間違えることはない。モンスターは魔瘴を纏っているので、すぐに見分けが付く。
ただひたすらモンスターと戦闘する毎日。
最初は弱くて、息を殺して隠れなければならないことが多かった。けれど少しずつ、倒せる相手が増えていく。以前は敵わなかった奴を倒せるようになるのは嬉しいし、ドロップする肉がだんだん上等なものになっていくのも嬉しい。
基本的には大森林に籠り、どうしても必要なものがある時だけ、フードで頭を隠して街に行くという生活を、六年間。
十五歳になり成長期を終えたら、冒険者ギルドに登録した。
名前はもちろん、ザガンだ。屋敷から出た時点でプレイディ家の人間ではなくなっているので、父上からいただいた名は名乗れない。俺の存在はたぶん、ゲームと同じく病弱で死亡したことにされているだろう。
冒険者となり、ギルドに出されている依頼をこなしていった。髪はターバンを巻いてからフードを被って極力見えないようにしたし、独りで行動していたので、モンスター素材を集めるだけの低ランク時代は目立たなかったはずだ。
しかしランクが上がると、護衛や盗賊討伐、救助という依頼が回ってくる。するとどうしても人前で魔法を使わなければならず、俺が闇属性だと周囲に広まっていった。
俺を知る者は、俺を見ると恐怖するようになった。
だがゲームのように、石を投げられたり追われたりはしない。どこの誰かわからない薄汚れた子供か、高ランクの有名な冒険者かで、人々からの対応はこうも変わる。
それに貴族社会とは違い、冒険者ギルドは結果が全てだ。たとえ世間から迫害されている闇属性であろうと、依頼を達成すれば評価が上がるし、モンスターを討伐してアイテムを提出すればするだけ、ポイントが加算される。
ゆえに二十三歳現在で、Sランク冒険者となっている。
*
ゲームシナリオが開始されたのは、今年の一月一日。王国中に知らせが回った。『王城にリュミエールが出現した。実に三十年ぶりである』と。
《リュミエール》とは、王国全土から集まる、負の魔力で形成された結晶のこと。またリュミエールが王城に出現する時、王都を囲んでいる十二の大都市のダンジョン内部も変化し、《星の欠片》と総称されている宝石がそれぞれ出現する。
よって我々国民は、第一都市から一ヶ月ごとに変化していくダンジョンを攻略し、十二ヶ月――一年間で《星の欠片》を全て入手しなければならない。
星の欠片を集めてリュミエールを浄化しなければ、国の魔力が循環しなくなり、大地が衰えてしまうそうだ。逆にリュミエールを浄化すると、綺麗になった魔力が国中に飛散して、大地はまた何十年と恵みをもたらしてくれる。
ダンジョン攻略なので命の危険が伴うものの、欠片を最も多く集めた者には王から褒美が与えられるので、国に所属している騎士や魔導師、Aランク以上の冒険者など、資格ある者達はこぞってダンジョン攻略に挑戦する。
しかし中には、国のためではなく、星の欠片そのものを求める者達もいる。十二個集めればリュミエールを浄化出来るほどの魔力が内包されているので、己の欲望のために求める人間が出てくるのも、当然のこと。
ゲームではそれがザガンであり、彼と衝突した闇組織でもある。
プロローグは、主人公が王城内を歩いているところから始まる。彼は王家の代表として欠片を集めるよう、父親である国王から命を受けるのだ。
ソレイユ王国第二王子、リュカ・ソレイユ。見事な黄金の髪は、膨大な魔力を有している光属性の証である。ゲームでは提示されていなかったが、現在二十一歳。それにゲームでは顔グラフィックがなかったものの、美形である。……王子だからか。
王命を受けた彼は、世話になっている魔法教師の娘であり幼馴染でもある年下の女の子と共に、第一都市へ向かう。
その子がメインヒロインだ。名はノエル・ブレイディ。白銀髪で聖属性と珍しいものの、魔力はそこまで高くないので、見習い騎士になっている。騎士らしく凛々しく美しいが、少々ドジ気質でもある、可愛い女の子。
何を隠そう、俺の妹である。途中で死ぬ悪役ザガンに詳細設定があるのも、彼女のシナリオに絡んでいるからだ。俺の五つ下なので、現在十八歳。
ちなみに第一都市に到着する前に、触手に襲われて主人公に助けられるという強制エロイベントがあるので、ノエルはすでに奴の毒牙にかかっているだろう。前世で存分にゲームを楽しんだ身だし、妹に正体を明かすつもりもないので邪魔しなかったが、第一都市で歩く二人を見つけた時は複雑な気持ちになった。
ゲームのザガンとは違い、俺にはリュカから星の欠片を奪う理由がない。
