カラフルボックス ~絡め取られて腕のなか~

夏笆(なつは)

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二十八、

 

 

 

「決勝まで残るなんて、やるじゃん。舞岡薫まいおかかおる。流石、みやびのライバルを気取るだけのことはあるね」 

「は?お前のライバルを気取るってなんだよ。大体、何のライバル・・・って、チアか」 

 決勝戦を目前に、そう言って揚々と両陣営の間まで歩いて来た須田雅すだみやびを見て、薫は引き気味にしながらも、そうかチアのことかと納得した。 

「はあ!!チア?そんなチンケなもんじゃないってば!あんた、本当に今から何をして、何を決めるのか分かってないの!?もしかして!」 

「そんなの分かってるに決まってんだろ。これから騎馬戦の決勝戦して、優勝クラスを」 

「ばかばかばかばか!あほあほあほあほ!そんなわけないだろ!これから決まるのはね、真実の姫だよ! 」

「はあ?」 

 決勝開始前。 

 それぞれのクラスが、それぞれの位置につくなかで、須田雅はその中央に立ち、すっくと薫に人差し指を突きつけた。 

 因みに、騎馬戦は全クラス総当たりの結果、ここまで全勝している薫のクラスと、同じく全勝している須田雅のクラスが最終戦、事実上の決勝戦を行うこととなった。 

 この一戦を制した者が、騎馬戦の覇者となるとあって、緊張感に満ちた空気が流れていたのだが、須田雅の行動によって、それが一部削がれる。 

「いやいやいやいや。何言っちゃってんの。姫ってなんだよ、姫って」 

 その筆頭たる存在は、薫。 

 最終戦、ここまでの他クラスとの闘いでその強さを目の当たりにし、自分達の全勝を守り切れるかどうかという緊張に身がふるえるほどだった薫は、一気に弛緩したように間抜けな声を出し、次いで、そう言って笑わせ、油断させる策かと苦笑した。 

「姫は姫!この須田雅が姫でなくて、なんだっていうんだよ。そもそもだろ?当然のことなんだよ。須田雅と書いて姫と読む。それくらい、常識」 

「・・・・・・・・」 

 須田雅の言い分に薫が絶句するも、須田雅は当然という姿勢を崩さない。 

「うわあ。今、自分のこと姫って言い切ったよ」 

「ああ。奴の思考回路は正常か疑わしいが、舞岡の緊張が解けたのはよかったな」 

 須田雅の宣言に、水原が仰け反り、門脇は『まあ役に立った』と訳知り顔に頷いた。 

「ねえねえ。あれ、あの言葉。須田くんは、自分のこと姫だって、本気で思っているってことだよね。こおんな大勢の前で、須田雅と書いて姫と読むと断言するなんて、凄いね」  

 そして薫は、素直に凄いと繰り返す。 

「確かに凄い自信だよねえ。俺に少し分けて欲しいよ」 

 まんざら冗談でもないように水原が言い、そこまで黙っていた将梧が、徐に薫の前に立った。 

「薫。強張っている薫も、可愛かった。間抜けている時も、何を思ってか敵に賞賛を送っている今も。でも、笑顔の薫が一番可愛い」 

 そして告げられた言葉に、薫が強く反応する。 

「それ!俺のことディスってるよね!?」 

「何を言う。薫は可愛い。そして姫だ」 

「いや、将梧!今、可愛いも姫も関係無いから!これからあるの、騎馬戦の決勝だから!」 

 『ちゃんと分かってる!?』と叫ぶ薫からは、須田雅の悪意に満ちた視線は見えない。 

 何故なら将梧がその正面に立ち、完全に塞いでいるから。 

「反応スレッショルドの違いか」 

「まあ、門脇もがんばんなよ」 

 そんな将梧の動きの意味に気付いた門脇が呟き、水原が励ます。 

「これから騎馬戦の決勝戦。そして、薫が真実の姫だと証明する。大丈夫だ。ちゃんと分かっている」 

「いや、だから!姫は関係ないだろ!」 

「いいや、舞岡。お前が真実の姫だと、俺達全員で証明してやる」 

「そうだよ、かおちゃん。一緒にがんばろうね」 

 将梧の言葉に薫が反論するも、門脇や水原はじめ、クラスメイト達は『舞岡こそが、真実の姫!』などとコールを始めてしまう始末。 

「もう!みんな、正気に返って!田上!井田も!」 

 薫の叫びも空しく、遂には薫を中心に円陣を組んだ彼らは、高揚する気分のままに騎馬を組み、騎乗して、その合図が鳴り響く時を、今や遅しと待つのだった。 

 
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