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十四、
「え!?舞ちゃん、今日もバイトなの!?余裕過ぎでしょ!」
無事、中間試験初日を終え、さてバイトに行くかと教室を出る薫に、水原が、信じられないと呆然とした目を向けた。
「いやいや。あきちゃんは、余裕なさすぎでしょ。今日未だ初日なのに、既にへろへろじゃん」
「俺は、全力投球したの。そんで、これから帰ってまた勉強・・・したくない。でも頑張らないと、エスカレーターが遠ざかる」
附属大学入学という目標のために頑張るしかないが、憂鬱極まりないと、水原が大きく肩を落とす。
「まあ、頑張れよ。健闘を祈っておいてやるから」
「は!?何を言ってくれちゃってんの舞ちゃん!それおかしいから!俺と舞ちゃん、同じ立場だからね!?言うなら『頑張ろうな』だよ!」
応援しか出来ないけどと、呑気らしく言った薫に、水原がくわっと目を剝いた。
「ああ、はいはい。『頑張ろうな。あきちゃん』」
「心が籠ってない!」
「でも、元気は出たんじゃねえ?」
くすっと笑って薫が言えば、水原が、そういえばと目をぱちぱちさせる。
「あ。ほんとだ」
「気力回復ってやつだな。じゃ、また明日」
「薫。送って行く」
そうして薫が歩き出せば、将梧が当然のようにそう言った。
「いや、いいよ。俺のバイト先になんて寄らずに、真っすぐ家帰って勉強しろよ。将梧は、受験もあるんだから」
「心配で、手に付かないから行く」
「んじゃ、着いたら連絡入れる。それでいいだろ?俺、将梧の邪魔したくないんだよ」
それが最大の妥協案だと薫が言えば、将梧は渋々と頷きを返す。
「分かった。でも、迎えには行く」
「うん。いつもありがと」
将梧も、それ以上は妥協しないだろうと踏んで、薫は素直に礼を言った。
「・・・え?舞岡君ですか?優しいし、頼りにもなりますけど。正直、男の子として意識しているかと言えば、それは無いです。皆無」
バイトのため、いつものように喫茶ソレイユの裏口から入った薫は、山野の声を聞いて、挨拶しようとしていた口を閉じ、足を止める。
「そっか。じゃあ、山野さんは、秋庭君みたいなひとがタイプ?」
「確かに秋庭君は格好いいですよね!舞岡君も、顔は凄くいいけど、可愛すぎて正直女としては複雑な気持ちにもなります」
・・・・・・俺が、可愛い?
「別に、弟みたいとは思わないんですけど。あそこまで可愛いと、言葉は悪いけど観賞用な感じがします。あ、それは秋庭君も同じかも」
薫は、子どもの頃から可愛いと言われ続けて来た。
だけどまさか、淡い想いを寄せる相手にまで、可愛いと思われているとは思わなかったと、薫は膝から崩れ落ちるようにしゃがみ込む。
ジャムの瓶開けたり、重い物を持ったり。
男らしいこともしているつもり・・・ああ。
だから、頼りになるとは言ってくれるのか。
はは・・・はあ。
バイトがんばろ。
「おはようございます!」
しかし、いくら絶望しているとはいえ、薫はこれから仕事である。
胸の痛みを振り切るように立ち上がると、薫は、しっかりと挨拶をした。
「舞岡。チアやるって言ってくれないか?俺は今、切実に潤いが欲しい」
「ん?ああ、体育祭のあれか。いいよ、やる」
「だよなあ。舞岡、あれほど嫌がって・・・って。今、何て言った!?」
中間試験三日目。
気力が尽きて来たと、力なく言った門脇に、薫は軽く返事をして、大層驚かれた。
「俺が、どんな格好していようと、どんなことをしようと。可愛いって言うひとは可愛いって言うんだって悟ったから、いい。やる」
「ほんと!?舞岡君!」
「舞岡。男に二言な無いな?」
「よっしゃ。チアと応援団の部は、ぶっちきりで一位だな!」
薫と門脇の会話を聞いていた、他の面々も加わり、教室は一気に賑やかになる。
「じゃあさ、舞岡。ついでに、人間バトンもやらないか?」
「人間バトン?」
そんな話は聞いていないと言う薫に、門脇が小さく頷いた。
「うん。全員リレー・・クラスの全員がバトンを繋ぐ競技が追加されたんだけど、それで使うバトンが、普通のバトンじゃなくて、人間なんだ」
「は?つまり、俺にバトンになれと?いくら小さいからって、無理じゃねえの?」
人間を掴んで走るなど、赤ん坊や小さい子ならともかくと、薫は手をひらひらさせて笑う。
「掴んで走るわけじゃないよ、舞岡。抱えて走るんだ。それなら、出来るだろ?」
「ああ。人間米俵になれって言うのか。まあ、いいよ」
「薫!それはちょっと!」
焦った将梧が駆けつけ、薫を制す前に、薫は頷いてしまった。
「ありがとう!舞岡!俺、残りの試験も頑張れるよ!舞岡のために、一位を取ると誓う」
「はあ。俺のチアで、そんなに喜んでくれて嬉しいよ。門脇」
こうなったら、徹底的にやってやると言う薫に、他のクラスメイトも色めき立ち、将梧はひとり頭を抱える。
「薫。お前、絶対分かってない」
「将梧は、俺が女装すんの嫌がると思って、心配してくれてんだろ?大丈夫だよ。決めたからには、ちゃんとやる」
後から、やっぱりやめたとは言わないと言う薫に、将梧は益々頭を抱えた。
「そっちじゃない」
「え?ああ。人間米俵の方か。確かに、肩に担がれるときは気を付けないと、頭に血が上りそうだよな」
『くらくらしそう』と、それさえ楽し気に笑う薫には危機感の欠片も無い。
「・・・・・はあ。薫。違う。そうじゃない」
クラスメイトに囲まれてとびきりの笑顔を見せる薫を見、将梧は『また、薫にたかる虫が増える』と、ひとり頭を抱えた。
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