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ナディア攻防戦
第8話 ファイナの洗礼修繕へ
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販売五日目の朝。いよいよ本番。
アンナさんとナディアは、灯台に向かった。
潜入ミッションからのファイナの洗礼修復作業が間もなく開始されるのだ。
その灯台にいるはずのエルフらは、前日の夜から、出店するカレー店の前に陣取りをしていたらしく、15名のエルフが出店位置の前に座っていた。
食べたくて食べたくて仕方ない様子だ。
さすがに遠めの人だからさ。
準備万端にしたかったんだろう。
朝だが、彼らを含めて70名ほどが並んでいたのだ。
今も3名ほどが列に並んだ。
大盛況である。
準備をする前のオレとリヴァンさんはその列を遠目から見た。
「昨日。最終日だって言ったから、こんな列の人になったのかな。そんなにオレのカレーに引き寄せられるのかよ。まさかだったな。この人数」
オレが出店位置を遠巻きで確認しているとリヴァンさんが隣に立った。
「それほど美味しいんですよ。ルルさんは、自分で作っていておいて、カレーが美味しくないと思ってるんですか?」
「いやいや、それは美味しくなれと思って作ってるんですよ。それにあのカレーはお袋の味ですからね。美味しくないと言ったら、殺されますよ。オレのお袋にね」
口うるさいんだから、そんなこと言ったらボコボコなんだよ!
「そうなんですか。ルルさんのお母さんは面白い方ですね」
面白いんじゃない。
怖いんです。
とにかく、怖いんですよ。
お母さんってのはね。
「最近ですね。私もルルさんに教えてもらって、色んな料理がだいぶ作れるようになったんですよ。でもこのカレーって難しいですよね。特に調味料の調合とかの加減が……私はまだ作れませんでした」
「ああ、なるほど。でもそれは慣れですよ。リヴァンさんも作ってるうちに、そのうちにね。こうなんていえばいいんですかね。感覚で出来るようになってくるんですよ。調味料はこれくらいの量だなとか、お肉とか野菜のバランスとかですね」
カレーは、結構アバウトです!
「本当ですか。早くできるようになりたい。ローレンに作ってあげたいのです」
「お! いいですね。じゃあ、ローレンさんにとびきり美味しい物を作ってあげましょう!」
「はい!」
「それじゃあ、オレたちも作戦通りに売りますよ!」
「はい。ルルさん。もう少ししたら準備しましょう」
「ええ。そうしましょう」
オレたちの役目。
それは、エルフの引き付けの為に最後の販売へと向かう事だ。
◇
ナディアとアンナは影に潜み移動していた。
人目につかぬように、エルマルの岬を目指す。
アンナの元々の移動の上手さと。
ナディアが被っているフードの力によって。
二人は入口まで誰にも見つからず移動できた。
そして、二人は入口からの侵入はせず、事前にアンナが開けておいた二階の窓ガラスから潜入を開始した。
「ナディア様。ここから気を引き締めましょう。相手が五名だとしてもです」
「わかってるよ。アンナ。あたし頑張るからね」
「はい。私もナディア様を支えます」
ここから二人は上階へと向かう。
三階、四階へと順調に上がっていき。
その間のエルフは四人いた。
それぞれが眠たそうに、本を読んで調べ物をしていた。
「いけますね。しかしこの先には・・・まだ一人。奴ですか」
最上階手前の五階で、二人は足を止めた。
◇
五階は研究施設のような場所。
いくつも机が並べられているが各々には椅子がない。
唯一あるのは、部屋の北側にある机だけだ。
そこに座るのはガルドラと呼ばれていた男性であった。
「今日は静かだ・・・やはり誰もいないのでは、暇になりますね」
男は本を読みながら呟いた。
南の階段から登ってきた二人がその男を見る。
「ガルドラです。あれを突破せねばなりません。ナディア様、気を付けてください。彼は鋭い」
「アンナ。知ってるの。彼を?」
