カラフルボックス ~絡め取られて腕のなか~

夏笆(なつは)

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十三、

 
 

 

 

「ああ。もう明日から中間だからか」 

 ゴールデンウィーク開けの教室で、いつもと違う雰囲気を感じた薫は、そういえばと思い出し呟いた。 

 もうすぐ一限目が始まるというのに、目の色を変えて別の教科の勉強をしている者も多いのはそういうことかと、薫はひとり納得する。 

「はは。うちのクラスは、特進に比べれば未だ呑気な方だけど。それにしても、舞岡の泰然ぶりは凄いな」 

 そんな薫に、隣の門脇が苦笑して顔をあげた。 

 その手にあるのは、参考書。 

 今この教室で、参考書もノートも教科書も開いていないのは、薫と、目が合えば薫にひらひらと手を振る将梧くらいのもの。 

「んー。俺が泰然としているねえ。やっぱ、受験しないってのが大きいかも・・って。そういや、中間も期末も、別に受験ありきじゃなくて、勉強したことの確認の意味もあるって話だったな。それでいうと、俺はかなり怠惰だってことか」 

 以前、門脇とした話を思い出し、薫は自分の、閉じられたままの教科書を見つめた。 

「まあ、別に強制じゃないさ。覚えていたければ、自然と覚えているだろうし」 

「おお。覚えたいこと、興味のあることは、自発的に覚えるってことか」 

 門脇の言葉は奥が深いと、薫はうんうん頷いた。 

「舞岡は、何かある?自発的に覚えていること」 

「俺は、コーヒー関連かな。淹れ方とか、種類とか。覚えるの好き」 

 喫茶ソレイユでバイトを始めたのは、学校帰りに歩いて行けて、そのまま働けて、尚且つ家まで歩いて帰れる位置にあったからだったのだが、やってみると接客も面白く、何より薫はコーヒーに関心を持った。 

「そうか。確か舞岡は、喫茶店でバイトしているんだったよな?」 

「そ。喫茶ソレイユ。ごひいきにどうぞ」 

 門脇に向かって執事がするような礼をして、薫はおどけてそう言った。 

 

 

 

「こんにちは」 

「お。こんにちは、秋庭君あきばくん。いらっしゃい・・・舞岡君!君のナイトが来たよ」 

 カウベルの音を鳴らして入店した将梧を見て、喫茶ソレイユのマスターが、裏にいる薫を呼んだ。 

「はい!何ですか、マスター」 

「うん。舞岡君の、ナイトがお迎えに来たよって」 

 自分を呼ぶマスターの声に反応して出て来た薫は、にやりと笑ってそう言われ、頬を引き攣らせる。 

「ナイトって、マスター」 

「照れるな、照れるな。毎回、舞岡君があがる少し前に来て、コーヒーを飲んで行ってくれる。大事な常連さんにして、舞岡君のナイト。格好いいよね、秋庭君て」 

「はあ、まあ。将梧が格好いいのは、事実ですけど」 

「見た目だけのことじゃないよ」 

 それは確かに、騎士の衣装も似合うくらいに格好いいけれどと言う薫に、将梧が注文したコーヒーを淹れながら、マスターが意味深な表情を薫に向けた。 

 

 

 

「なあ、将梧」 

「ん?なんだ?薫」 

 バイトを終えての帰り道。 

 いつものように、ふたり並んで歩きながら、薫はマスターの話を思い出す。 

「今日。マスターが、将梧の格好よさは、見た目だけじゃないって言ってた。将梧とマスターって、そんなにたくさん会話をしてるイメージがないから、そんな風にマスターが言うの、ちょっと意外だった」 

「意外なのは、マスターが言ったってこと?薫は、それを否定しないの?」 

 大事なのはそこだと、将梧が薫に詰め寄った。 

「するわけないじゃん。将梧は、外見も中身も格好いいもん。ただ、マスターと将梧は繋がりがそうあるわけじゃないから、よく分かったなって。ほら、将梧って割と無口だから、誤解されることもあるじゃん」 

 将梧の見た目に惹かれて勝手に近づいて、思うような反応が得られないと、見掛け倒しただったと陰口をたたく。 

 もしくは、短く発した言葉を、将梧の本心とは違うように解釈して、問答無用で憤る。 

 そんな人たちを見て来た薫は、マスターが将梧は中身も格好いいと言ったことが、凄く嬉しかったのだと無邪気に笑った。 

「俺は、薫が分かってくれれば、それでいい。ああ、でも」 

「でも?」 

「もしかして、そういうマスターだから憧れて、就職もあそこにしようとか思っている?人の見る目のあるひとだから」 

「それは、ある」 

 働くなら、仕事に遣り甲斐があって、人としても尊敬できる相手の下がいいと思っている薫にとって、喫茶ソレイユは、これ以上ない有望株。 

「そうか。でも、もう少し他も見てみるのはどうだろう。喫茶店で絞るにしても、俺の第一志望の近くにも、いい店があるって聞いたし」 

「へえ。そうなんだ。どんな感じなんだろ」 

 『そういえば、喫茶店といえば喫茶ソレイユしか知らない』と、薫は興味を持った様子で将梧を見た。 

「俺も、実際には行ったことないから。俺が志望校を下見に行くとき、一緒に行こう」 

「お、それいいな。お前は大学の下見、俺は喫茶店見学」 

 『でも、喫茶店の求人て、そんなに無さそう』と呟く薫に、将梧は本題を切り出す。 

「それで。もしそこで薫が働くなら、一緒に暮らすのもよくないか?」 

「おお!家を出てひとり暮らし・・って、将梧がいるからふたり暮らしか。それいいな」 

「じゃあ、そうしよう。俺がその大学に入学して、薫がそこの喫茶店に就職したら、ふたりで暮らそう」 

 軽い調子で答えた薫に、将梧は真顔で言い切った。 

  
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