カラフルボックス ~絡め取られて腕のなか~

夏笆(なつは)

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三十二、

 

 

 

「そういえば、いっちゃんセンセのチアの衣装って、家庭科の沢渡さわたりセンセが作ったんだよね?」 

「ああ。他の先生方も、何やらやけに張り切って、チュールやレースをふんだんに使って美しい衣装を作るのだと言って」 

「うん、分かる。すっごく凝ってた・・って。うわあ、いっちゃんセンセ、目が遠くなっているよ!」 

「何というか。みんな凄かった」 

「ああ、分かる。でもさ、何か楽しくもなかった?」 

「確かに。なかなか体験できないことだしな」 

「一生に一度!希少!」 

 

 

 ・・・薫、一生に一度なんて甘いな。 

 今日の薫は、本当に楽しそうだったし、何より物凄く可愛かった。 

 あの件も、押せばいけそうだって、またもクラスが一致している・・ことは、未だ言わなくていいか。 

 それにしても、ぎりぎり門脇に勝てて良かった。 

 

 薫が、市谷たちと楽しそうに話すのを聞きながら、将梧は今日という日を振り返る。 

 

 チアの衣装を着て、その衣装に相応しい所作をと気を配っていたからか、いつも以上に可愛い薫の傍に最大限いられたし、薫の、可愛い動きや姿を色々な距離や方向から堪能できたのは良かった。 

 それに、クラスのMVPを門脇と競うことになるのも想定内だった・・が。 

 『戦女神』 

 あれは、言い得て妙だった。 

 俺が思い付けなかったことが、心底悔しい。 

 

 騎馬戦を勝利に導いた薫を『戦女神』と称した特進の代々木を思い出し、将梧は苦虫を噛み潰したような表情になった。 

 しかも、名前こそ代々木を佐々木と間違えてはいるが、薫は既に代々木を警戒していない。  

 どころか、遠い友達くらいには思っていそうだと、将梧はため息を吐く。 

 

 まったく。 

 ひとの気も知らないで。  

 天性の人たらしか、薫は。 

 

 言っていない、伝えていないのだから当然ではあるが、ひとりやきもちさせられて、やや恨めしい気持ちさえ湧きそうになった将梧は、胡乱な目で薫を見た。 

「あ、将梧。そろそろ帰る?今日は大活躍だったもんな。早く帰って風呂入って、汗流したいよな」 

 すると即座にそう言われ、機嫌が一気に上方修正される。 

「ああ。そうしよう」 

 

 前言撤回。 

 恨みなんて湧かない。 

 薫は、可愛い。 

 早く『俺の』って言いたい。 

 

「んじゃ、帰ろ。みんな、また明日なー」 

 元気に手を振って教室を出る薫と共に、将梧は機嫌よく家路についた。 

 

 

 

「目標。いつか、また薫と一緒に風呂に入る」 

 家に帰り、風呂を済ませた将梧は、ひとり決意の声をあげる。 

 幼い頃は、毎日のようにどちらかの家で一緒に風呂にも入っていた薫と将梧だけれど、将梧が薫に明確な恋心を抱いたあたりで、それに気づいた両家の親により、一緒に入ることは禁止されてしまった。 

 けれど、薫の裸体を見て平常心が保てるとも思わない将梧は、それでいいと思っている。 

 薫に自身の変化を知られ、引かれても困る。 

 いつか、この想いを遂げた暁には、一緒に入れるのだからと。 

「よし。薫も、風呂から上がったな」 

 そして自分の部屋で髪を乾かした将梧は、薫も自室に戻ったのを確認し、ハート形の吸盤の付いた矢を手に取った。 

 薫の隣も、薫の特別な笑顔も、全部自分のものにしたい将梧だけれど『体を繋げたい恋情を抱いている』と、薫に告白するには未だ早いと思っている。 

 もちろん、他の誰にも譲る気持ちは無いが、未だ完全に立場を確立したと言えない今、嫉妬と焦燥で気持ちが擦り切れそうになることはある。 

 そんな時の対処法として、将梧はこの矢を編み出した。 

 気持ちを言葉にして伝えるのは時期尚早だが、外郭から攻めるのは戦法のひとつだろうと思う。 

「薫。俺の想いを思い知れ」 

 そして、将梧は今日も薫へ向かって、ハートの矢を投げる。  

「はっ!」 

  

 だんっ。 

「うおわああっ」 


 薫の叫びが聞こえるまで、あと、ほんの少し。

 
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