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四十六、
「 <姫。アンネマリー姫。家が決めた婚姻とはいえ、貴女と共に在れることを幸せに思います> 」
「おお。門脇すごいな。初めての読み合わせなのに、もう雰囲気出てる!」
教室の机を会議室仕様にし、格好だけは本物の演劇の様相で始まった、学園祭のための練習は、薫のそのひと言で、すぐさまいつもの教室の雰囲気と相成った。
「そりゃあ、熱も入るでしょ。舞かおちゃんの相手役なんて、いいんちょ、おいしいとこ取って行ったよねえ」
「舞岡くんのお姫様に、門脇委員長の王子様、それに秋庭くんは異界の王子様だなんて、どんな衣装にしようかって、今から腕が鳴るよ」
やや緊張気味に台本を見ていた水原が、まず薫の言葉に乗り、田上もそれに続く。
「舞岡!今度こそ、ウィッグ着けてもらうからな!ああ、楽しみだ」
更に、今回のヘアメイクを担当することになっている井田が、嬉しそうに言ったところで、低い声が響いた。
「ちょっとみんな。やる気、あるのかしら?」
女性のような言葉遣いなのに、地を這うようなその声に、その場の空気が再び一転する。
「あ、綾小路、ごめん!門脇が、あんまりにも上手だったから、つい感動して」
「舞岡ちゃん。つい、で済むのなら警察も法律も要らないの。分かるわね?」
絶対零度の視線でにらまれ、薫は蛇に睨まれた蛙のごとく飛び上がった。
「わ、分かった・・分かりました!」
「それなら、いいの。舞岡ちゃん。あなたが、主役なの。この劇の浮沈は、あなたにかかっていると自覚なさい。いいわね?」
丸い眼鏡をくいっとあげて言う綾小路に、薫は幾度もこくこくと頷く。
「それにしても。舞岡ちゃん、本当に可愛いわよね。結局、劇は異国のお話に決定したけれど、かぐや姫の衣装も、凄く似合ったと思うわ」
「それだよな。長い黒髪も、ぜってえに似合う!」
早まったかしらと呟く綾小路に井田も身を乗り出し、誰が止める間もなく田上も参戦した。
「ぼくも、そう思うんだよね。ね、だからさ。劇とは関係なく、仮装ってことで、かぐや姫の衣装も着たらいいんじゃないかと思うんだ」
「ちょっと待て!ぜんっぜん、よくないから!仮装ってなんだ、仮装って!俺は、劇で姫役やるだけで、いっぱいいっぱいだっての!」
薫の懸命な叫びに、門脇が分かっているというように頷きを返す。
「舞岡の言う通りだ。今回は、姫役に徹してもらうのがいいんじゃないか?」
「門脇!いいこと言うじゃん!」
「薫」
門脇の言葉に感動している薫に、将梧が何かを言いかけるも、隣の門脇に耳打ちをされて、黙り込む。
『秋庭。十二単を着た舞岡も、絶対に可愛いと思わないか?』だって?
そんなの、可愛いに決まっているし、見たいに決まっている。
・・・・・ごめん、薫。
「舞かおちゃん・・・いいんちょ、今回は、って言っているよ。今回は、って」
そして、最後の良心、水原の囁きは、将梧と門脇に阻まれて薫には届かない。
「んじゃ、みんな張り切っていこう!もちろん、俺も全力で姫をやるから!よろしくな!」
そして、クラス全員が、演劇の次は仮装という予定を脳裏に組み込んだことも知らず、薫は元気よく台本を手にした。
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