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十九、三姉妹
しおりを挟む「ロレンサお姉様!こ、これは・・そう!あたくしのお友達がいじめられたので、あたくしが制裁しようと思ったのです。あたくしたちは、悪くありません」
「貴女のお友達がいじめられている?どちらかと言えば、ふたりがかりでロブレス侯爵令嬢を襲っているように見えるけれど?」
ええっ。
今度は、第一王女殿下!?
マリルー王女との会話から、凛とした声の主がロレンサ第一王女だと知ったフィロメナは、防御しようとしていた体勢を解き、即座に淑女の礼を取った。
「第一王女殿下に、ご挨拶申し上げます」
「ありがとう、ロブレス侯爵令嬢。まずは、何があったか説明してくれるかしら」
「はい。畏まりました」
ロレンサ王女に一礼して、フィロメナは、ここで起きたことの詳細を話し始める。
「まず、こちらを通りかかった折に、そちらのダフネ・アポンテ伯爵令嬢に、カルビノ公爵家の威光を笠に着ていると言われましたが、きちんと挨拶を交わしたわけでもありませんでしたので、そのまま通り過ぎようとしたところ、前を塞がれました。そして、アリタ・オロスコ子爵令嬢に、カルビノ公爵子息との縁組は、わたくしがごり押ししたものだと承知していると言われ、続けておふたりから、性悪、いけ好かない顔をしていると言われた後、ふたりがかりで襲いかかられました。この時点でも、おふたりとの会話は成立していません」
フィロメナの証言に、ダフネとアリタの顔色はどんどん悪くなり、マリルー王女はじりじりと後ずさる。
それはそうよね。
伯爵家と子爵家の娘が、率先して侯爵家の人間に喧嘩を売ってしまったんだもの。
やっと、現状が分かったようだけど、もう遅いわよ。
マリルー王女殿下が味方とはいえ、全部言いがかりに過ぎないのだし。
「では、ロブレス侯爵令嬢から、ふたりに声をかけたわけではないのね」
「はい。わたくしは、声をかけておりません」
「アポンテ伯爵令嬢、オロスコ子爵令嬢。その事実に、間違いはないかしら?」
「「・・・・・」」
ロレンサ第一王女に直接問われ、ダフネとアリタは真っ青になってマリルー王女を見た。
確かに、自分達が取った行動は、上位貴族に対し許されるものでは無かったが、すべてはマリルー王女の指示だと、その目が訴える。
「で、でも、ロレンサお姉様。その悪女が、ベルトランに迫って、カルビノ公爵家に迷惑をかけているのは事実ですわ。ダフネもアリタも、あたくしがそのことで憤慨しているのを知っているから、それで」
「悪女?ベルトランに迫って、カルビノ公爵家に迷惑をかけている?まあ、マリルー。自分のこと、よく分かっているのね」
『意外だわ』と、目を見開き言われ、マリルーが、かっとなってフィロメナを指さす。
「なっ。違います!悪女は、その女です!実際、その首飾りも、指輪も強請って、奪ったに違いありません!両方とも、あたくしが貰う筈だったのに!」
「マリルー。貴女、それ、カルビノ公爵夫妻の前でも言える?」
激高して叫んだマリルー王女はしかし、冷静に切り返されて言葉を失った。
「っ」
「言えないわよね。カルビノ公爵夫妻からは、マリルーを嫁になんて、絶対に、何があっても有り得ないと、はっきり言われているのだから」
きっぱりと言い切ったロレンサ王女の言葉に、フィロメナは、思わず目を瞬かせてしまう。
え?
そうなの?
マリルー王女殿下って、カルビノ公爵夫妻からは、そんな扱いなの?
だから、ベルトラン様は、ご自分の地位を高めることに必死なのかしら?
ご実家の威光に頼らず、っていうのは、そういう意味もあるのかも。
「それで?ロブレス侯爵令嬢。その後は、何があったのかしら」
思いがけない事実に驚愕していたフィロメナは、ロレンサ王女に先を促され、改めて凛と前を向いた。
「はい。おふたりから、首飾りと指輪を護ろうとして、オロスコ子爵令嬢の腕を掴んだところ、マリルー王女殿下がお見えになって、わたくしに、野蛮な真似をするなと仰いました。それで、マリルー王女殿下にご挨拶申し上げ、許しを得ましたので状況のご説明をしましたが、アポンテ伯爵令嬢、オロスコ子爵令嬢が共に、わたくしが見せびらかしたので、近くで見ようとしただけだと仰り、マリルー王女殿下は、その話をお信じになられ、カルビノ公爵家より賜った品を渡すようにと、風の魔法での攻撃をなさいました」
フィロメナの説明に、ロレンサ王女がはっとした様子で、フィロメナの全身に視線を走らせる。
「ロブレス侯爵令嬢。それは既に、風の攻撃を受けたということ?怪我は?」
「大したことは、ございません」
フィロメナが言うも、ロレンサ王女の視線で動いた侍女が、その傷を確認し、まずはと布で丁寧に包む。
「殿下。即刻、治療の必要があるかと」
「分かったわ。ロブレス侯爵令嬢を、お部屋にご案内して」
ロレンサ王女がその場を仕切り、侍女たちが動き出した時、マリルー王女が癇癪を起したように再び叫んだ。
「何よ!その女が悪いんじゃないの!あたくしが欲しかったものを奪ったんだから!」
「何を言っているの。それらの品は、正式に、カルビノ公爵家が、ロブレス侯爵令嬢に贈ったものです」
「違う!そんなのどうでもいい!あたくしがずっと、欲しかったものだって言っているの!ずっとお願いしてるのに、意地悪してくれなくて!だけど、お父様もお母様も、そのうちマリルーにくれるよって言っていたから楽しみにしてたのに!泥棒!返せ!」
・・・・・ええと。
マリルー王女殿下のお父様とお母様ってことは、国王陛下と王妃陛下よね。
どうして、カルビノ公爵家の物を、おふたりがどうこう言えるのかしら。
「はあ。カルビノ公爵家の資産なのよ?お父様も、お母様も、関係ありません」
「どうしてよ!王様と王妃様なのよ!?誰より偉いじゃないの!」
「他家の財産だって言っているでしょう。ともかく、この件は、カルビノ公爵家、ロブレス侯爵家はもちろん、宰相にも報告します」
呆れたように言うロレンサ王女に、けれどマリルー王女は勝ち誇った笑みを浮かべる。
「そんなことしても、お父様にロレンサお姉様が叱られるだけよ!お父様は、マリルーの味方なんだから!」
「そうでしょうね。でも、大臣たちはなんていうかしら。確か、今度問題を起こしたら、東の塔に謹慎、だったわよね」
「っ!ダフネ、アリタ、行くわよ!」
「はい、残念でした。通行止め」
大臣たちが怖いのか、謹慎が恐ろしいのか、マリルーは、ダフネとアリタを連れて、その場を去ろうと駆け出すも、その前にひとりの女性が笑みを浮かべ立つのを見て、顔を引くつかせた。
「メラニアお姉様」
「逃亡なんて、させるわけないでしょ。王城内で魔法を使って、しかも侯爵令嬢に怪我をさせるなんて。そこの伯爵家、子爵家と共に、慰謝料ものだから、覚悟なさい」
うわあ。
メラニア第二王女殿下まで、ご登場だなんて。
奇しくも王女殿下が三人お揃いになったと、フィロメナは、余り似ていない三姉妹を、不敬にならない程度に見つめた。
~・~・~・~・~・~・
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