カラフルボックス ~絡め取られて腕のなか~

夏笆(なつは)

文字の大きさ
38 / 54

三十八、

 

 

 

 突撃して来る人間を躱しながら歩くこと、暫し。 

 予定より遠回りとなりながらも、薫と将梧は、目的の場所へと辿り着いた。 

「・・・へえ。これが階段教室かあ。ほんとに段々になってて、それに、すっごく広いね。ね、将梧。ここって。本末転倒だとは思うけどさ、後ろの方なら、寝ていても気づかれなそう」 

 ぐるりと辺りを見渡して、そう、悪戯っぽい笑みを浮かべて言った薫に、将梧口元を緩める。 

「授業中に寝ている薫も、可愛いだろうな」 

「いや。そういう問題じゃないだろ」 

 流石に違うと、薫は将梧を見上げて苦笑した。 

「まあ、確かに。何とも薫らしい発想だとも思う」 

「だって俺、勉強好きじゃないもん」 

 『だから、当然そっちの発想になる』と、何故か胸を張って言う薫を、将梧は蕩けるような目で見た。 

「そう言う割に、授業は真面目に聞いている薫。寝顔を他の奴らに見せない薫。可愛い」 

「なんでも最後に、可愛い付けりゃいいってもんじゃないだろ。授業中に寝ないのは、基本なんだから。それに、他の奴らに寝顔を見せない、ってなんだよ。まったく、将梧ってば。それこそ、他のひとには冗談と思ってもらえないぞ」 

 本気で言った将梧に、冗談はほどほどにしろと破顔して、薫はその場で、ぴょんと小さく跳ねた。 

「でもさ、俺みたいにちっこい人間には優しい造りかも。大きい奴が前に居ても黒板が見えないとか、なさそう。よく出来てる」 

「ああ・・・この教室で授業を受ける薫。想像するだけで、可愛い。分からない質問に難しい顔をして、廊下で思いっきり笑って、学食で、栗鼠みたいに食べる薫とか・・ああ、いい。薫と大学でも一緒とか、最高。なあ、薫。どうしても、受験はしないのか?」 

 自分が志望しているわけでもないのに、ここで授業を受けるならと、想定している薫を見て、やはり真面目だと思った将梧は、諦めの悪い一言を口にしてしまう。 

「しない」 

 対する答えは、迷いのないひと言。 

「分かった。くどいこと言って悪い。諦めたつもりだったんだけど、なんか、未練が出た。もう二度と言わない。じゃあ、今度は薫の就職候補に行こう」 

 即答した薫の、その瞳を見て、意思の強さを再確認して小さく謝った将梧が、場を切り替えるようにそう言った。 

「え?もういいのか?見たいとこ、全部見られた?」 

「ああ。充分だ。それに、そろそろ撒くのも限界だ」 

 先ほどから、追いかけっこのような状態になっている事実に、将梧がうんざりした調子で言い、薫もこくりと頷きを返す。 

「確かに。でも、そんな理由でいいの?」 

「大丈夫だ。目的は果たした」 

 『そう?ならいいけど』と返した薫は知らない。 

 将梧が、今日の一番の目的、楽しみとしていたのは、薫との学内デートであることを。 

 

 はあ。 

 本当なら、ベンチに座ってゆっくり語らう、なんてのもやってみたかったが。 

 それはまあ、またの機会にだな。 

 それまでに、邪魔者は排斥しておかないと。 

 

「じゃあ、行こう」  

 自分が入学すれば、環境、状況を整え、薫とゆっくり過ごす算段もとれると、将梧は、これからの計画を練りながら、薫を促し歩き出した。  

 
感想 0

あなたにおすすめの小説

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科 空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する 高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体 それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった 至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する 意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク” 消える教師 山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー

若頭の溺愛は、今日も平常運転です

なの
BL
『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』続編! 過保護すぎる若頭・鷹臣との同棲生活にツッコミが追いつかない毎日を送る幼なじみの相良悠真。 ホットミルクに外出禁止、舎弟たちのニヤニヤ見守り付き(?)ラブコメ生活はいつだって騒がしく、でもどこかあったかい。 だけどそんな日常の中で、鷹臣の覚悟に触れ、悠真は気づく。 ……俺も、ちゃんと応えたい。 笑って泣けて、めいっぱい甘い! 騒がしくて幸せすぎる、ヤクザとツッコミ男子の結婚一直線ラブストーリー! ※前作『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』を読んでからの方が、より深く楽しめます。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

【完結済】俺のモノだと言わない彼氏

竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?! ■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

一度も話したことないイケメンのクラスメイトと二人組になったらめちゃくちゃ執着されてた

BL
「はい、じゃあ二人組作って」──あまり人付き合いが得意ではない夏稀(なつき)にとってそれは地獄の言葉。 けれど高校ではちがう。なぜなら新しくできた友達と『二人組』協定を結んだから。 もう二人組なんて怖くないと思っていた矢先、その友達が風邪で欠席。 ほかに組む相手が見つからず、先生と組むことも覚悟する夏稀だったが、そこで声をかけてきたのは美形の転校生──緒川聖夜(おがわ・きよや)だった。 「俺と二人組にならない?」 その一言をきっかけに聖夜は夏稀との距離を急速に縮めてきて──。 執着美形攻め×平凡受けのちょっと不穏な学園BL。 約九万字、全三十話+αの物語です。