カラフルボックス ~絡め取られて腕のなか~

夏笆(なつは)

文字の大きさ
49 / 54

四十九、

 

 

 

「 <カロリーネ!ああ、今日もそなたは美しい。どれほど、今日と言う日を待ち望んでいたか> 」 

「 <・・・あの。異界の王子殿下。それは、いったいどういうことでしょうか?わたくし達は、今日、初めてお会いするのではないのですか?> 」 

「 <ああ、そうであったな。カロリーネは、未だ異界の記憶がよみがえってはおらぬのであった。焦って済まぬ。こちらでは、アンネマリーと名付けられたのだったか> 」 

「 <こちらではも何も、わたくしの名は、おっしゃる通りアンネマリーです。それなのに、カロリーネ?異界の・・記憶?> 」 

「・・・・・・・・・・・」 

 遠い記憶を辿るように、薫が視線を遠くへ飛ばす。 

 と、そこまで順調に進んでいた劇が、将梧の無言により止まった。 

「将梧?どうした?」 

 なぜか、うっとりと自分を見つめたまま静止した将梧を、薫は心配そうに見上げ、囁く。 

「うん。薫の、その顔、すっごく可愛い。きょとんとして、小首傾げてからの、何かをちゃんと考え、思い出そうとしている表情と仕草、可愛くてたまらない。ああ、誰にも見せたくない」 

「え。なにそれ」 

 そして、将梧からの返答は、薫にとっては意外な、けれど、周りにとっては『やっぱりな』というものだった。 

「あ・き・ば・ちゃん。舞岡ちゃんが可愛いのは分かるけど、劇の練習を止めるというのは、どうなのかしら?」 

「薫の可愛さを、もっと抑えられないかというのが、俺の今の最大の問題だ」 

 本人は大真面目に悩む将梧に、綾小路はきっぱりと言い切る。 

「舞岡ちゃんの可愛さを抑える?そんなの無理なんだから、考えるだけ無駄よ。あなたが四六時中引っ付いて、守ればいいだけの話。はい、以上。この問題は終わり、というか解決。・・・じゃあ、今のふたつ前の場面から、もう一度ね。騎士たち、用意して」 

 ぱんぱんと手を叩いて場を仕切る綾小路に従い、演劇の練習が再会される。 

 それは、異界の騎士と、この国の騎士の対峙場面。 

「あれ?なんか、薫の髪、いい匂いがする」 

「ん?ああ。井田がさ、髪を切って整える手入れはもう少ししてからするけど、シャンプーとコンディショナーはこれを使えって、なんかくれたから。それでじゃないか?」 

 『確かに、いい匂いがするし、髪がすべすべになったんだよな』と、嬉しそうに笑う薫の髪に、咄嗟に口づけようとして、将梧は何とか思いとどまった。 

 

 それって、いつからだ? 

 気付かなかったなんて、不覚。 

 薫と俺は、いつも同じ香りだったのに。 

 

「ん?どうした?将梧?」 

「俺も、それ使いたいから、教えて」 

「おお、いいぞ。でも、覚えてないから、家に帰ってからな」 

「分かった」 

 『ほんとにいいから、お薦めだぞ』と笑う薫は、将梧の思惑に気付かない。 

「舞岡。俺にも教えてくれ」 

「お。門脇も、身だしなみが気になるお年頃か」 

 そして、何気なく近づいて来た門脇にも屈託ない笑みを浮かべ、薫は再び動き出した稽古へと目を向ける。 

「お。騎士たちの一触即発の場面だ・・なんかさ、凄い迫力が増したよな。ついこの間まで、動きなんかばらばらだったのに、ちゃんとなってるし、本当に強そうに見える。俺も、頑張って練習しないとだな」 

「薫は、いつだって、そこに居るだけで可愛いし、価値がある」 

「それは確かだ」 

「 <甘やかすばかりが愛ではない、のでは、ないででしょうか> 」 

 いついかなる時も、薫は可愛いと口にする将梧に、尤もと頷く門脇。 

 そんなふたりに、薫は悪戯っぽい目を向けて、劇中の台詞を口にした。 

「別に甘やかしているわけじゃない。薫が可愛いのは、ただの事実だ」 

「厳しいことを言わずとも、舞岡は己できちんと考え、理解し立っている。だから、問題ないと俺も思う」 

 しかし、将梧も門脇もそう言い切って、薫の懸念を気にもしない。 

「ああ、はいはい。ありがとう、ふたりとも。お、そろそろ、また出番だ。んじゃ、お先に」 

 劇中、ひとり城の庭園を散歩中に異界の王子と再会する、その場面を控え、薫は、薔薇園の設定の、その場所へと歩き出す。 

「薫の隣は、絶対に譲らない」 

 劇中の台詞『 <カロリーネの隣は、絶対に譲らない> 』を現実に置き換え、将梧が睨みながら言えば、門脇が淡く笑った。 

「この間といい、今日といい。俺が、恋敵になれたようで嬉しい。以前は、余裕で笑っていただろう?」 

「・・・・最後に笑うのは、俺だ」 

「俺も。お前らのスパイスになる気は、無い」 

「 <ここの薔薇は、本当に美しいわよね。ひとりで見ているのが、もったいないくらい。マクシミリアン様と見られたらいいのに>」 

 より可愛く美しく、より姫らしく。 

 綾小路の厳しい指導のもと、なんとか嫋やかさを出そうと苦心する薫をそれぞれ愛しく見つめながら、将梧と門脇は、青い火花を飛ばし合った。 

 
感想 0

あなたにおすすめの小説

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科 空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する 高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体 それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった 至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する 意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク” 消える教師 山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー

若頭の溺愛は、今日も平常運転です

なの
BL
『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』続編! 過保護すぎる若頭・鷹臣との同棲生活にツッコミが追いつかない毎日を送る幼なじみの相良悠真。 ホットミルクに外出禁止、舎弟たちのニヤニヤ見守り付き(?)ラブコメ生活はいつだって騒がしく、でもどこかあったかい。 だけどそんな日常の中で、鷹臣の覚悟に触れ、悠真は気づく。 ……俺も、ちゃんと応えたい。 笑って泣けて、めいっぱい甘い! 騒がしくて幸せすぎる、ヤクザとツッコミ男子の結婚一直線ラブストーリー! ※前作『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』を読んでからの方が、より深く楽しめます。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

【完結済】俺のモノだと言わない彼氏

竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?! ■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

一度も話したことないイケメンのクラスメイトと二人組になったらめちゃくちゃ執着されてた

BL
「はい、じゃあ二人組作って」──あまり人付き合いが得意ではない夏稀(なつき)にとってそれは地獄の言葉。 けれど高校ではちがう。なぜなら新しくできた友達と『二人組』協定を結んだから。 もう二人組なんて怖くないと思っていた矢先、その友達が風邪で欠席。 ほかに組む相手が見つからず、先生と組むことも覚悟する夏稀だったが、そこで声をかけてきたのは美形の転校生──緒川聖夜(おがわ・きよや)だった。 「俺と二人組にならない?」 その一言をきっかけに聖夜は夏稀との距離を急速に縮めてきて──。 執着美形攻め×平凡受けのちょっと不穏な学園BL。 約九万字、全三十話+αの物語です。