だが行かないと、第一ダンジョンから闇組織に欠片を取られてしまう可能性がある。それだけは絶対に阻止しなければ。それに基本的に大森林で生活しているとはいえ、この国のSランク冒険者として、攻略に参加しないわけにはいかないだろう。
星の欠片ダンジョンは、第一都市から順に、毎月十一日に扉が開く。
一月十一日。さっそく変化したダンジョンに入ったところ、ゲーム通りではあるものの、本当に以前とは内部が違っていて驚いた。
ゴツゴツした岩壁ではなく、荘厳さを感じる美しい大広間。ダンジョンが世界の力で創られているのは知っているが、それでも感動せずにはいられない。人々から忌避されている闇魔法も、世界の力に比べればちっぽけなものだ。
しかも初っ端からルートが十二に分かれていた。ここはゲームと違っている。攻略者が多すぎて待機列が出来ているのを鑑みるに、混雑を防ぐ配慮かもしれない。
とりあえず適当なルートを選んで、前に進んだ。入り組んでいる道を歩き、モンスターに遭遇すれば倒して、ギミックがあれば解除を試みる。腹が減ればマジックバッグに入れてきた飯を食い、時計を確認しつつ眠くなれば毛布に包まる。
ダンジョン内にはセーフティルームと呼ばれる空間があり、そこにある転移魔法陣から外に出ることも可能だ。元の場所に戻るには、大広間から転移魔法陣に乗れば良いだけ。
だがこの世界には、生活魔法という誰もが使える魔法もあり、ある程度なら清潔に保てた。なので、籠ろうと思えば何日間でも籠っていられる。
そんなわけで外に出る理由がなかったため、ひたすら攻略に勤しんだ。
攻略を開始してから十日後には、最深部に到達した。重い鉄扉を開けたところ、まだ祭壇に星の欠片が置かれていたし、ボスモンスターもいる。一番乗りか。
ゲームでは、主人公達が先にボスフロアに辿り着く。膨大な光属性なので当然という設定。そのあとザガンが現れるのだが、現実では俺が先だった。
サクッとボスを倒して、祭壇に置かれていた欠片を入手する。
深紅のガーネット。生憎と宝石には興味ないが、それでもキラキラ輝いている紅は、とても綺麗に思えた。それに五センチ程度の石なのに、膨大な魔力が伝わってくる。ゲームでは感じられなかった、実際に触れているからこそわかる、星の欠片の素晴らしさ。
神秘的な美しさに魅了されながらもバッグにしまっていると、後ろからギギギィと、扉の開く音がした。振り返れば、ようやくリュカ達の到着である。
「あれ、先を越されてしまっていたね」
「私達よりも先に、来ている方がいるなんて。それも一人で? すごいです」
リュカやノエルが、祭壇下から見上げてきた。
すでに街でチラリと見かけていたが、こうして改めて対峙すると、感慨深いものがある。自分がプレイしていたゲームの主人公が、そこにいるのだから。
それに前世ではイラストでしかなかったノエルが、現実となってそこにいる。好きだった声優と同じ声で喋っている。……あの小さかった妹が、立派に成長している。
「私達が最初だと思っていたんだけどね。アンタ、何者だい?」
ダンジョン内で出会う二人目のヒロインも、しっかり仲間に入っていた。
巨乳で姉御肌のミランダ、冒険者ランクはA。彼女はソロで攻略していたところ、たくさんのモンスターに囲まれて苦戦してしまう。そのタイミングで主人公達が助けに入り、共に行動するようになる。王からの褒美はパーティー全員に与えられるので、仲間割れの心配もない。
「……ザガンだ」
「ザガンだって? たった数年でSランクになった、深淵の闇ザガンかい。とんだ大物に出会えたもんだねぇ。リュカ、ノエル。コイツは闇属性だよ。星の欠片を奪わないと、厄介なことになる」
「えっ。でもこの方は、冒険者でしょう? それもSランクの」
「闇属性の連中がどれほど危険か、お嬢ちゃんは知らないのかい⁉」
「それは、知っていますが」
ノエルが戸惑っている。妹は、父上からどんな教育を受けたのだろう? 俺と同じ内容なら、闇属性を嫌悪しそうな気がするが。
ミランダは大切な恋人を闇属性の人間に殺された過去があるので、闇属性というだけで激しい憎悪を向けてくる。
彼女達のやり取りを眺めていると、リュカが一歩前に出てきた。
「ザガンと言ったね。俺はリュカ・ソレイユ。君が悪いわけではないけど、闇属性の者達が危険視されているのも事実なんだ。だから君が入手した欠片を、王城まで預からせてもらえないかな。もちろん、君が入手したものとして王に報告する。どうだろう?」
とても理知的だ。あまり記憶に残っていないが、こんな人物だったか?
