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三十、
「あー。やっちまった。失敗した」
騎馬戦で優勝し、ただ一騎生き残った薫たちは、取り囲む観衆の前を悠然と歩きながら退場した。
そしてその際、薫は凱旋将軍の如くに手を振り続けたのだが、それはチアとして致命的だったと薫は頭を抱える。
「失敗?何が?いつも言っているだろう。何をしていても薫は可愛いんだから、何も問題無い」
しかし将梧は、何をしても薫は可愛いのだからチアとしても満点だと言い切った。
「あのな、将梧。みんながみんな、お前と同じ目してたら、それでもいいよ?でも違うから。チアとしてはさ、勝利の瞬間に力強く拳を振り上げたりしちゃいけなかったし、優勝後も、あんな凱旋将軍みたいな感じじゃなくて、もっとこう、高貴なお姫様・・は、ちょっとあれだけど、まあ、そんな感じで優雅に手を振るべきだったと思うんだよ、俺は」
そんな将梧にため息を吐き、薫は大きく首を横に振る。
「そうか?俺も、秋庭の言う通り、問題ないと思うぞ?舞岡。女性だって、あれほど高揚した勝利を迎えた時には、拳を振り上げることだってあるだろう。凛々しい姫のようで、好感が持てた」
「そうだよ、かおちゃん。俺らが護るだけじゃなくて、共に戦える勇敢なお姫様。薫姫、最高、最強ってね」
「はあ。門脇もあきちゃんも、なんだかんだ俺に甘いよね」
『冷たくされるより、ずっといいけども』と呟いた薫は、この後は、チアらしく、なるべく可愛らしく振る舞うことを決意した。
「それより、薫。本当にバトン役は嫌じゃないのか?」
薫のなかで、騎馬戦時のチアとしてどうなのか問題が一段落したとみた将梧は、自身がずっと気になっていた話題を口にする。
「ん?・・ああ、うん。大丈夫」
急な話題変換に驚きつつも薫が答えれば、将梧の眉がきつく寄った。
「本当の、本当にか?今なら、未だ間に合う。嫌なら、俺が代わる」
「いやいやいやいや。将梧がバトンって、うちのクラス絶対負けんじゃん。てか俺、将梧担いで走るとか、絶対無理だし」
『自分の身長知ってる?冗談もほどほどにしなよ』と薫に笑われるも、将梧は憮然としたまま『冗談ではない』と告げるのみ。
「大丈夫だよ。変に暴れたりしないで、ちゃんと大人しくバトンになるから」
「そんな心配はしていない・・けど。そうか。大人しく腕に収まる薫。いい」
呟くように言ったまま宙を見つめる将梧に、門脇が呆れた様子で声を掛ける。
「秋庭。おい、帰って来い・・しかしまあ、一理ある。大人しくこの腕に、舞岡が」
「は!?なに!?ふたりとも、そんなに心配だったわけ?俺が暴れるかもって。ちゃんと大人しくバトンになるに決まってんじゃん。失礼な」
そして、理不尽だと、ぷりぷり怒る薫。
「え。なに、このカオス。それにしても、秋庭もいいんちょも重症だねえ。もう。かおちゃんてば、ほんと罪作りなんだから」
将梧を呼び戻すどころか、途中で自分もそちら側へ行ってしまった門脇を見、自身の発言でこの状況になっていながら、明後日の方向で怒っている薫を見て、水原が楽し気な声をあげた。
「凡クラスのルーナ!またも敵ではあるが、互いに最善を尽くそう!」
そこへ、いきなり飛び出した来たのは、特選の代々木。
彼の姿を認め、薫は嬉しそうに笑みを浮かべた。
「あ、佐々木くん!さっきは、応援ありがとね!」
「は?佐々木?・・あ、いや、応援?」
「騎馬戦の時!俺のこと応援してくれたでしょ」
にこにこと笑顔で薫に言われ、代々木の頬が、ぽぽぽと染まる。
「そ、それ・・は。俺の応援だと分かったということか?」
「分かったよ!だって、『舞岡にゃん』なんて呼ぶの、佐々木くんだけだもん」
「もん・・可愛い・・そ、そうか!いやなに。いい試合を見せてもらった。それに、勝利の瞬間の拳も、凄くよかった」
やにさがりそうになるのを何とか堪えて代々木が言えば、薫がきょとんと眼を丸くした。
「あの拳、よかった?」
「ああ。勝利に導いた戦女神のようだった」
真顔で言う代々木に、薫は笑みを深くする。
「うん。ありがと、佐々木くん」
「ああ、いや。俺の名は」
「薫。時間だ」
『俺の名は、代々木だ』と言いかけた代々木の言葉を遮り、将梧がぬっと顔を出した。
「あ、もう始まる時間?じゃあね、佐々木くん!」
「ちょっと、待ってくれ舞岡にゃん。俺の名は」
「行くぞ、舞岡」
再度言いかけた代々木を、今度は門脇がブロックする。
「うん。佐々木くんも頑張ってね!あ、そうだ。将梧や門脇には負けちゃったけど、いい勝負だったよ!」
先に行われた障害物競争や短距離走の順位を持ち出し、笑顔で言う薫に代々木は呆けた。
「見ていて、くれたのか。舞岡にゃん」
しかし、呟いた時には、薫はもうその場にいない。
門脇と将梧に挟まれ、じゃれながら歩いて行く薫のその背を、少し苦さが混じるものの、嬉しそうな瞳で見送る代々木を見て、水原は深いため息を吐く。
「はあ。かおちゃん。ほんとに罪作り」
「あきちゃーん!早くおいでよ!おいてっちゃうぞ!」
「おう、今行く!」
しかしながら、笑顔で振り返って手を振る薫は確かに可愛いと、走り出そうとした水原の腕を代々木ががしっと掴んだ。
「ちょっと、待て水原!舞岡にゃんは、何故俺の名を佐々木と」
「文字の見た目が似てるからじゃない?かおちゃんって、そういうひとだよ」
それだけを言い置いて、水原は薫たちに追い付くべく走り出す。
「文字の見た目が似ているから・・・舞岡にゃん。そんなところも可愛い」
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