「はい。あの人は、先代のナディア様の護衛副隊長です。ナディア様が知らないのは、あの人はナディア様の直属の護衛には入らなかったからです。隊長が戦地へと行かせていました。ですから逆に無事であったようですね」
戦争時に、三代目ナディアとは別な戦場を任されていた。
「副隊長なら事情を言えば・・・ここを普通に通してくれるんじゃ?」
「駄目です。おそらく彼はナディア様を見れば、確実にナディア様にしようとします。狂信者の如く。彼はナディア様を崇拝していました。ですから今のナディア様が現れれば・・・あなた様はナディア様に仕立てあげられるのです」
ガルドラは、ナディアをナディアにしてくるはず。
でも、ルルロアは、ナディアを女の子にしてくれるのだ。
「いいですか。ナディア様は、ルルロア様のクエストを信じてください。この先、あなた様が信じるのは連合軍のエルフではなく、我らの領主ルルロア様とアレスロアの方たちだけです。いいですね。ナディア様」
「う、うん。わかった。あたしはルルを信じてるし、今の仲間も信じてるよ」
「ええ。そうです。皆さんがあなた様を守ろうとしてくれます。本当に素晴らしい方々です」
アンナの言葉にナディアは頷いた。
「ナディア様。今から、あの薬品を落としてください。奴の右側に注意を引いて、奴を部屋の西へ移動させ。そして私たちはこの部屋の右沿いを走ります。一気にあちらの階段を登り、あそこに見える扉からナディア様だけが入ります。私は聖魔の部屋の前に、音と魔力の遮断の結界を薄く張りますから、ガルドラの目を盗みますよ。いいですか」
「わかったわ。やるね」
「ええ。それでは、いきますよ」
ファイナの洗礼を修復する作業は佳境を迎えていた。
◇
オレはユーさんと一緒に、リヴァンさんとローレンさんがカレーを販売している所の脇にいた。
「もうちょいだ。始まるな……ユーさん。全部売れたら店をすぐにたたみますよ」
「おう」
ユーさんは南の方角。ファイナの洗礼を見た。
「…てかさ、修復ってさ。何か変わるのかな? ユーさん。オレの目にはあのファイナの洗礼は綺麗に見えるんだけど。あれが傷ついている状態なのかな」
「うむ。そこは儂にも詳しくは分からんが、あれを治せるナディアにしか分からないらしいんだ。昔。儂も、三代目にルルと同じ事を聞いたことがある」
その意見。
オレとユーさんが同じ感性を持っていることの証明だな。
「へえ。やっぱり同じ疑問が出るんだな」
「うむ。いつも見るからこそな。儂も修復前と後がよく分かっていないのだ」
じゃあ、治ったかどうかは。
ナディアだけが分かるんだな。
じゃあ、誰もこれが治っている事に気付かないわけだ。
「じゃあ、ユーさん。それくらいに修復しても変化なしに見えるってわけだ。なら、ナディアが今修復しても、周りの人間には気づかれないよな」
「そうだな。しかし、百年近くはなにもしていないの明確だ……確実に傷はあるだろう。時間がかかるやもしれん」
まったく、その通りだ。
「もしそうだったら、やっぱりナディアが危険だよね? あまり長居はしない方がいいかな?」
「そうだな。もしそうだとしたら、ナディアとして誰にも気づかれないでいられることはないだろうな」
「ああ。そいつはまずい。もう少し彼女の存在は連合軍の方で知られたくないな。せめてオレたちの町が都市になるまでの間はさ・・・」
オレとユーさんは、白のベールを見ながら会話をしていた。
◇
「ナディア様。お願いします」
「はい!」
ナディアは、ガルドラが座る席の右側にある棚。
その中にある薬品を動かした。
三本。赤二つと青一つの薬品が地面に飛び散る。
「あれ? 地震ですかね」
ガルドラが席を立ち、その零れた薬品を片付けようとしゃがんだ。
二人はその隙をついた。
「走ります」
影に隠れながら部屋の南から出発。
机の物陰を上手く利用しながら、部屋北東の階段を登る。
「いけます。ドアを少しだけ開いて、ナディア様だけが中へ」
「わかった。いくね」
「はい。今です」
ナディアが中に入ると、アンナは結界を張る。
魔力遮断と音遮断の結界の融合結界だ。
全てにおいて万能な彼女は、大変に器用なエルフである。
エルフの戦士としては、補助型。
アンナの得意分野の行動である。
