カラフルボックス ~絡め取られて腕のなか~

夏笆(なつは)

文字の大きさ
15 / 54

十五、

 
 

 

 

「ふひぃー。やっと終わった・・・これで、遊べる!」 

 脱力し切った水原の心からの叫びと共に、中間考査は幕を閉じた。 

 途端、教室のなかから張り詰めた空気が消える。 

「はは。お疲れ、あきちゃん」 

「おう!舞ちゃんもな・・って。舞ちゃんは、特に焦ってもいなかったし、必死さも皆無だったけど」 

 受験しないだけで、立場は同じはずなのにと遠い目をした水原に言われ、薫は苦笑した。 

「まあ、そうなんだけどさ。門脇と話して、ちょっと反省もしたから、ちゃんとノートを見返したりは、した」 

「お、素直じゃん」 

「そうか。俺との会話で、舞岡の心に何か変化があったのなら、凄く嬉しい」 

 『自分の言葉が、舞岡に響いたのだから』と、薫と水原の会話に門脇も加わり、当然のように将梧も来る。 

「薫。帰ろう」 

 そして発した言葉は、ただ一言。 

 いつもの、それ。 

「秋庭は、ほんとぶれないな」 

「本当だよ。中間終わったばっかだってのに、いっつも通り。でもって、今回も一位を攫うつもりなんだろ?」 

「一位を攫う?いつも、攫っているつもりはないし、今回も順位は分からないけど。解けない問題は無かった」 

 呆れと苦笑と諦めがないまぜになった表情で言う門脇と水原に、将梧は至極当然の事のように言った。 

「解けない問題は、俺も無かったんだが」 

 そう、ちらりと薫を見て言った門脇は、当然一位を薫に捧げると言った言葉を意識しているのだが、薫はその言葉を覚えているのかいないのか、ただただ、しみじみと感嘆の声を漏らす。 

「ああ。将梧も門脇も凄いよな。特進を差し置いて、毎回、一位、二位なんだから。ほら、この学校って成績いいやつは大抵特進選ぶじゃん?だから、学校始まって以来のことだとかって、先生も言ってた」 

 将梧が一位で、門脇が二位。 

 入学以来、その順位は不動で、だからこそ、どうしてそのふたりが特進を希望しないのか、教師陣を筆頭に、この学校の七不思議と言われている・・・のだが。 

「うおお。それを舞ちゃんが言っちゃう?」 

 真実を知っている水原は、その本人がと仰け反ってしまった。 

「え?俺が言ったら駄目なのか?なんで?」 

 しかし、そんな事実を知らない薫は、きょとんとした目で水原を見る。 

「いやあ、だって。そもそもの因子がさあ」 

 そんな可愛い目で見られてもと、水原は当事者である将梧と門脇へと視線を移した。 

 学校の七不思議ではあるが、ふたりが特進を希望しない理由を、知っている者は知っている。 

 そもそも、薫達が通う学校では、特進に入るためには、それなりの成績が必要となる。 

 そのため、特進クラスが発足するのは二年次からなのだが、希望自体は、一年次から出すことが出来る。 

 成績優秀でありながら特進を希望しない七不思議のひとりである将梧は、入学当初から特進を希望していなかった。 

 何故なら、薫が希望しないと言ったからである。 

 教師や周りが聞いたらびっくりな理由であるが、本人としてはこれ以上ない正当な理由。 

 特進クラスになってしまえば、特進を希望しない薫とは絶対に同じクラスになれないうえ、授業内容も異なるため、登下校を共にするのも難しくなると知って、将梧は、断固これを拒否した。 

