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二十二、
「じゃあ、舞岡。そろそろ、チアの衣装に着替えてくれるか?」
「え?もう?今、開会式が終わったばっかじゃん。応援合戦は、もっと後だろ?」
今、正に開会式を終えたその場所で、笑顔の門脇に促された薫は、目をぱちくりさせてそう言った。
「だからだよ。チアって、体育祭全体を通して、どれだけ応援していたか、そのパフォーマンスも得点対象になるから」
「うげ。俺、そんなの聞いてないよ」
パフォーマンスと急に言われても、何をしていいか分からないと、薫は困惑してしまう。
「大丈夫だよ、薫。薫は、そこにいるだけで可愛い」
そして、安定の将梧の言葉に、薫は遠い目になった。
「ああ。審査員の目と思考回路も、将梧と同じだったらいいな・・って。そういや、チアって、どうやって得点を決めんの?応援とかパフォーマンスでって言うけど、誰が審査員?」
普通に審査員と言ってしまってから、特にそういった存在はいなかったと気づいた薫は、知っているだろう門脇にそう尋ねた。
敢えて言えば教師かもしれないが、教師は教師でチームを作り、チアも存在すると市谷から聞いている薫は、どうするんだと首を傾げる。
「審査員か。そうだな。言うなれば、参加者全員が審査員だ。チアに関しては、生徒、教師問わず全員の投票で決めるから。全員、一位から三位までを選んで、一位は三点、二位は二点、三位は一点と加算していく」
「へえ。それで、一番得点の高かった奴が優勝ってことか」
納得と頷く薫に、門脇は瞳を光らせた。
「そういうこと。単純に言えば、一位を最も多く取得すると優勝ってことだけど、そこはまあ、自分の所属するチームのチアに入れるだろうからな。いかに二位を多く取得するかにかかって来るだろう。だがまあ、舞岡だからな。心配無用だ。大量得点間違いなしだと確信している」
門脇が自信ありげに言い、将梧も大きく頷く。
「薫が優勝するに、決まっている」
「いやいや、それは無いでしょ。でも、なるべく得点貰えるように、パフォーマンスとやらも頑張ってみるよ」
そうは言っても、ポンポンを振り回すことくらいしか出来ないけどと笑う薫を見て、将梧と門脇は目配せを交わす。
この可愛いの、今日は共同で守りぬく。
普段、互いに最大の障害物、最大の要注意人物と目する相手ではあるが、共通の敵を相手にした場合、これ以上力強い味方はいないと認め合ってもいる。
もちろん、クラス全体で薫の警護をすることになってはいるが、やはりふたりのうち、どちらかが薫に付いているのが確実だと、既に時間配分も決めてある。
「舞岡くん。着替え、手伝おうか?」
「お!田上、頼む」
そこに、衣装が入っているらしい袋を持った田上がにこにこと現れ、薫は素直に田上の傍に寄った。
「よし。行くか」
「そうだな」
そして、当然のように門脇と将梧も薫と田上と共に動き出す。
今日最初の警護担当である田上が、ぴたりと薫に張り付いているにも関わらず、である。
「ふふ。ふたりとも、最強の騎士だね。あとは、早く舞岡くんのチア姿が見たいっていうのもあるか。一緒に行けば、それだけ早く見られるもんね」
「ああ。別に、田上の腕っぷしを疑っているわけじゃない」
くすくすと最強の騎士ふたりだと笑う田上に、門脇がばつが悪そうにそう言った。
「分かっているから、大丈夫だよ。それに、ぼくとしては心強いから。だって、舞岡くん、今だって充分可愛いのに、チアの衣装着たら、本当に犯罪者吸着装置になってしまいそうじゃない?ふらふら~って吸い寄せられて、変態さんがたくさんなんてことになったら、ぼくだけじゃどうしようもないもん」
「はあ。犯罪者吸着装置・・言い得て妙だな。写真も、写真部にだって撮らせたくないけど、それは無理か?」
田上の言葉を聞いて、将梧が眉間にしわを寄せてそう言い、門脇も難しい顔になる。
「個人個人が勝手に写真を撮ることは禁止出来たが、新聞部は、それが活動だからな」
「うわ。売れそう。新聞部、高額収入のために張り切りそうだね。ずっと舞岡くんに張り付いていたりして」
そんな、将梧、門脇、そして田上の会話を聞いて、薫が呆れたように肩を竦めた。
「あのな。三人とも、夢見すぎだろ。まあ、もし本当に高額収入なんてことになったら、俺にも恩恵寄こせって、モデル料くらいせびれそうだけど」
「せびる、って。舞岡くんが言うと、何か新鮮だね。そんな言葉さえ、舞岡くんが言うと可愛いって感じる」
「薫。せびらずとも、きちんと報酬として要求すればいい」
「ああ。秋庭の言う通りだ。その時には、俺も一緒に交渉してやる。何なら、先に行くか?」
そうやって会話をしつつ、校舎へ向かう道すがらも、既に多くの下級生、同級生が瞳を煌めかせて薫を見ている。
『はあ。普段、余り近づけない最上級生相手でも、こういう日は特別・・無礼講って感じがするのかな』
『教師のなかにも、あやしい目をしている奴がいる』
『あいつ。手紙か何かもって、舞岡のことチラ見しているな』
「なあなあ。他のクラスのチアの奴って、どんな格好すると思う?」
田上、将梧、門脇が油断せず連携し合って周りを警戒するなか、薫だけは、ひとりのほほんと他のクラスのチアに思いを馳せていた。
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