「お願いします。ナディア様・・・」
アンナはナディアの背中に向かって言った。
◇
聖魔の部屋に到達したナディアは、部屋の中央の水色の大きな球を見た。
「こ、これが、ファイナの洗礼の修復装置?」
その球の目の前にまで移動すると、球が黄金に輝いた。
【あなたが当代のナディアでありますね・・・】
「え。だ、だれ・・・」
ナディアはその場でキョロキョロと声の主を探す。
【私は、こちらの修復装置。アーティファクト世界の狭間でに眠る初代ナディアの意思であります】
「初代ナディアの意思!?」
声は大きな球から聞こえた。
【はい。彼女が残した。残留思念と呼んでもいいでしょう。ファン、イヴァン、ナディア。我ら三人の努力の結晶であるファイナの洗礼には、奇跡の力が宿っているのです】
「そ、そうなんだ……あ、じゃあ聞きたいことがあるの。今のファイナの洗礼は、壊れている? あたし、ここ百年、ここに来ていないの。もしかして、修復不可能かしら」
【・・・待ってください・・・ナディア】
ナディアは黄金球を見つめて待った。
不思議な空間だった。
部屋は暗くて、この球以外に何もない部屋だ。
他に家具などの物がない分。
ここにだけ集中できるような環境なのかもとナディアは辺りを見渡した。
【・・・大丈夫です。魔力を注いでいただければ、ナディアによる修復作業は始まります】
「わかりました。あのどこにでしょうか? この黄金の球に送ればいいのですか」
【はい。お願いします。修復箇所は自動的にこちらが修復しますので、あなたは魔力を】
「はい。いきますね」
ナディアは、黄金球に向かって魔力を放出した。
黄金球に示される黒い点。
おそらくそれがファイナの洗礼の修復箇所であると。
ナディアは予想した。
自分の魔力が黄金球の内部に入り込み、黒い点を黄金に変えていく。
「こ。これが、ファイナの洗礼の修復!?」
【修復箇所は68。回復させます・・・63・・・52】
「か、数えてる!?」
【・・・はい。修復箇所が100を超えていた場合。これほどの速度では回復致しません。150を超えるとファイナの洗礼は機能停止します】
「え!? そうなの」
【はい。ファイナの洗礼が機能停止すると、世界は一変します】
「世界が?」
【はい。ファイナの洗礼には両大陸を隔絶する以外の機能があります】
「え? ジーバードとジークラッドを隔てる以外に?」
【はい。むしろ、そちらの機能の為にファイナの洗礼は存在しております。ゆえにファイナの洗礼は重要なものです。補修は確実に行わなければなりません。当代のナディア】
「は、はい」
【その反応。まさか先代から事情を聞いていないのでしょうか】
「先代から・・・もしかして、それはずっと伝承されていたの?」
【私、いえ。初代ナディアは二代目に口伝しているとなってます】
「そ、それじゃあ、三代目のお母様は殺されちゃったから、あたしに口伝されなかったんだわ」
【そうですか。三代目が・・・残念です・・・修復箇所は8・・・5・・・2・・・0】
黄金球は更に美しく輝いた。
眩い輝きを放った直後に、黄金球は水色の球に戻る。
【修復完了です。ナディア、よくやりました・・・】
「は、はい。じゃあ、さっきの話の続きを・・・」
話の続きをしようと、ナディアが話しかけようとした時に、遮るようにそちらが話しかけてきた。
【ナディア。外で戦いが起きています。こちらの部屋を守ってください。ここが破壊されれば世界は崩壊します】
「え!? じゃあ、もしかしてアンナが!?」
【ここはとても重要な施設のひとつ。絶対に死守しなければなりません。ナディアの使命であります】
「わ、わかりました。あの、修復作業をせずともあなたの話を聞きに来てもいいのですか」
【ええ。ナディアならばこの部屋にいつでも入ってもよいのです】
「ありがとうございます。それではまた来ます。いってきます」
【はい。いってらっしゃい・・・・ナディア】
当代のナディア・クオンタールは、聖魔の部屋から飛び出た。
修復機能が示唆した言葉を胸に秘めながら・・・・。
アンナさんとナディアは、灯台に向かった。