ふむ、どうするか。
ゲームでは主人公達が先に入手した欠片を、あとから現れたザガンが奪う。立ち位置は逆だが現状のように対峙していたし、ミランダが名を尋ねていた。もちろんザガンと答え、さらに自ら黒髪を晒すので、闇属性の凶悪犯罪者だとわかり完全に敵認定される。
しかし現実の俺は冒険者であり、邪神を蘇らせたいという野望も持っていないため、彼らと敵対する理由がない。王からの褒美もいらないので、渡しても構わない。
探るように見つめてくる、リュカの蒼眼。
その目を見返して、ゆっくりと口を開く。
「――貴様らは、闇属性の者達に対してなら、何をしても許されるのだろう? 迫害し殺しても、罪に問われないのだろう? ならば、俺を殺して奪えば良い。それでも貴様らは、悪にはならないのだから」
「ッ……言ってくれるじゃないか!」
挑発した途端、ミランダが斧を振った。飛んでくる炎。戦闘開始だ。
*
三対一でも俺が勝った。まぁそうなるだろうとは思っていた。まだゲームの一章なのに、主人公が悪役より強かったら困る。
ゲームでも主人公はザガンに負け、闇属性特有の触手でノエルを拘束されて、人質に取られてしまう。傷付いている彼女の恥部をまさぐるザガン。
捕らわれた幼馴染を守るためには星の欠片を渡すしかなく、ザガンは彼らの弱さに殺す価値もないと嘲笑い、ダンジョンから去る。今まで光属性だと持て囃されていた主人公が、挫折を知り、強くなろうと決心する場面だ。
けれど俺は、リュカを強くしたくて挑発したわけではない。彼が強くならなくても、俺が全ダンジョンを攻略すれば良い。ゲームとは違って闇組織との関わりもないので、彼らに殺されて所持していた欠片を全部奪われる、という事態にもならないはず。
では何故、わざわざ戦闘したのか。
たんに、可愛い妹に手を出した男への、制裁である。そういうシナリオなので仕方ないとわかっていても、兄として魔法の一発や二発や十発くらい入れておかなければ気が済まなかった。もちろん後悔はしていない。
満身創痍で、地面に倒れているリュカ。情けない姿を晒す男を、真上から見下ろす。
「見事な黄金の髪だからどれほど強いかと思えば、期待ハズレだな。もう少し鍛錬したほうが良いのではないか?」
防御力の高いフードやターバンを吹き飛ばし、この黒髪を露わにしただけでも、褒めてやらなくはない。だが黒髪を見た途端、動揺して隙だらけになったのは愚かである。
痛みで動けないのか、ただただ呆然として見上げてくるリュカ。そんな彼から離れて、壁際に座っているノエルのほうへ行く。彼女には攻撃していないので、怪我はしていないはずだ。
「その子に手を出すな!」
という声が聞こえたが、無視しておく。なおミランダが静かなのは、容赦なく攻撃して気絶させたからだ。女であろうと、殺そうとしてきた相手に慈悲をかけるほど、俺は優しくない。
「い、嫌だ……来るな。来ないでっ」
前に立てば、ノエルは涙目になって怯えた。
彼女は聖属性なので、回復魔法しか使えない近接攻撃型。だから触手で拘束して動きを封じてしまえば、攻撃手段がなくなる。必死にもがいても、俺の魔力を凝縮させた触手なので、そう簡単には外れない。
片膝をついて視線を合わせると、ヒッと小さな悲鳴が上がった。
やはり覚えていないか。別れた当時はまだ四歳だったし、あれからもう十四年経っているので、当然と言えば当然である。一抹の寂しさを覚えるものの、闇属性の兄など覚えていないほうが良いので、構わない。
過去を懐かしみながら、彼女の頭に手を乗せ、そっと撫でる。
「…………え」
この時ゲームでは、ザガンに恥部を弄られ、胎内に指まで入れられる描写がされていた。この子が妹だと、ザガンは知らないから。
彼がその事実を知るのは、五章後半で発生する個別イベントである。しかも知ると、余計に非道なことをする。拉致しての凌辱だ。エロゲーに時々ある、主人公以外からの凌辱。同じ親から生まれたのに、幽閉も虐待もされず普通に育てられた妹に、憎悪を募らせる。
俺もまたザガンであり、闇属性である。
自分で属性を選んだわけではなく、たまたまそのように生まれてきただけ。だから闇属性というだけで怯えたり憎んだりする者達は愚かだと思うし、迫害してくる人間を全員殺したい気持ちも、わからなくはない。
