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三十九、
「そういえば、薫。腹、減ってないか?」
大学見学を終え、次なる目的地である喫茶店へと向かっている途中で、はたと気づいたように将梧がそう言った。
「うん。いい感じに空いてるから、その喫茶店で昼にしようよ」
『お店の味も気になるし』と、にこにこ笑顔で言う薫に、将梧が片手で悪いのジェスチャーをする。
「ごめん、薫。その喫茶店は、コーヒーゼリーとホットケーキしか、食べ物のメニュウは無い」
「え?そうなの」
現在のバイト先<喫茶 ソレイユ>では、軽食も出しているため、薫は驚いて目を瞠った。
「ああ。高齢の方が、ひとりでやっているから、それ以上は厳しいんだと言っていた」
「そっか、おひとりで。あ!それで、俺を雇ってくれるかもしれないって話なんだね」
分かったと頷いた薫は、ならばどうするかと将梧を見上げる。
「それじゃあ、どうしよう。どこかで食べてから、コーヒーを飲みに行くようにする?あ、でも、行く時間を約束してたりはしないのか?」
「それが。約束しているし、そろそろ時間だ。ごめん、薫。俺がしくじった」
心底、申し訳なさそうに言う将梧の肩を、薫はぽんと叩いた。
「なんで、謝るのさ。俺の就職先を斡旋してくれんだろ?ほんとにありがとな」
『いくら仲のいい幼なじみだからって、ここまでしてくれる奴はいない』と、嬉しそうに笑う薫に、将梧も微笑み返す。
「幼馴染なら、このくらいする。それに、俺にとって薫は幼馴染以上に特別な存在だから」
「あ!ねえ、将梧!コーヒーのいい香りがして来た!大通りから一本裏道に入っただけなのに、雰囲気全然違うし」
「・・・・・あ、ああ。そうだな」
またも、特別な存在と口にしたのをなかったことにされた将梧は、思わず眉を寄せて不機嫌な顔をしてしまう。
「そっかあ。こういう町で暮らすのもいいね」
「ああ。薫と一緒なら、本当にいいと思う」
楽し気に周りを見渡す薫を見て、こんな風にふたり並んで歩くことも、共に暮らせば苦もないのだと、その喜びが湧き上がって、将梧の機嫌はあっと言う間に回復した。
更に。
「将梧。俺、将梧の幼なじみで嬉しい。本当に、ありがと。将梧は、俺にとっても特別な幼なじみだよ」
コーヒーの香りに惹かれるように、将梧の前を歩いていた薫がくるりと振り返り、満面の笑みでそう言ったため、将梧はすぐさま、薫と一緒に住む物件を探さなければと決意した。
薫と俺の部屋、それとリビング。
キッチンは、リビングとも繋がっているのがいいな。
薫と、最大一緒に居られる空間を作らないと。
「将梧?どうかしたか?」
「薫。いい家見つけような」
「はあ!?その前に、お前は大学受験、俺は就職試験だっての」
そんな将梧を、気が早いだろうと薫は、からからと楽しそうに笑った。
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