潜入ミッションからのファイナの洗礼修復作業が間もなく開始されるのだ。
その灯台にいるはずのエルフらは、前日の夜から、出店するカレー店の前に陣取りをしていたらしく、15名のエルフが出店位置の前に座っていた。
食べたくて食べたくて仕方ない様子だ。
さすがに遠めの人だからさ。
準備万端にしたかったんだろう。
朝だが、彼らを含めて70名ほどが並んでいたのだ。
今も3名ほどが列に並んだ。
大盛況である。
準備をする前のオレとリヴァンさんはその列を遠目から見た。
「昨日。最終日だって言ったから、こんな列の人になったのかな。そんなにオレのカレーに引き寄せられるのかよ。まさかだったな。この人数」
オレが出店位置を遠巻きで確認しているとリヴァンさんが隣に立った。
「それほど美味しいんですよ。ルルさんは、自分で作っていておいて、カレーが美味しくないと思ってるんですか?」
「いやいや、それは美味しくなれと思って作ってるんですよ。それにあのカレーはお袋の味ですからね。美味しくないと言ったら、殺されますよ。オレのお袋にね」
口うるさいんだから、そんなこと言ったらボコボコなんだよ!
「そうなんですか。ルルさんのお母さんは面白い方ですね」
面白いんじゃない。
怖いんです。
とにかく、怖いんですよ。
お母さんってのはね。
「最近ですね。私もルルさんに教えてもらって、色んな料理がだいぶ作れるようになったんですよ。でもこのカレーって難しいですよね。特に調味料の調合とかの加減が……私はまだ作れませんでした」
「ああ、なるほど。でもそれは慣れですよ。リヴァンさんも作ってるうちに、そのうちにね。こうなんていえばいいんですかね。感覚で出来るようになってくるんですよ。調味料はこれくらいの量だなとか、お肉とか野菜のバランスとかですね」
カレーは、結構アバウトです!
「本当ですか。早くできるようになりたい。ローレンに作ってあげたいのです」
「お! いいですね。じゃあ、ローレンさんにとびきり美味しい物を作ってあげましょう!」
「はい!」
「それじゃあ、オレたちも作戦通りに売りますよ!」
「はい。ルルさん。もう少ししたら準備しましょう」
「ええ。そうしましょう」
オレたちの役目。
それは、エルフの引き付けの為に最後の販売へと向かう事だ。
◇
ナディアとアンナは影に潜み移動していた。
人目につかぬように、エルマルの岬を目指す。
アンナの元々の移動の上手さと。
ナディアが被っているフードの力によって。
二人は入口まで誰にも見つからず移動できた。
そして、二人は入口からの侵入はせず、事前にアンナが開けておいた二階の窓ガラスから潜入を開始した。
「ナディア様。ここから気を引き締めましょう。相手が五名だとしてもです」
「わかってるよ。アンナ。あたし頑張るからね」
「はい。私もナディア様を支えます」
ここから二人は上階へと向かう。
三階、四階へと順調に上がっていき。
その間のエルフは四人いた。
それぞれが眠たそうに、本を読んで調べ物をしていた。
「いけますね。しかしこの先には・・・まだ一人。奴ですか」
最上階手前の五階で、二人は足を止めた。
◇
五階は研究施設のような場所。
いくつも机が並べられているが各々には椅子がない。
唯一あるのは、部屋の北側にある机だけだ。
そこに座るのはガルドラと呼ばれていた男性であった。
「今日は静かだ・・・やはり誰もいないのでは、暇になりますね」
男は本を読みながら呟いた。
南の階段から登ってきた二人がその男を見る。
「ガルドラです。あれを突破せねばなりません。ナディア様、気を付けてください。彼は鋭い」
「アンナ。知ってるの。彼を?」
「はい。あの人は、先代のナディア様の護衛副隊長です。ナディア様が知らないのは、あの人はナディア様の直属の護衛には入らなかったからです。隊長が戦地へと行かせていました。ですから逆に無事であったようですね」
戦争時に、三代目ナディアとは別な戦場を任されていた。
「副隊長なら事情を言えば・・・ここを普通に通してくれるんじゃ?」
「駄目です。おそらく彼はナディア様を見れば、確実にナディア様にしようとします。狂信者の如く。彼はナディア様を崇拝していました。ですから今のナディア様が現れれば・・・あなた様はナディア様に仕立てあげられるのです」
