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三十八、
突撃して来る人間を躱しながら歩くこと、暫し。
予定より遠回りとなりながらも、薫と将梧は、目的の場所へと辿り着いた。
「・・・へえ。これが階段教室かあ。ほんとに段々になってて、それに、すっごく広いね。ね、将梧。ここって。本末転倒だとは思うけどさ、後ろの方なら、寝ていても気づかれなそう」
ぐるりと辺りを見渡して、そう、悪戯っぽい笑みを浮かべて言った薫に、将梧口元を緩める。
「授業中に寝ている薫も、可愛いだろうな」
「いや。そういう問題じゃないだろ」
流石に違うと、薫は将梧を見上げて苦笑した。
「まあ、確かに。何とも薫らしい発想だとも思う」
「だって俺、勉強好きじゃないもん」
『だから、当然そっちの発想になる』と、何故か胸を張って言う薫を、将梧は蕩けるような目で見た。
「そう言う割に、授業は真面目に聞いている薫。寝顔を他の奴らに見せない薫。可愛い」
「なんでも最後に、可愛い付けりゃいいってもんじゃないだろ。授業中に寝ないのは、基本なんだから。それに、他の奴らに寝顔を見せない、ってなんだよ。まったく、将梧ってば。それこそ、他のひとには冗談と思ってもらえないぞ」
本気で言った将梧に、冗談はほどほどにしろと破顔して、薫はその場で、ぴょんと小さく跳ねた。
「でもさ、俺みたいにちっこい人間には優しい造りかも。大きい奴が前に居ても黒板が見えないとか、なさそう。よく出来てる」
「ああ・・・この教室で授業を受ける薫。想像するだけで、可愛い。分からない質問に難しい顔をして、廊下で思いっきり笑って、学食で、栗鼠みたいに食べる薫とか・・ああ、いい。薫と大学でも一緒とか、最高。なあ、薫。どうしても、受験はしないのか?」
自分が志望しているわけでもないのに、ここで授業を受けるならと、想定している薫を見て、やはり真面目だと思った将梧は、諦めの悪い一言を口にしてしまう。
「しない」
対する答えは、迷いのないひと言。
「分かった。くどいこと言って悪い。諦めたつもりだったんだけど、なんか、未練が出た。もう二度と言わない。じゃあ、今度は薫の就職候補に行こう」
即答した薫の、その瞳を見て、意思の強さを再確認して小さく謝った将梧が、場を切り替えるようにそう言った。
「え?もういいのか?見たいとこ、全部見られた?」
「ああ。充分だ。それに、そろそろ撒くのも限界だ」
先ほどから、追いかけっこのような状態になっている事実に、将梧がうんざりした調子で言い、薫もこくりと頷きを返す。
「確かに。でも、そんな理由でいいの?」
「大丈夫だ。目的は果たした」
『そう?ならいいけど』と返した薫は知らない。
将梧が、今日の一番の目的、楽しみとしていたのは、薫との学内デートであることを。
はあ。
本当なら、ベンチに座ってゆっくり語らう、なんてのもやってみたかったが。
それはまあ、またの機会にだな。
それまでに、邪魔者は排斥しておかないと。
「じゃあ、行こう」
自分が入学すれば、環境、状況を整え、薫とゆっくり過ごす算段もとれると、将梧は、これからの計画を練りながら、薫を促し歩き出した。
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