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十五、
「ふひぃー。やっと終わった・・・これで、遊べる!」
脱力し切った水原の心からの叫びと共に、中間考査は幕を閉じた。
途端、教室のなかから張り詰めた空気が消える。
「はは。お疲れ、あきちゃん」
「おう!舞ちゃんもな・・って。舞ちゃんは、特に焦ってもいなかったし、必死さも皆無だったけど」
受験しないだけで、立場は同じはずなのにと遠い目をした水原に言われ、薫は苦笑した。
「まあ、そうなんだけどさ。門脇と話して、ちょっと反省もしたから、ちゃんとノートを見返したりは、した」
「お、素直じゃん」
「そうか。俺との会話で、舞岡の心に何か変化があったのなら、凄く嬉しい」
『自分の言葉が、舞岡に響いたのだから』と、薫と水原の会話に門脇も加わり、当然のように将梧も来る。
「薫。帰ろう」
そして発した言葉は、ただ一言。
いつもの、それ。
「秋庭は、ほんとぶれないな」
「本当だよ。中間終わったばっかだってのに、いっつも通り。でもって、今回も一位を攫うつもりなんだろ?」
「一位を攫う?いつも、攫っているつもりはないし、今回も順位は分からないけど。解けない問題は無かった」
呆れと苦笑と諦めがないまぜになった表情で言う門脇と水原に、将梧は至極当然の事のように言った。
「解けない問題は、俺も無かったんだが」
そう、ちらりと薫を見て言った門脇は、当然一位を薫に捧げると言った言葉を意識しているのだが、薫はその言葉を覚えているのかいないのか、ただただ、しみじみと感嘆の声を漏らす。
「ああ。将梧も門脇も凄いよな。特進を差し置いて、毎回、一位、二位なんだから。ほら、この学校って成績いいやつは大抵特進選ぶじゃん?だから、学校始まって以来のことだとかって、先生も言ってた」
将梧が一位で、門脇が二位。
入学以来、その順位は不動で、だからこそ、どうしてそのふたりが特進を希望しないのか、教師陣を筆頭に、この学校の七不思議と言われている・・・のだが。
「うおお。それを舞ちゃんが言っちゃう?」
真実を知っている水原は、その本人がと仰け反ってしまった。
「え?俺が言ったら駄目なのか?なんで?」
しかし、そんな事実を知らない薫は、きょとんとした目で水原を見る。
「いやあ、だって。そもそもの因子がさあ」
そんな可愛い目で見られてもと、水原は当事者である将梧と門脇へと視線を移した。
学校の七不思議ではあるが、ふたりが特進を希望しない理由を、知っている者は知っている。
そもそも、薫達が通う学校では、特進に入るためには、それなりの成績が必要となる。
そのため、特進クラスが発足するのは二年次からなのだが、希望自体は、一年次から出すことが出来る。
成績優秀でありながら特進を希望しない七不思議のひとりである将梧は、入学当初から特進を希望していなかった。
何故なら、薫が希望しないと言ったからである。
教師や周りが聞いたらびっくりな理由であるが、本人としてはこれ以上ない正当な理由。
特進クラスになってしまえば、特進を希望しない薫とは絶対に同じクラスになれないうえ、授業内容も異なるため、登下校を共にするのも難しくなると知って、将梧は、断固これを拒否した。
そんな将梧に対し、門脇は、入学時においては、能力が足りていると判断された時には、特進に行くことを希望していた。
そして、一年次に充分な能力を示したのだが、何故か、二年にあがる際には様子見をしたいと希望、更に三年にあがる時には、完全に希望しないと表明したのである。
「え?そもそもの因子って。ふたりが特進にいかない要因ってこと?俺が?」
水原の言葉に、寝耳に水と、薫が不安げに首を傾げた。
「気にしなくていい。薫は、関係ない」
「そうだ。俺が、自分で決めたことだ」
『俺が要因って、なに?何かした?』と、将梧と門脇を交互に見つめる薫を見て、見つめられたふたりは、すぐさまそう答える。
そこに、一切の迷いは無い。
「えええぇ。いいんちょも秋庭も、決めたのはそうでもさ、そう決めた原因が」
そんなふたりに、水原が、不満の声をあげた。
「え?なに。もしかして、ふたりが特進に行かなかったのって、俺のせいってこと?え。でも、将梧はともかく、門脇はなんで」
将梧が、自分にべったりな意識はある薫だが、門脇は何故と見やる。
「別に、舞岡だけがってことじゃない。俺は、入学した時には、高校は通過点でしかないと思っていたんだ。でも、一年の時にみんなと同じクラスになって、今しか出来ないことは、勉強だけじゃないって分かった。それで、二年でも、みんなと同じクラスになれたら、三年も一緒になれるということだから、特進には行かないと決めていた。で、二年でも同じクラスになれた。だから、特進を希望しなかっただけだ」
「みんなじゃなくて、それって舞ちゃんだけなんじゃ」
薫たちと同じクラスで過ごすうち、勉強だけでなく、他の要素も欲しくなったのだと、門脇は、ぼそっと余計なことを呟いた水原を鋭く一瞥したのち、やわらかな目で薫を見つめた。
「それで、門脇は後悔しない?」
「しない。現に今、俺は以前よりずっと満たされ、充足感ある毎日を送っている」
「うん。門脇は楽しそうだ」
自分が決めたこと、決めた道だからなんだなと、薫がふわりと笑い、門脇も嬉しそうに笑い返す。
「だろう?それに、必ず希望校に合格する。舞岡は、何も心配しなくていい」
「そっか。うん。分かった。そうだよな。俺が門脇の人生左右したかもなんて、自意識過剰だったよな」
「いや。それは無い。そこは、間違いない・・じゃ、そろそろ帰るか」
「え?あ、ああ。帰ろう」
門脇に、何かさらりと凄いことを言われた気もするが、聞き返すような雰囲気でもなく。
薫は、面白そうに将梧と門脇を交互に見る水原、爆弾を投下しておいて、いつも通りの門脇。
そして、物凄く渋い顔をした将梧と共に、教室を後にした。
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