「……周囲が迫害しなければ、闇属性の者達も、誰かを傷付けようとはしなかっただろうにな」
なんとなく呟いた声に、ノエルがハッとしたように目を見開いた。
気にせず頭から手を退かして、立ち上がる。拘束している触手は俺から離れているので、そのうち魔力が飛散して消えるだろう。リュカも問題なさそうだ。
じっと見つめてくる二人の視線を感じながらも、床に落ちていたターバンを拾う。巻き直したらフードを被り、彼らを見ることなく祭壇の階段を上がった。祭壇奥には転移魔法陣が展開されていて、乗ると一瞬にして一階大広間に移動する。
外に出れば、久しぶりの太陽に迎えられた。かなり眩しい。
星の欠片がダンジョンから出されると、攻略途中の者達は全員、世界の力によって強制的に大広間に転移させられる。
姿を見られないよう影に潜んで十分ほど待っていると、ダンジョンから数人出てきた。それから徐々に増えてきて、しばらくするとリュカ達も出てくる。三人とも回復したようだ。
無事な姿を確認し終えたので、俺もその場から離れた。
*
ゲームで次に主人公とザガンが遭遇するのは、四章となる。二章も三章もザガンに先を越され、彼らは攻略途中で強制的にダンジョン外に追い出されてしまう。四章でようやく、今度はダンジョン途中で遭遇して、再戦する。
その時には、ヒロイン達も全員集まっていることだろう。
一章終わり、次の都市へ移動しようとする前日には、盗みを働いている盗賊ニナを主人公達が捕まえる。ご奉仕するから見逃してくれと、頭を下げるニナ。しかも主人公が王子だとわかると、金目当てで無理矢理付いてくる。
二章初めでは、第二都市までの道中にある街に寄り、合法ロリ錬金術師カミラの店でアイテムを購入する。カミラは主人公達がダンジョン攻略のために第十二都市まで回ることを知ると、ダンジョンの貴重な素材目的で仲間になる。
第二都市に着いてすぐには、気弱な男の娘ベネットと出会う。男達に追いかけられて逃げているところを、助けるのだ。父親が借金したせいで売られそうになり、居場所がなくなった彼……いや彼女は、料理が得意ということで加入する。
そして最後のヒロインは、三章後半の第三ダンジョン攻略中と、少々遅い。
丸眼鏡をかけた、ゆるふわお姉さんのシンディ。ギミックがわからず前に進めなくなり、一度ダンジョンから出て、図書館で働いていた彼女の頭脳を借りる。ダンジョン攻略自体はザガンに負けるものの、そのまま主人公達の仲間になる。
ニナ、カミラ、ベネット、シンディ。それにミランダと、俺の妹であるノエル。
計六人のヒロインと、主人公は旅をする。常に女六人に囲まれながら生活するなんて、俺だったら精神がやられそうだ。
とにかく次にリュカ達と遭遇するのは、約二ヶ月半後の第四ダンジョン内だろう。七対一の戦いで、しかもシナリオ通りであれば、途中でイベントが発生するので勝負に決着が付かない。現実はどう転ぶかわからないが、七人全員を相手にするのは、かなり面倒だ。
……などと考えながらも第二都市に着いたら、何故かリュカと出会ってしまった。
「ザガン、奇遇だね。君も人助け?」
しかも、王子らしいキラキラした笑顔で、話しかけてくる。
現在俺達がいるのは、冒険者ギルドだ。ダンジョンが開くまで数日あるので、素材を売るついでに依頼を確認しに来たんだが。……そうか、ゲームとは違って俺も普通に都市で生活しているから、遭遇してもおかしくないのか。
ゲームの流れは、ダンジョンに潜っていない期間は日常パートとして、朝・昼・夕・夜の四回、行動を選択することになる。
都市から都市への移動期間中である一日~五日に出現する選択肢は、〈鍛練〉、〈会話〉、〈読書〉の三つのみ。鍛練や会話は、誰と一緒にするかによって、上昇するパラメーターが違う。好感度も上がるが微量だ。
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すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで
二三@冷酷公爵発売中
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
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