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四十九、
「 <カロリーネ!ああ、今日もそなたは美しい。どれほど、今日と言う日を待ち望んでいたか> 」
「 <・・・あの。異界の王子殿下。それは、いったいどういうことでしょうか?わたくし達は、今日、初めてお会いするのではないのですか?> 」
「 <ああ、そうであったな。カロリーネは、未だ異界の記憶がよみがえってはおらぬのであった。焦って済まぬ。こちらでは、アンネマリーと名付けられたのだったか> 」
「 <こちらではも何も、わたくしの名は、おっしゃる通りアンネマリーです。それなのに、カロリーネ?異界の・・記憶?> 」
「・・・・・・・・・・・」
遠い記憶を辿るように、薫が視線を遠くへ飛ばす。
と、そこまで順調に進んでいた劇が、将梧の無言により止まった。
「将梧?どうした?」
なぜか、うっとりと自分を見つめたまま静止した将梧を、薫は心配そうに見上げ、囁く。
「うん。薫の、その顔、すっごく可愛い。きょとんとして、小首傾げてからの、何かをちゃんと考え、思い出そうとしている表情と仕草、可愛くてたまらない。ああ、誰にも見せたくない」
「え。なにそれ」
そして、将梧からの返答は、薫にとっては意外な、けれど、周りにとっては『やっぱりな』というものだった。
「あ・き・ば・ちゃん。舞岡ちゃんが可愛いのは分かるけど、劇の練習を止めるというのは、どうなのかしら?」
「薫の可愛さを、もっと抑えられないかというのが、俺の今の最大の問題だ」
本人は大真面目に悩む将梧に、綾小路はきっぱりと言い切る。
「舞岡ちゃんの可愛さを抑える?そんなの無理なんだから、考えるだけ無駄よ。あなたが四六時中引っ付いて、守ればいいだけの話。はい、以上。この問題は終わり、というか解決。・・・じゃあ、今のふたつ前の場面から、もう一度ね。騎士たち、用意して」
ぱんぱんと手を叩いて場を仕切る綾小路に従い、演劇の練習が再会される。
それは、異界の騎士と、この国の騎士の対峙場面。
「あれ?なんか、薫の髪、いい匂いがする」
「ん?ああ。井田がさ、髪を切って整える手入れはもう少ししてからするけど、シャンプーとコンディショナーはこれを使えって、なんかくれたから。それでじゃないか?」
『確かに、いい匂いがするし、髪がすべすべになったんだよな』と、嬉しそうに笑う薫の髪に、咄嗟に口づけようとして、将梧は何とか思いとどまった。
それって、いつからだ?
気付かなかったなんて、不覚。
薫と俺は、いつも同じ香りだったのに。
「ん?どうした?将梧?」
「俺も、それ使いたいから、教えて」
「おお、いいぞ。でも、覚えてないから、家に帰ってからな」
「分かった」
『ほんとにいいから、お薦めだぞ』と笑う薫は、将梧の思惑に気付かない。
「舞岡。俺にも教えてくれ」
「お。門脇も、身だしなみが気になるお年頃か」
そして、何気なく近づいて来た門脇にも屈託ない笑みを浮かべ、薫は再び動き出した稽古へと目を向ける。
「お。騎士たちの一触即発の場面だ・・なんかさ、凄い迫力が増したよな。ついこの間まで、動きなんかばらばらだったのに、ちゃんとなってるし、本当に強そうに見える。俺も、頑張って練習しないとだな」
「薫は、いつだって、そこに居るだけで可愛いし、価値がある」
「それは確かだ」
「 <甘やかすばかりが愛ではない、のでは、ないででしょうか> 」
いついかなる時も、薫は可愛いと口にする将梧に、尤もと頷く門脇。
そんなふたりに、薫は悪戯っぽい目を向けて、劇中の台詞を口にした。
「別に甘やかしているわけじゃない。薫が可愛いのは、ただの事実だ」
「厳しいことを言わずとも、舞岡は己できちんと考え、理解し立っている。だから、問題ないと俺も思う」
しかし、将梧も門脇もそう言い切って、薫の懸念を気にもしない。
「ああ、はいはい。ありがとう、ふたりとも。お、そろそろ、また出番だ。んじゃ、お先に」
劇中、ひとり城の庭園を散歩中に異界の王子と再会する、その場面を控え、薫は、薔薇園の設定の、その場所へと歩き出す。
「薫の隣は、絶対に譲らない」
劇中の台詞『 <カロリーネの隣は、絶対に譲らない> 』を現実に置き換え、将梧が睨みながら言えば、門脇が淡く笑った。
「この間といい、今日といい。俺が、恋敵になれたようで嬉しい。以前は、余裕で笑っていただろう?」
「・・・・最後に笑うのは、俺だ」
「俺も。お前らのスパイスになる気は、無い」
「 <ここの薔薇は、本当に美しいわよね。ひとりで見ているのが、もったいないくらい。マクシミリアン様と見られたらいいのに>」
より可愛く美しく、より姫らしく。
綾小路の厳しい指導のもと、なんとか嫋やかさを出そうと苦心する薫をそれぞれ愛しく見つめながら、将梧と門脇は、青い火花を飛ばし合った。
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