 そんな将梧に対し、門脇は、入学時においては、能力が足りていると判断された時には、特進に行くことを希望していた。 

 そして、一年次に充分な能力を示したのだが、何故か、二年にあがる際には様子見をしたいと希望、更に三年にあがる時には、完全に希望しないと表明したのである。 

「え?そもそもの因子って。ふたりが特進にいかない要因ってこと?俺が?」 

 水原の言葉に、寝耳に水と、薫が不安げに首を傾げた。 

「気にしなくていい。薫は、関係ない」 

「そうだ。俺が、自分で決めたことだ」 

 『俺が要因って、なに?何かした?』と、将梧と門脇を交互に見つめる薫を見て、見つめられたふたりは、すぐさまそう答える。 

 そこに、一切の迷いは無い。 

「えええぇ。いいんちょも秋庭も、決めたのはそうでもさ、そう決めた原因が」 

 そんなふたりに、水原が、不満の声をあげた。 

「え?なに。もしかして、ふたりが特進に行かなかったのって、俺のせいってこと?え。でも、将梧はともかく、門脇はなんで」 

 将梧が、自分にべったりな意識はある薫だが、門脇は何故と見やる。 

「別に、舞岡だけがってことじゃない。俺は、入学した時には、高校は通過点でしかないと思っていたんだ。でも、一年の時にみんなと同じクラスになって、今しか出来ないことは、勉強だけじゃないって分かった。それで、二年でも、みんなと同じクラスになれたら、三年も一緒になれるということだから、特進には行かないと決めていた。で、二年でも同じクラスになれた。だから、特進を希望しなかっただけだ」 

「みんなじゃなくて、それって舞ちゃんだけなんじゃ」 

 薫たちと同じクラスで過ごすうち、勉強だけでなく、他の要素も欲しくなったのだと、門脇は、ぼそっと余計なことを呟いた水原を鋭く一瞥したのち、やわらかな目で薫を見つめた。 

「それで、門脇は後悔しない?」 

「しない。現に今、俺は以前よりずっと満たされ、充足感ある毎日を送っている」 

「うん。門脇は楽しそうだ」 

 自分が決めたこと、決めた道だからなんだなと、薫がふわりと笑い、門脇も嬉しそうに笑い返す。 

「だろう?それに、必ず希望校に合格する。舞岡は、何も心配しなくていい」 

「そっか。うん。分かった。そうだよな。俺が門脇の人生左右したかもなんて、自意識過剰だったよな」 

「いや。それは無い。そこは、間違いない・・じゃ、そろそろ帰るか」 

「え?あ、ああ。帰ろう」 

 門脇に、何かさらりと凄いことを言われた気もするが、聞き返すような雰囲気でもなく。 

 薫は、面白そうに将梧と門脇を交互に見る水原、爆弾を投下しておいて、いつも通りの門脇。 

 そして、物凄く渋い顔をした将梧と共に、教室を後にした。 

 
感想 0

あなたにおすすめの小説

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科 空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する 高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体 それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった 至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する 意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク” 消える教師 山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー

若頭の溺愛は、今日も平常運転です

なの
BL
『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』続編! 過保護すぎる若頭・鷹臣との同棲生活にツッコミが追いつかない毎日を送る幼なじみの相良悠真。 ホットミルクに外出禁止、舎弟たちのニヤニヤ見守り付き(?)ラブコメ生活はいつだって騒がしく、でもどこかあったかい。 だけどそんな日常の中で、鷹臣の覚悟に触れ、悠真は気づく。 ……俺も、ちゃんと応えたい。 笑って泣けて、めいっぱい甘い! 騒がしくて幸せすぎる、ヤクザとツッコミ男子の結婚一直線ラブストーリー! ※前作『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』を読んでからの方が、より深く楽しめます。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

【完結済】俺のモノだと言わない彼氏

竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?! ■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

一度も話したことないイケメンのクラスメイトと二人組になったらめちゃくちゃ執着されてた

BL
「はい、じゃあ二人組作って」──あまり人付き合いが得意ではない夏稀(なつき)にとってそれは地獄の言葉。 けれど高校ではちがう。なぜなら新しくできた友達と『二人組』協定を結んだから。 もう二人組なんて怖くないと思っていた矢先、その友達が風邪で欠席。 ほかに組む相手が見つからず、先生と組むことも覚悟する夏稀だったが、そこで声をかけてきたのは美形の転校生──緒川聖夜(おがわ・きよや)だった。 「俺と二人組にならない?」 その一言をきっかけに聖夜は夏稀との距離を急速に縮めてきて──。 執着美形攻め×平凡受けのちょっと不穏な学園BL。 約九万字、全三十話+αの物語です。