ガルドラは、ナディアをナディアにしてくるはず。
でも、ルルロアは、ナディアを女の子にしてくれるのだ。
「いいですか。ナディア様は、ルルロア様のクエストを信じてください。この先、あなた様が信じるのは連合軍のエルフではなく、我らの領主ルルロア様とアレスロアの方たちだけです。いいですね。ナディア様」
「う、うん。わかった。あたしはルルを信じてるし、今の仲間も信じてるよ」
「ええ。そうです。皆さんがあなた様を守ろうとしてくれます。本当に素晴らしい方々です」
アンナの言葉にナディアは頷いた。
「ナディア様。今から、あの薬品を落としてください。奴の右側に注意を引いて、奴を部屋の西へ移動させ。そして私たちはこの部屋の右沿いを走ります。一気にあちらの階段を登り、あそこに見える扉からナディア様だけが入ります。私は聖魔の部屋の前に、音と魔力の遮断の結界を薄く張りますから、ガルドラの目を盗みますよ。いいですか」
「わかったわ。やるね」
「ええ。それでは、いきますよ」
ファイナの洗礼を修復する作業は佳境を迎えていた。
◇
オレはユーさんと一緒に、リヴァンさんとローレンさんがカレーを販売している所の脇にいた。
「もうちょいだ。始まるな……ユーさん。全部売れたら店をすぐにたたみますよ」
「おう」
ユーさんは南の方角。ファイナの洗礼を見た。
「…てかさ、修復ってさ。何か変わるのかな? ユーさん。オレの目にはあのファイナの洗礼は綺麗に見えるんだけど。あれが傷ついている状態なのかな」
「うむ。そこは儂にも詳しくは分からんが、あれを治せるナディアにしか分からないらしいんだ。昔。儂も、三代目にルルと同じ事を聞いたことがある」
その意見。
オレとユーさんが同じ感性を持っていることの証明だな。
「へえ。やっぱり同じ疑問が出るんだな」
「うむ。いつも見るからこそな。儂も修復前と後がよく分かっていないのだ」
じゃあ、治ったかどうかは。
ナディアだけが分かるんだな。
じゃあ、誰もこれが治っている事に気付かないわけだ。
「じゃあ、ユーさん。それくらいに修復しても変化なしに見えるってわけだ。なら、ナディアが今修復しても、周りの人間には気づかれないよな」
「そうだな。しかし、百年近くはなにもしていないの明確だ……確実に傷はあるだろう。時間がかかるやもしれん」
まったく、その通りだ。
「もしそうだったら、やっぱりナディアが危険だよね? あまり長居はしない方がいいかな?」
「そうだな。もしそうだとしたら、ナディアとして誰にも気づかれないでいられることはないだろうな」
「ああ。そいつはまずい。もう少し彼女の存在は連合軍の方で知られたくないな。せめてオレたちの町が都市になるまでの間はさ・・・」
オレとユーさんは、白のベールを見ながら会話をしていた。
◇
「ナディア様。お願いします」
「はい!」
ナディアは、ガルドラが座る席の右側にある棚。
その中にある薬品を動かした。
三本。赤二つと青一つの薬品が地面に飛び散る。
「あれ? 地震ですかね」
ガルドラが席を立ち、その零れた薬品を片付けようとしゃがんだ。
二人はその隙をついた。
「走ります」
影に隠れながら部屋の南から出発。
机の物陰を上手く利用しながら、部屋北東の階段を登る。
「いけます。ドアを少しだけ開いて、ナディア様だけが中へ」
「わかった。いくね」
「はい。今です」
ナディアが中に入ると、アンナは結界を張る。
魔力遮断と音遮断の結界の融合結界だ。
全てにおいて万能な彼女は、大変に器用なエルフである。
エルフの戦士としては、補助型。
アンナの得意分野の行動である。
「お願いします。ナディア様・・・」
アンナはナディアの背中に向かって言った。
◇
聖魔の部屋に到達したナディアは、部屋の中央の水色の大きな球を見た。
「こ、これが、ファイナの洗礼の修復装置?」
その球の目の前にまで移動すると、球が黄金に輝いた。
【あなたが当代のナディアでありますね・・・】
「え。だ、だれ・・・」
ナディアはその場でキョロキョロと声の主を探す。
