カラフルボックス ~絡め取られて腕のなか~

夏笆(なつは)

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三十四、

 

 

 

「将梧。大学って、すっごく広いんだな」 

 将梧の希望校の門を潜るなり、薫はあんぐりと口を開けてそう言った。 

「薫。迷子にならないように、手を繋ごうか」 

「間に合っていますー。なんだよ、ひとを子ども扱いして」 

 将梧の真の意図にも気づかず、薫はぷりぷりと怒りながらずんずん進んで、知らない人たちの壁に行き当たった。 

「君、可愛いね」 

「へ!?」 

 いきなり、数人の男子学生に行く手を阻まれ、薫は目を瞬かせてしまう。 

「ほんとに可愛い・・君、高校生でしょ。こんなに可愛い子がいたら、絶対見逃す筈ない」 

「だよな。本当に可愛い・・モデルか何か、してたりする?」 

 

 うわあ、久しぶり。 

 まさか、大学の見学に来て遭遇するとか思わなかったけど。 

 でも、もしかしたら、俺を女の子と間違えているかもしれないから。 

 

「あの。俺、男ですけど」 

 過去、こうやって声を掛けて来た人たちの何割かは、薫を女の子だと思って声を掛けて来たので、その可能性もあると薫は、なるべく太い声で告げてみた。 

「うん。分かっているよ」 

「というか、声も可愛いねえ。姿も合わせて、天使か妖精かってとこか」 

「ほら、俺らと行こうよ。案内してあげるから。その後、もっといいところに連れて行ってあげる。もちろん、俺ら持ちだから心配しなくていいよ」 

 表向き人の好さそうな、しかしその実、瞳には意味深な光を宿す笑みと共に距離を縮められ、腕を掴まれそうになるのを何とか避けて、薫はその顔に笑みを貼り付ける。 

「でも、連れが居るので」 

「連れって、あの、後ろで女の子たちに捕まっている彼?いいんじゃない?向こうは向こうで楽しくやるだろうから」 

 言われ、後方の将梧を見れば、確かに数人の女子学生に囲まれているのが見えた。 

 その顔は、不機嫌そのものなのに、周りの女子学生は、一向に気にした様子が無い。 

 

 うわあ。   

 あんなに不機嫌な将梧の肩に手を掛けようとするなんて、自殺行為。 

 つか、将梧の嫌がることするなよ。 

 将梧、今行くからな! 

 

「ね。話、聞いている?」 

 将梧を救出に行かねばと、その場を駆け出そうとした薫はしかし、ひとりの男子学生にがしっと腕を掴まれて、無理矢理振り向かされてしまった。 

「いたっ。何するんですか!」 

「だって、僕達の話を聞かない・・・か・・ら」 

「?・・・わっ!」 

 にやにやと笑いながら言っていた、その顔が何だか恐怖に歪んだと思ったその時、薫は、後ろから膝を折られ、自然と誰かに抱き上げられる。 

「薫」 

「ああ、将梧か。びっくりした」 

 ならばと体から力を抜く薫を満足そうに見つめ、将梧は、その場にいた男子学生たちを一瞥すると、そのまますたすた歩き出した。 

「大人しく横抱きにされている薫、凄く可愛い」 

「何言ってんだよ。将梧が教えてくれたんじゃないか。ほら、体育祭の全員リレーのバトンの時。肩に担がれるんだとばかり思ってたら、横抱きだって聞いて驚いたけど、力を抜いて相手に任せればいいんだって、将梧が」 

「相手にというか、あれは、俺にと言ったんだが」 

「お蔭で、スムースにいって、全員リレーでも一位だったよな・・・って!将梧!ここ、大学の構内!今はリレーじゃなかった!下ろして!」 

 横抱きにされたのなんて、あの時だけだから反射的に身を委ねてしまったと暴れる薫を、将梧は愛しそうに見つめる。 

「なら、手を繋ごう。薫は、やっぱりひとりで歩いたら危険だから」 

「それ、将梧もな。綺麗どころに囲まれやがってからに」 

「嫉妬か?」 

「悪かったな!俺はどうせ、女の子からはもてないよ!」 

「いや。逆」 

「逆ってなんだよ、もて男!」 

 

 ああ。 

 きゃんきゃん吼える仔犬みたいで、薫、可愛い。 

 誰にも見せたくない。 

 

「おい、将梧!苦しいから力込めんな!」 

 思わず、ぎゅうと抱き締めた将梧へとあがる、薫からの苦情。 

 それを無視して歩き続ければ、薫は、ぽかぽかと将梧の胸を叩いた。 

「下ろせってば!ひとが、奇異なものを見る目で見るだろ!」 

「下ろしたら、手を繋ぐか?」 

「将梧?」 

「だって、いつもは普通に手を繋ぐのに」 

 人込みでは得にそうして来たのにという将梧に、薫ははっと目を開く。 

「ああ。俺、なんか大人になってないって思ったのかも」 

 将梧が入学を希望する大学に見学に来て、確実に大人へと近づいている年齢なのに、いつまでも子供っぽいと自覚したのかもと薫が考え込む。 

「大人になっても手を繋ごう。そういう関係でいよう」 

 そんな薫に、将梧はそう囁いた。 

 

  
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