1 / 54
一、
「んじゃ、いってきまーす」
「あ、かおちゃん!ちょっと待って!」
新学期早々だというのに、早くもやる気の無い声で挨拶し、学校へ向かおうとしていた薫は、母親が台所から駆けて来るのを、玄関で怪訝な顔で迎えた。
「なに?」
「お弁当」
「いや。持ったけど?」
確かに入れたと、荷物を持ち上げて見せれば、母である小百合がにこりと笑う。
「果物。びわを、冷蔵庫に入れたまま忘れてたの」
「お、びわ。こりゃ、さんきゅ」
果物が好物の薫は、素直に礼を言って保冷バッグを受け取った。
「いってらっしゃい。気を付けてね。『君、可愛いね』って『何か奢ってあげるよ』って言われても、付いて行っちゃ駄目よ」
「あのな。俺を幾つだと思ってんだよ。母さんこそ、変な訪問販売に負けんなよ」
ぽやんとした年齢不詳の母に外見がよく似ている薫は、高校生男子としては大変嬉しくないことに、可愛い顔をしている。
そして、それ故に子どもの頃から変な大人に声を掛けられがちだった。
その頃のくせが抜けないのか、未だに薫が出かける度に心配をする母にひらひらと手を振って、薫は玄関を出る。
「あ。おはよう、薫。今日も可愛いな」
「おはよ、将梧。今日も嫌味だな」
玄関から目と鼻の先にある門では、今正にインターホンを鳴らそうとしている幼なじみがいて、薫の姿を認めて嬉しそうに言うのに対し、薫はじとりとした目で言い返した。
生まれた時から薫と一緒に育った将梧は、その高身長ゆえに小柄な薫をからかってそう言うのだと、薫は信じて疑わないが、将梧にはそんなつもりは毛頭ない。
ただ、薫は薫であるだけで可愛いと言うのが将梧の本音で言い分なのだが、薫にはそれがもう気に入らない、ひいては揶揄いのネタだという認識しかないのだからどうしようもない、というしょうもない平行線を辿っている。
「はあ。今日は、健康診断か」
ため息を吐いて、心底憂鬱そうに言う薫に、将梧が怪訝な目を向けた。
「別に、痛いことはしないだろう?」
注射が苦手な薫は、子どもの頃から注射のたびに怯え、将梧の手をぎゅうっと握るのが常ではあるが、今日は普通の健康診断だけで、採血をするわけでも無い。
「痛いことしなくても、嫌なんだよ。そんだけ身長があるお前には、ぜってえ、分かんねえだろうけどっ」
薫は、身長が165センチしかない。
いや、世間にはもっと小柄な男子もいるかも知れないが、残念ながら薫の周りは高身長な存在が多く、健康診断で身長を測るのは、薫にとって屈辱だった。
「なんだ。そんなの、気にすることないって、いつも言っているじゃないか。薫は健康なんだし、可愛いんだから」
「健康はともかく、可愛いはなんだよ。小さいからって、馬鹿にしやがって」
「馬鹿になんてしてない」
「・・・・・はあ。知ってる。ごめん。ちょっと八つ当たり」
身長のことで、将梧が自分を揶揄うことはあっても馬鹿にしたことなどないと、素直に謝った薫は、すかさず頭をぽんぽんして来る将梧を、胡乱な目で見上げる。
「子ども扱いもやめろ」
「してない」
「じゃあ、その手はなんだよ!」
「俺の特権」
堂々と言い切った将梧に『はあ。幼なじみだからってことか』と、薫はため息を吐いた。
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科
空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する
高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体
それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった
至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する
意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク”
消える教師
山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー
若頭の溺愛は、今日も平常運転です
なの
BL
『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』続編!
過保護すぎる若頭・鷹臣との同棲生活にツッコミが追いつかない毎日を送る幼なじみの相良悠真。
ホットミルクに外出禁止、舎弟たちのニヤニヤ見守り付き(?)ラブコメ生活はいつだって騒がしく、でもどこかあったかい。
だけどそんな日常の中で、鷹臣の覚悟に触れ、悠真は気づく。
……俺も、ちゃんと応えたい。
笑って泣けて、めいっぱい甘い!
騒がしくて幸せすぎる、ヤクザとツッコミ男子の結婚一直線ラブストーリー!
※前作『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』を読んでからの方が、より深く楽しめます。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
俺は夜、社長の猫になる
衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。
ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。
言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。
タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。
けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。
【完結済】俺のモノだと言わない彼氏
竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?!
■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。
一度も話したことないイケメンのクラスメイトと二人組になったらめちゃくちゃ執着されてた
時
BL
「はい、じゃあ二人組作って」──あまり人付き合いが得意ではない夏稀(なつき)にとってそれは地獄の言葉。
けれど高校ではちがう。なぜなら新しくできた友達と『二人組』協定を結んだから。
もう二人組なんて怖くないと思っていた矢先、その友達が風邪で欠席。
ほかに組む相手が見つからず、先生と組むことも覚悟する夏稀だったが、そこで声をかけてきたのは美形の転校生──緒川聖夜(おがわ・きよや)だった。
「俺と二人組にならない?」
その一言をきっかけに聖夜は夏稀との距離を急速に縮めてきて──。
執着美形攻め×平凡受けのちょっと不穏な学園BL。
約九万字、全三十話+αの物語です。