カラフルボックス ~絡め取られて腕のなか~

夏笆(なつは)

文字の大きさ
35 / 54

三十五、

 

 

 

「・・・ねえ、将梧。大学見学って、こんなに大変なものなの?こんなに、たくさんのひとが追いかけて来るなんて、考えもしなかったんだけど」 

 将梧とふたり茂みに身を寄せた薫は、周りに気付かれないよう、こそりと将梧に耳打ちした。 

「そんなわけないだろう」 

 あわよくばと接近し、声を掛けて来る数多の相手から逃れ、何故か悪くもないのに身を隠す羽目になっている薫が言えば、将梧が、薫が触れられた肩や腕を、消毒と言わぬばかりに摩りながら不機嫌に答える。 

「普通は、こんなことにはならない筈だ。薫が、可愛いから。ほいほい人を引き寄せる」 

「えええええ。将梧目当てのひとも、たくさん居たじゃん」 

 まるで自分だけが悪いかのように言われた薫が、ぷくっと膨れて反論する。 

「薫、可愛い。その顔も、凄くいい。だけど、それが駄目なんだ。俺の前だけならいいけど、外では注意しろ」 

 不満そうに頬を膨らませる薫も、栗鼠のように可愛いけれど、他の目がある時には注意しないとと、将梧は真顔で言い切った。 

「はあ。それ、将梧の方だろ。この、美女集積機め」 

 呆れたように言って、薫は少し首を伸ばして周囲を見やる。 

「・・・はあ。未だ諦めないとは。薫狙いの奴らは、しつこいな。気持ちは、この上なくよく分かるとはいえ・・ちっ。これは、入学してすぐ、威嚇の必要があるな。でないと、薫と俺が会うこともままならなくなる。薫の安全のためにも、早急に」 

「なあなあ、将梧。今更なんだけどさ。あの人たちが居ない方から周るってのは、ありなの?」 

 自分の世界に入り込み、ぶつぶつと対策を練っていた将梧に、薫がくるんとした目を向けてそう言った。 

 今、自分達が予定してきた経路には、うるさく付き纏う学生たちが、薫と将梧を探してうろうろしている。 

 ならば、その反対側。 

 未だ誰とも遭遇していない、予定と逆回りはありなのかと、薫は将梧に尋ねた。 

「薫。天才」 

 もちろん、それもありなのに、思い付かなかったと手を打って、将梧は薫の手を握った。 

「じゃあ、行こう」 

「うん。行こう」 

 また、互いに絡まれてもいけないから、という将梧の言葉を受け、将梧を護る気満々の薫も、当たり前のように将梧の手を取る。 

「まあ、このコースを行っても、また将梧は囲まれるだろうけど、俺が護ってやるからな」 

「ああ。頼りにしている」 

 『護るのは、俺の方だ』との言葉は心の中にしまい、将梧は、薫のその気持ちが嬉しいと、手を握る力を強めた。 

「な、将梧。将梧が見たい所は、ちゃんと見学しような。周りに邪魔されて、将梧の目的が達成できないなんて、俺、絶対に嫌だから」 

 『だから、将梧をちゃんと守るよ』と笑う薫が可愛い。 

 そして、当たり前のように将梧のことを考えてくれる薫が愛しい。 

「なあ、薫。この間みたいに、また薫の手作り弁当持って遊びに行きたい」 

 ゴールデンウィークに、周りから、試験前に余裕かましているだの、ふたりで出かけるにしては行き先が渋いだのと言われた植物園デート。 

 しかしあれは、芝の上にレジャーシートを敷き、薫の手作り弁当を食べるという至福だったと、うっとり回想する将梧に、薫も笑顔で頷いた。 

「うん。あれ、楽しかったよな。まあ、弁当が、俺の黒焦げ一歩手前唐揚げと、これまた焦げかけ卵焼きってのが、難だったけど」 

 一方、自分が作った弁当の出来を思い出し、それについては遠い目になるものの、確かにあれは楽しかったと薫もその時を思い出す。 

「でも、味は凄く美味しかったし、何より俺のために作ってくれたっていうのが、最高だった」 

「はは。そんな風に言ってもらえると嬉しいよ。今度は、もっとうまく作れるように頑張るから」 

「うん。小百合母さんが『かおちゃんねえ。しょうくんに喜んでもらおうと、凄く頑張っているのよ』って言ってた。楽しみにしてる」 

 にこにこと嬉しそうに言う将梧に、薫は顔を引き攣らせながら、藪を出た。 

「いや。ハードル、上げすぎだろ・・まあ、頑張ってはいるけどさ」 

 道のりは遠いのだと、薫はそれこそ遠い目になってしまう。 

「そんなことない。この間のだって、俺には最高だった」 

「はあ。将梧は、どんな弁当でもうまいって言ってくれる、凄い彼氏になりそうだな」 

「もちろん。そのつもりだ」 

 

 薫限定で。 

 

「将梧の彼女になるひとは、幸せだな」 

「そうか。薫がそう言ってくれると嬉しい」 

 

 俺の隣は、薫専属だけどな。 

 

「ふぃー。それにしても暑いな。髪、切りたい」 

 少し伸びた襟足に手で触れて、薫が暑いと手で扇ぐ。 

「それは駄目だ。約束、しただろう?」 

 そんな薫に、将梧が少々厳しい目を向けた。 

 約束は、絶対に守れと。 

「ええええ。約束って・・・あれ、だまし討ちって言うんじゃね?」 

 夏休み前の、クラスでの取り決めを思い出し、薫は渋い顔で、将梧を見た。 

 

 
感想 0

あなたにおすすめの小説

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科 空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する 高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体 それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった 至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する 意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク” 消える教師 山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー

若頭の溺愛は、今日も平常運転です

なの
BL
『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』続編! 過保護すぎる若頭・鷹臣との同棲生活にツッコミが追いつかない毎日を送る幼なじみの相良悠真。 ホットミルクに外出禁止、舎弟たちのニヤニヤ見守り付き(?)ラブコメ生活はいつだって騒がしく、でもどこかあったかい。 だけどそんな日常の中で、鷹臣の覚悟に触れ、悠真は気づく。 ……俺も、ちゃんと応えたい。 笑って泣けて、めいっぱい甘い! 騒がしくて幸せすぎる、ヤクザとツッコミ男子の結婚一直線ラブストーリー! ※前作『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』を読んでからの方が、より深く楽しめます。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

【完結済】俺のモノだと言わない彼氏

竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?! ■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

一度も話したことないイケメンのクラスメイトと二人組になったらめちゃくちゃ執着されてた

BL
「はい、じゃあ二人組作って」──あまり人付き合いが得意ではない夏稀(なつき)にとってそれは地獄の言葉。 けれど高校ではちがう。なぜなら新しくできた友達と『二人組』協定を結んだから。 もう二人組なんて怖くないと思っていた矢先、その友達が風邪で欠席。 ほかに組む相手が見つからず、先生と組むことも覚悟する夏稀だったが、そこで声をかけてきたのは美形の転校生──緒川聖夜(おがわ・きよや)だった。 「俺と二人組にならない?」 その一言をきっかけに聖夜は夏稀との距離を急速に縮めてきて──。 執着美形攻め×平凡受けのちょっと不穏な学園BL。 約九万字、全三十話+αの物語です。