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五十四、
「ちょっと、秋庭ちゃん。何処に行こうっていうの?」
「薫のところ」
少し目を離した隙に薫を門脇に連れ去られた将梧は、慌てて後を追おうとして、にっこりとした笑みを浮かべる綾小路に呼び止められるも、当然と答えた。
「あらあら。聞いていなかったのかしら?舞岡ちゃんは、別室で門脇ちゃんとダンスの練習、その他のみんなは、別の場面の稽古と言ったのだけれど?」
「ふたりになんて、させられない」
「どうして?」
「決まっているだろう。何があるか、分からないからだ」
きりっとした表情で言い切る将梧に、綾小路が目を細める。
「秋庭ちゃんは、舞岡ちゃんのことも、門脇ちゃんのことも、信用していないということ?ダンスの練習なんてしないって」
「そんなことは、思わない・・けど」
薫のことはもちろん、将梧は門脇のことも信用している。
だが、それとこれとは別問題だと目を逸らす将梧に、綾小路が台本を突きつけた。
「稽古もしないで、舞岡ちゃんの信用を裏切っているのは、秋庭ちゃんの方」
「っ!」
「分かったのなら、さっさと稽古・・ん?もしや、どの場面だが分からない、なんて言わないわよね?」
「5ページ、冒頭の場面から」
挑発するように言った綾小路に、泰然と答えた将梧は、それぞれに台詞を口ずさんでいるクラスメイトたちを見る。
「そうよ。秋庭ちゃん演じる、エルチェ王子がシルド国の王城の庭園に、一個大隊を従えて登場する場面。さて、問題。エルチェ王子は、どうして一個大隊を率いて現れたでしょうか?エルチェ王子の台詞で言ってみて?」
「 <カロリーネは、見事贖罪を果たし、すべての権利を回復した。よって、我は再びカロリーネに求婚することが出来る> 」
「 <それと、この一個大隊との繋がりは?我が国に戦を仕掛けるつもりと取られても、文句の言えない所業と思われるが?> 」
見事台詞を言い切った将梧に、綾小路は、本来大臣役のものである台詞を読み上げた。
「我が国では、求婚の際に、より多くの者を従えているほど、相手への愛が深いと言われている。これが、我の、カロリーネへの愛だ> 」
「はい、お見事。今の秋庭ちゃん、すっごく凛々しかったわよ。その表情で、舞岡ちゃんを虜にしなさいな」
台本を丸め、ぽんぽんと自分の肩を叩いた綾小路が、大きな声でクラスメイトを招集する。
「みんな!始めるから、位置について」
「はあ。薫を虜に・・でも、薫は今、門脇とふたりきり」
「あ、そうだ。秋庭ちゃん。家に帰ってから、舞岡ちゃんに『一緒に稽古しよう』って言えば、門脇ちゃんの比じゃない時間、一緒に練習できるじゃない。別に、ダンスの練習は誰とやったっていいでしょ」
さらりと言って、にやりと笑った綾小路は、将梧のやる気に火が点いたのを感じて、満足そうに監督の席に着いた。
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