カラフルボックス ~絡め取られて腕のなか~

夏笆(なつは)

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二十五、

 

 

 

「おお、舞岡にゃん。その姿。流石、凡クラスのルーナだな」 

「あ。特進クラスのいやみく・・・ふぐっ」 

 『母さんが作ってくれた水筒のほうじ茶、飲み切っちゃったからペットボトル買いたい』と言い出した薫の言葉に従い、門脇と将梧、それに水原が、共に自販機へと移動した所でそう声をかけられ、以前『凡クラスのルーナ』と自分のことを言った、特進クラスの嫌味くんだと気づいた薫が答え掛けるも、将梧と門脇から同時にがしっと後ろへ後退させられ、見えるのは将梧と門脇の背中のみとなった。 

 

 おっふ。 

 なんだよ、急に。 

 将梧も門脇も、どうした?どうした? 

 

「しっ。かおちゃん、駄目だよ。やり過ごすまで、静かに・・ね?」 

 一体なにごとだと、身を乗り出し言いかけた薫はしかし、共に将梧と門脇の背後に立つ位置取りをした水原によって、その行動を止められ、更に不審な顔になる。 

「は?やり過ごすってなに?」 

「怪我人を出さないため」 

「は?へ?どゆ意味?」 

 説明をされても、その説明が理解できないと、きょとんとする薫を、水原は懸命に留まらせる。 

「双璧の魔王の暴走抑止にご協力ください、だよ。かおちゃん。怪我人をださず、穏便に体育祭を終わらせるためだから、かおちゃんは、何も聞かない、見ないで行こう。ね?」 

「いや。だから、それなに?てか、かおちゃん呼びに変更なの?あ、その前にあいつか」 

 『ここは、内申のためにもなにとぞ~』と平伏の真似事をしてみせる水原に、薫は笑っていいのか、笑う場面ではないのかと、迷いつつ前を、件の嫌味くんを見た。 

「おお!凡クラスのルーナ!やはり、俺様のことは分かるのだな!いやいや、信じていたにゃーん。近いうち、必ずこの邪魔なふたりより優秀な位置に、つまりは学年首位に立って、凡クラスのルーナを迎えに行くから、待っていてくれたまへ!」 

「え?何それ。いらない。間に合っています」 

 何故か、踊り出しそうな雰囲気で言った特進の彼に、薫が冷静に・・・いや、かなり引き気味に言うも『今日の俺様の活躍は、すべて凡クラスのルーナに捧ぐ~。感謝は要らぬが笑顔は欲しい~』と謳うように言い、舞いながら去って行く特進の彼に薫の言葉は届かず、また、特進クラスの彼の言葉が、すべて薫に届くことは無かった。 
 
「え?ちょっとなに。お前の迎えなんかいらない・・・って、行っちゃった。うーん。今のなんだったんだろ?」 

「白昼夢だろう」 

「ああ。秋庭の言う通りだ。実際には、何も無かった」 

「「つまり。記憶から消せ」」

 気にすることは何もないと、声を揃えて言う将梧と門脇に、薫はけれど、瞳を輝かせる。 

「でもさ。ひとつ分かったよ」  

「ん?舞岡が気にするような、価値のあるものが、あったか?」 

「・・・薫が、意識をもっていかれること・・・だと?」

「か、かおちゃん。分かったことって、なに?」 

 薫の態度と言葉に過剰反応を示す、将梧と門脇の眉間の皺と瞳の鋭さ、そして周りに醸す空気を恐ろし気に見た水原が、顔を引き攣らせつつも、その本音を聞くべく薫に問うた。 

「あの、特進クラスの嫌味くんの名前。佐々木くんって言うんだね。初めて知った」 

「え」 

「は?」 

「・・・・・」 

「ほら、ゼッケン着けてたから。シャツの刺しゅうとかじゃわからないけど、よく見えた」

 そう、にこにこと薫が言った瞬間、将梧と門脇が怪訝な顔になり、次いで、その場の非常事態が緩和された。 

「なんだ・・・そうか。その程度か」 

「ああ。何も心配することはなかったな」 

「はあ・・・・かおちゃん。罪作り」 

 将梧と門脇に続いて『本当にもう』と首を振る水原に、門脇が苦笑する。

「そもそもの話。水原が、選ぶのは舞岡だなどと言うから、ややこしくなる」

「まあ。案ずるより産むが易し。薫は薫だったということか」

「そうだな」

「だね。ま、かおちゃんらしいか」

「ちょっと!なに、その反応!」 

 相次いでため息を吐かれ『実は、俺を馬鹿にしているだろう!』と、ぷりぷり怒っている薫を可愛いと見つめた将梧と門脇だけでなく、水原までもが特進クラスの彼に勝ち目はないと確信した。 

「俺たちより優秀な位置に立てば伝えるなどと、不快なことを言っていたが」 

「そんな日は永遠に来ないから、問題無い」 

 それは、不敵に笑う門脇と将梧の話が、ひどく現実的だったからということと、あとひとつ。 

 

 わああ、代々木くん。 

 かおちゃん、君の名前さえ知らなかったよ。 

 そんでもって、今、間違えて覚えたよ。 

 

 水原が内心で『あちゃー』と呟いた通り、薫が、代々木を佐々木と間違えたうえ、大して興味を持っていないことを確信したからである。 

 

 因みに。 

 文武両道を地で行く代々木君は、この体育祭でも随所で薫に活躍を見せられそうになるのだが、ことごとく将梧と門脇に潰されることとなる。 

 こうして、双璧の魔王伝説は、着実に編まれて行くのであった。 

 
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