【完結】愛されないのは慣れてますので。〜魔法学院の華麗なるミスプリンス〜

曽根原ツタ

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 颯爽と現れたレイモンドは、白く光沢のある杖を掲げて呪文を唱えた。目を開けていられないほどの眩い光に幻獣たちは目を眇め、数歩後退する。レイモンドはこちらに背を向けたまま言った。

「ひどい有様ですね、セナ。この程度の相手に引けを取るなど、まだまだ鍛錬が足りないのでは」
「手厳しいな……。これでも俺、相当頑張ったんだけど」
「少し後ろに下がっていてください」
「君一人で大丈夫なの?」
「世迷言を。――僕を誰だと思っているんですか」

 彼はそう、始祖五家アーネル公爵家始まって以来の逸材だ。彼は襲いかかってくる幻獣たちを次々と薙ぎ払っていく。

 セナとオリアーナが重い体を引きずるように後ろに下がると、レイモンドは上位魔法を発動させて幻獣を圧倒した。

 淡々とした口調で発動されていく魔法。鋭い光の矢がある幻獣の体を貫き、また別の幻獣は塵になって一瞬で消えた。それは、とてもブランクがあるとは思えない見事な戦いぶりで。ローブの裾が翻る様を眺めながら、オリアーナは思った。

(ああ……やっぱりレイモンドはすごいな。姉さん、すごく誇らしいよ)

 すっかり疲弊し弱体化した幻獣たちに向かって、レイモンドが唱える。


 《――不浄を清めよ》


 白い光が周囲を包み込むと同時に、敵は全て――殲滅された。静寂が辺りに広がる。

 レイモンドはよろめき、片膝を床に突いた。無理もない。ただでさえ体力が落ちているところにあれほど激しい戦闘をしたのだから。魔力の消耗もひどいはず。レイモンドはこちらを振り向いて、眼鏡の奥の目を細めた。

「見ていましたか……? 姉さん」

 苦しい戦闘のあととは思えない爽やかな表情。年相応の笑顔で、額の汗を拭いながら尋ねてくる彼。姉に褒めてほしいのだという弟心が伝わってくる。

「うん、うん……見てたよ。すごかった。君は自慢の弟だ」
「わっ姉さん……!」

 オリアーナはレイモンドに抱きついた。彼が助けに来てくれたこと、昔のように魔法が使えるほど回復してくれたこと、笑ってくれたこと。何もかもが嬉しくて、言葉にならない。

「助かったわ。今回はマジでやばかった」
「全く。僕より強くなってくれないと、安心して姉さんを渡せませんね」
「はは。ハードル高いな」

 セナとレイモンドがオリアーナの肩越しにそんな会話をする。

「で? どうしてこの事態に気づいたんだ?」

 するとレイモンドは、苦虫を噛み潰したような顔を浮かべた。オリアーナが「どうしたの?」と聞くと、彼はバツが悪そうに答えた。

「姉さんの行動がいつでも分かるように遠隔魔法をかけているので」
「怖っ。シスコン通り越してストーカー?」
「ち、違います! もちろん危機が迫ったときにだけ伝わるようにしていますから!」

 慌てふためくレイモンドに、オリアーナはふっと笑う。

「何はともあれ、ありがとう。レイモンド」

 すると、ようやく他の教師たちと魔法士団の部隊が到着した。ようやくと言っても、出現からほんの十数分足らず。たったその時間で超上級魔物の討伐を完了させてしまったことに、皆驚愕している。

「ま、まさか。不定形の超上級魔物をこの人数で……?」

 驚く魔法士たちの隙間を掻い潜り、ジュリエットがオリアーナに飛びついてきた。

「オリアーナ様……っ。大丈夫ですか!?」

 泣きながら何度も顔を撫でて、無事を確かめてくる。ピンピンしている様子から、優秀な治癒魔法士に癒してもらったのだと予想した。

「大丈夫。怪我はないよ。ちょっとジュリエット。そんなに泣かない。綺麗な顔が台無しだよ?」
「うっうう……ごめんなさいっ。わたくしが不甲斐ないばかりに……っ。わたくし、もっと強くなります。オリアーナ様を守れるくらいに……っ」
「私にも君を守らせてよ。友達でしょ?」
「……はい……っ」

