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五十二、
「あ、そうだ。綾小路。言われてた装飾品、買って来たよ」
将梧と門脇と薫。
その三人で出かける約束をしてから数日。
放課後、いつものように演劇の稽古に入る前、薫はそう言って用意したピンブローチを取り出した。
「どれどれ・・・あら。なかなかいいのを、見つけたじゃない。でも、これだと結構、値が張ったんじゃない?」
「予算の心配なら、ご無用。俺達の、私物扱いで大丈夫だから」
にこにこと言う薫に、綾小路も安心したような表情になる。
「あら?そうなの?」
「うん。私物だったら、いいよね?」
「もちろんよ。でも、予算のことまで考えたなんて、流石、門脇ちゃんね」
さらりと言った綾小路の言葉に、薫が大きく目を見開いた。
「え!?どうして、分かったの?いや、別に秘密にするつもり無かったけどさ」
「そりゃあ。演劇の予算のことまで、舞岡ちゃんの気が回るとは思えないから。それに、秋庭ちゃんは、舞岡ちゃんが『これがいい』と言えば、それ一択でしょうからね」
『目に見えるようだわ』と言って、綾小路は丸い眼鏡をくいっと上げた。
「なら、もしかして、これも予測済みか?」
薫と綾小路の話を聞いて、門脇と、それから将梧も薫と同じピンブローチを持って、ふたりの傍へとやって来る。
そう。
門脇だけでなく、将梧の手にも、デザインが同じピンブローチがあった。
「はあ。門脇ちゃん。舞岡ちゃんと、ふたりで出かけたいなら、秋庭ちゃんのいないところでお誘いしないと」
「助言、ありがとう」
『そこまで分かるのか』と苦笑する門脇の隣で、将梧が真剣な目を綾小路に向ける。
「俺も、このピンブローチ着ける」
「はあ。『着けていいか?』じゃないところが、秋庭ちゃんよね。まあ、いいわよ。そうねえ。お話はこうかしら。現在婚約者同士であるマクシミリアンとアンネマリーが、揃いのピンブローチを着けている。しかも、そこに嵌め込まれている石は、互いの色を交換したもの。そのことに嫉妬を覚えたエルチェは、同じピンブローチを用意する。もちろん、そこには、アンネマリー・・つまりは、カロリーネの色の石を嵌めて」
すらすらと言った綾小路に、薫が感嘆の声をあげた。
「凄い!綾小路。すぐさま、辻褄合わせちゃった。あ、でも。そうすると、お話に、それを入れないとおかしくなるのか・・な?」
「そうね。脚本に追加しなくちゃだわ」
「うげ。台詞が、増えるの?」
『折角覚えたのに、追加されると厳しいかも』と悩む薫に、綾小路はにっこりと笑う。
「大丈夫よ、舞岡ちゃん。増えるのは、エルチェ王子のモノローグだけだから。実際の自分の気持ちなんだもの。容易よね?」
「ああ。問題無い」
意味深な笑みを浮かべる綾小路の表情など意に介さず、将梧は大切そうにピンブローチを見た。
「それにしても、綾小路は凄いな。さっきの、このピンブローチを三人でお揃いにすることになった理由なんだけど。嫉妬っていうのは違うけど、後は、ほぼその通りだったよ」
あの日、三人で買い物に行った時の様子を思い出し、薫は楽しかったなと笑顔になった。
『あ、このピンブローチなんていいんじゃない?色も、ええと門脇・・マクシミリアン王子の瞳の色の蒼もあるし、俺の・・っていうか、アンネマリー姫の瞳の緑色もある。ちょっと高いけど』
『流石、薫。センスがいい。それにしよう』
『そうだな。予算は越えてしまうだろうが、俺達の私物ということにすればいい』
『え?予算って?』
瞳を輝かせて『気にいっちゃった』と満面の笑みを浮かべる薫に、将梧も門脇もすぐさま同意するが、薫は、予算と言う言葉に引っかかった。
『今回の、演劇の予算だ。学園から、必要経費は支給されるが、流石に限度額があるからな。まあ、みんな『家にあった』とか言って既に持ち寄っているから、問題ないだろう』
『薫。俺は、この色にする。はちみつ色。薫が染める髪の色だ』
予算の話を薫に説明する門脇の話も聞かず、将梧は、目を輝かせてそのピンブローチを嬉しそうに薫に見せた。
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