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四十一、
「将梧。今日は、ありがとな」
<秋庭><舞岡>と、表札が並ぶ前に立ち、薫は将梧を見上げてそう言った。
「薫こそ。俺の大学見学に付き合ってくれて、ありがとう。大変な思いもさせたのに、嫌な顔しないでくれて、嬉しかった」
はた迷惑な連中に追いかけられたことを将梧が言えば、薫も苦虫を噛み潰したような顔になる。
「ああ・・あれな。でもさ、俺は今日だけの話だけど、あそこに通うことになったら、あのひとたちは将梧の先輩になるわけじゃん?大変なのは将梧の方だよ」
「それは、適当に躱すから大丈夫だけど・・・薫が、そうやって心配してくれるの、凄く嬉しい」
「何かあったら言えよ?協力できることは、するから」
言いつつ、自分の家の門に手を掛ける薫に、将梧は心底嬉しそうな笑みを向けた。
「うん。そうする。その時は、よろしくな」
「ああ。よろしくされてやるよ。じゃあ、また」
「薫。また後で」
今日の夕食を、共に舞岡家で摂る約束をしている将梧は、綻ぶ笑顔のまま、薫が玄関の向こうへ消えるのを見送る。
『ただいまー!』
そして、その声が聞こえるのを確認してから、将梧も自分の家へと戻った。
「ただいま」
「おかえりなさい、将梧。薫ちゃんのこと、ちゃんと送って来た?」
「もちろん。ちゃんと、玄関入るまで見届けたに決まっている」
「本当ね?近所だから、隣だからって、ちゃんと玄関入るの見届けないなんて、一番危ないんだからね?」
真顔で言う母親に、将梧もまた真顔で答える。
「分かってる。薫の安全は、俺が護る」
「信じているからね?」
「任せろ」
「よろしい。じゃあ、お風呂入って、小百合ちゃんとこ行こうか」
舞岡家で共に夕食を食べる時には、将梧も母の紗枝も、風呂を済ませてから行くことにしている。
それは紗枝曰くの『帰って、歯を磨いて寝るだけにしておけば、小百合ちゃんの美味しい料理で存分に飲めるから』という言葉に則っている。
「じゃ、風呂入ってくる」
紗枝が、持って行く果物を冷蔵庫へと仕舞うのを見ながら、将梧は自分の部屋へと向かった。
きっと、薫も今頃風呂に入る準備をしている。
そう思うと、将梧は薫と繋がっているような気持ちになって、ほんわりとした幸せに包まれるのを感じていた。
「薫ちゃん。また、別嬪さんになったわね」
少し髪が伸びただけなのに、なんとも中性さが増したと、紗枝はグラスを片手に微笑んだ。
「別嬪、って紗枝ママ。俺は、男ですー」
そんな紗枝に、好物の唐揚げを食べながら薫が答える。
「かおちゃんは、男の子でも髪が長いの、似合うと思うわ」
「はあ。あっついんだよ、髪がちょっと伸びただけで」
苦痛だと言う薫の襟足に、将梧が手を伸ばした。
「髪が長くても短くても、薫は可愛い。でも、苦痛は分かち合いたいから、俺も髪を伸ばすことにした」
「あら。それはいいわね。伴侶の苦労を分かろうとするなんて、やるじゃない将梧」
宣言するように言った将梧に紗枝が大きく頷き、薫は苦笑と共にラディッシュを噛み砕く。
「伴侶って、紗枝ママ。日本語おかしいから」
「あらー。ちょっとフライングしちゃったわ」
『今のはノーカウントで!』と笑う紗枝を見た小百合が、真面目な表情で薫を見た。
「ねえ、かおちゃん。高校を卒業したら、しょうくんと住むつもりなの?」
「ああ、うん。いいかな?」
ごっくんとジュースを飲んだ薫が居住まいを正せば、その隣で将梧も背筋をぴんと伸ばす。
「かおちゃんが、そう望むならお母さんは何も言わないけれど」
語尾を濁すように言った小百合が、真っすぐに将梧を見つめ、将梧もまた小百合を真っすぐに見つめ返した。
「小百合母さん。薫は、俺が護ります。もちろん、俺からも」
「は?護るって何?だから、俺も男・・って、将梧からも護るってなんだよ。何回も一緒に寝てんだから、将梧の寝相がいいことなんて知っているって」
例え並んで布団に並んで寝ても、寝返りで襲われないから大丈夫だと笑う薫を、将梧も紗枝も、そして小百合も、複雑な表情で見つめていた。
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