 ――突如現れた超上級魔物を、大きな被害を出さずに殲滅した始祖五家の子息子女たち。この件は、始祖五家の名声を上げることになった。

 結局、身代わりについてお咎めはなし。学院は完全に目をつぶった。というのも、学院は常に優秀な生徒を集めており、アーネル公爵家の双子を他に渡したくなかったのだ。

 二人が協力して魔物を討伐して生徒を守ったことは国中に知られ、魔法学院の倍率も格段に高くなり、多額の寄付金が集まったのだった。



 ◇◇◇



 レイモンドの体調はすっかり回復してオリアーナの身代わり生活は終わった。オリアーナは魔法学院の意向により編入試験を受け、見事合格。そして、家庭にも変化が。

 アーネル公爵家の爵位や財産、領地は全てレイモンドが継いだ。これまで散財ばかりして領地の財源まで食い潰していた父は、ほぼ無一文で屋敷を放り出された。
 一方のオリアーナは、レイモンドの勧めで遠縁の親戚の養子となり、両親と完全に縁を切った。

 これで両親に翻弄されることなく、本当の平和を得たかと思いきや……。

「オリアーナ。父さんたちのためにヴィスト伯爵家に嫁いでくれないか……?」

 田舎の小さな屋敷で、今までよりずっと慎ましく暮らしていた両親が、夏休みの半ばになってある日突然オリアーナの元を訪ねて来た。もうこの人たちは縁のない人たちなのだが、たまたま事情を知らない使用人が応接間に通してしまった。

 詳しい話を聞いたオリアーナは、呆れて小さく息を吐いた。

「――なるほど。私を借金のかたにしたい、ということですね」
「そ、そういう言い方はよさんか」

 今まではオリアーナに対して威圧的な態度を取っていた父が、ご機嫌を伺うようなへつらう態度を取った。

 というのも、両親が多額の借金を作ってしまったからだ。派手好きの父はさることながら、母も貧しさを知らないお嬢様育ちで、享楽が好きだった。爵位を手放してもなお散財を繰り返し、家計は火の車だとか。

「ヴィスト伯爵は、『聖女』のお前が嫁いでくれるなら借金を肩代わりしてくださるそうだ。それから、今後の生活に困らない額の支度金まで用意していただけると……」

 ヴィスト伯爵といえば、好色家で評判が最悪の人だ。金のために娘をそんなよく分からない男のところに嫁がせようとするなんて呆れる。

「お願いよオリアーナ。これまでの恩に報いると思って、縁談を受けてちょうだい……?」

 これまでの恩? そんなものに心当たりはない。ずっと自分たちの名誉ばかりを考えて、子どものことを蔑ろにしてきたくせに、今更母親面してくるのはちゃんちゃらおかしい。


『嫌なことは嫌だって言え』


 ふと、セナにいつかのとき言われた言葉を思い出した。これまでは両親の言いなりになって、自分の気持ちを押し殺して来た。

 もう、我慢したりしない。始祖五家でありながら非魔力者に生まれてしまったことに負い目を感じていたのは過去のこと。これからは自分に誇りを持ち、自分に正直に生きていきたい。

「――お断りします」

 父は激怒し、母は肩を震わせて泣き始めた。予想通りの反応だ。

「なんだと……!? この恩知らずが!」
「こんな薄情な娘に育てた覚えはないわ……」

 責められても、オリアーナははっきり自分の意思を告げた。

「もう私はあなた方を両親とは思っていません。戸籍上も私たちは親子ではありません。それに私には……他に特別な人がいるんです」

 応接間の扉を開き、セナを部屋に招き入れる。ちょうど今日、家に遊びに来ていたのだ。
 両親は始祖五家ティレスタム公爵家の令息を見て、目を丸くする。

「ご無沙汰しております。アーネル夫妻」
「嘘……まさか、何の取り柄もないうちの娘なんかを気に入ったの……?」

 母が思わず零した本音。セナは余裕たっぷりに微笑んで答えた。その目は少しも笑っていないが。

「俺にはもったいないくらい素敵な人です。あなた方は知らないだけで、オリアーナは皆に愛されているんですよ」

 まともな嫁ぎ先なんて見つかりはしないと散々馬鹿にしてきた両親は、茫然自失となった。

 セナは両親に対して、オリアーナと結婚したとしても、経済的な支援はするつもりはないとはっきり告げた。

 人のいいオリアーナを利用してやろうと画策していた両親は、今までに見たことがないくらい、落胆の表情をしていた。
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