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しおりを挟むすらりとした体躯に、爽やかで端正な顔立ち。物語から飛び出してきたような儚げな雰囲気がある美丈夫だ。
「――これより、リージェ神の名の元、ポリエラ伯爵家御息女マノン・ポリエラに真にふさわしい者を決める。――始めっ!」
審判の合図とともに、マノンは足を踏み出した。剣を下に構え、セルジュ目掛けて振り上げる。ギン……ッと鈍い金属音が空に響き渡る。セルジュはマノンの受け止め、力を込めた。拮抗した状態が続いたあと、マノンはさっと身を剥がし、追撃を始めた。
幾度となる剣がぶつかり合い、次第に腕に痺れを感じる。
(……っ思っていたより強い)
あまり稽古ができていないと言っていたけれど、さすがは大公家の血を引く者。素質は十分にあるらしい。久しぶりに骨のある相手と対峙し、いつもより力が入る。
優れた二人の剣技の応酬に、見物人たちは息を飲む。
何度目かの邂逅。剣身が擦れ合うとき、額に汗を滲ませたセルジュが苦笑する。
「やっぱり強いな。俺ではとても太刀打ちできないよ」
ノアは『無敵のレディー』の異名を持つ百戦錬磨の最強の決闘代理人。そう容易く負けることはない。しかし次の瞬間、セルジュがふっと腕の力を抜く。
「……っ!?」
その拍子に、マノンの剣先がセルジュ目掛けて降りかかる。――セルジュに怪我をさせてしまう。そう思った瞬間、彼の目の先で無意識に剣を止めていた。
セルジュは、マノンがセルジュを傷つけないように攻撃を殺したことを理解して呟く。
「マノンは優しいね。――やっぱり向いてないよ、この仕事」
直後、セルジュの渾身の一撃がマノンの剣を薙ぎ払い、腕が外に弾かれる。その隙に、セルジュはマノンの腕をぐいっと引いて――口付けした。
「~~~~!?」
粘膜とも肌とも違う温かい感触が唇に伝わる。マノンの手から剣が落ち、からんと地に転がる。何が起きたのかさっぱり理解が追いつかず、目を白黒させて硬直する。
(今、何を……!?)
落とした剣を拾わなくてはならないのに、身体が強ばって動けない。そして、あっという間にセルジュの剣がマノンの首筋に添えられていた。
マノンは両手を掲げ、真っ赤な顔で今にも消えてしまいそうな声を漏らした。
「こ、降参です……」
セルジュからの口付けは、どんな剣豪の斬撃よりも強烈な一撃で。最強の代理人、『無敗のレディー』の初の敗北はあっけなかった。
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