【私は、こちらの修復装置。アーティファクト世界の狭間でに眠る初代ナディアの意思であります】
「初代ナディアの意思!?」
声は大きな球から聞こえた。
【はい。彼女が残した。残留思念と呼んでもいいでしょう。ファン、イヴァン、ナディア。我ら三人の努力の結晶であるファイナの洗礼には、奇跡の力が宿っているのです】
「そ、そうなんだ……あ、じゃあ聞きたいことがあるの。今のファイナの洗礼は、壊れている? あたし、ここ百年、ここに来ていないの。もしかして、修復不可能かしら」
【・・・待ってください・・・ナディア】
ナディアは黄金球を見つめて待った。
不思議な空間だった。
部屋は暗くて、この球以外に何もない部屋だ。
他に家具などの物がない分。
ここにだけ集中できるような環境なのかもとナディアは辺りを見渡した。
【・・・大丈夫です。魔力を注いでいただければ、ナディアによる修復作業は始まります】
「わかりました。あのどこにでしょうか? この黄金の球に送ればいいのですか」
【はい。お願いします。修復箇所は自動的にこちらが修復しますので、あなたは魔力を】
「はい。いきますね」
ナディアは、黄金球に向かって魔力を放出した。
黄金球に示される黒い点。
おそらくそれがファイナの洗礼の修復箇所であると。
ナディアは予想した。
自分の魔力が黄金球の内部に入り込み、黒い点を黄金に変えていく。
「こ。これが、ファイナの洗礼の修復!?」
【修復箇所は68。回復させます・・・63・・・52】
「か、数えてる!?」
【・・・はい。修復箇所が100を超えていた場合。これほどの速度では回復致しません。150を超えるとファイナの洗礼は機能停止します】
「え!? そうなの」
【はい。ファイナの洗礼が機能停止すると、世界は一変します】
「世界が?」
【はい。ファイナの洗礼には両大陸を隔絶する以外の機能があります】
「え? ジーバードとジークラッドを隔てる以外に?」
【はい。むしろ、そちらの機能の為にファイナの洗礼は存在しております。ゆえにファイナの洗礼は重要なものです。補修は確実に行わなければなりません。当代のナディア】
「は、はい」
【その反応。まさか先代から事情を聞いていないのでしょうか】
「先代から・・・もしかして、それはずっと伝承されていたの?」
【私、いえ。初代ナディアは二代目に口伝しているとなってます】
「そ、それじゃあ、三代目のお母様は殺されちゃったから、あたしに口伝されなかったんだわ」
【そうですか。三代目が・・・残念です・・・修復箇所は8・・・5・・・2・・・0】
黄金球は更に美しく輝いた。
眩い輝きを放った直後に、黄金球は水色の球に戻る。
【修復完了です。ナディア、よくやりました・・・】
「は、はい。じゃあ、さっきの話の続きを・・・」
話の続きをしようと、ナディアが話しかけようとした時に、遮るようにそちらが話しかけてきた。
【ナディア。外で戦いが起きています。こちらの部屋を守ってください。ここが破壊されれば世界は崩壊します】
「え!? じゃあ、もしかしてアンナが!?」
【ここはとても重要な施設のひとつ。絶対に死守しなければなりません。ナディアの使命であります】
「わ、わかりました。あの、修復作業をせずともあなたの話を聞きに来てもいいのですか」
【ええ。ナディアならばこの部屋にいつでも入ってもよいのです】
「ありがとうございます。それではまた来ます。いってきます」
【はい。いってらっしゃい・・・・ナディア】
当代のナディア・クオンタールは、聖魔の部屋から飛び出た。
修復機能が示唆した言葉を胸に秘めながら・・・・。
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ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。
バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
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