隠れ蓑婚約者 ~了解です。貴方が王女殿下に相応しい地位を得るまで、ご協力申し上げます~

夏笆(なつは)

文字の大きさ
19 / 38

十九、三姉妹

しおりを挟む
 

 

 

「ロレンサお姉様!こ、これは・・そう!あたくしのお友達がいじめられたので、あたくしが制裁しようと思ったのです。あたくしたちは、悪くありません」 

「貴女のお友達がいじめられている?どちらかと言えば、ふたりがかりでロブレス侯爵令嬢を襲っているように見えるけれど?」 

 

 ええっ。 

 今度は、第一王女殿下!? 

 

 マリルー王女との会話から、凛とした声の主がロレンサ第一王女だと知ったフィロメナは、防御しようとしていた体勢を解き、即座に淑女の礼を取った。 

「第一王女殿下に、ご挨拶申し上げます」 

「ありがとう、ロブレス侯爵令嬢。まずは、何があったか説明してくれるかしら」 

「はい。畏まりました」 

 ロレンサ王女に一礼して、フィロメナは、ここで起きたことの詳細を話し始める。 

「まず、こちらを通りかかった折に、そちらのダフネ・アポンテ伯爵令嬢に、カルビノ公爵家の威光を笠に着ていると言われましたが、きちんと挨拶を交わしたわけでもありませんでしたので、そのまま通り過ぎようとしたところ、前を塞がれました。そして、アリタ・オロスコ子爵令嬢に、カルビノ公爵子息との縁組は、わたくしがごり押ししたものだと承知していると言われ、続けておふたりから、性悪、いけ好かない顔をしていると言われた後、ふたりがかりで襲いかかられました。この時点でも、おふたりとの会話は成立していません」 

 フィロメナの証言に、ダフネとアリタの顔色はどんどん悪くなり、マリルー王女はじりじりと後ずさる。 

 

 それはそうよね。 

 伯爵家と子爵家の娘が、率先して侯爵家の人間に喧嘩を売ってしまったんだもの。 

 やっと、現状が分かったようだけど、もう遅いわよ。 

 マリルー王女殿下が味方とはいえ、全部言いがかりに過ぎないのだし。 

 

「では、ロブレス侯爵令嬢から、ふたりに声をかけたわけではないのね」 

「はい。わたくしは、声をかけておりません」 

「アポンテ伯爵令嬢、オロスコ子爵令嬢。その事実に、間違いはないかしら?」 

 「「・・・・・」」 

 ロレンサ第一王女に直接問われ、ダフネとアリタは真っ青になってマリルー王女を見た。 

 確かに、自分達が取った行動は、上位貴族に対し許されるものでは無かったが、すべてはマリルー王女の指示だと、その目が訴える。 

「で、でも、ロレンサお姉様。その悪女が、ベルトランに迫って、カルビノ公爵家に迷惑をかけているのは事実ですわ。ダフネもアリタも、あたくしがそのことで憤慨しているのを知っているから、それで」 

「悪女?ベルトランに迫って、カルビノ公爵家に迷惑をかけている?まあ、マリルー。自分のこと、よく分かっているのね」 

 『意外だわ』と、目を見開き言われ、マリルーが、かっとなってフィロメナを指さす。 

「なっ。違います!悪女は、その女です!実際、その首飾りも、指輪も強請って、奪ったに違いありません!両方とも、あたくしが貰う筈だったのに!」   

「マリルー。貴女、それ、カルビノ公爵夫妻の前でも言える?」 

 激高して叫んだマリルー王女はしかし、冷静に切り返されて言葉を失った。 

「っ」 

「言えないわよね。カルビノ公爵夫妻からは、マリルーを嫁になんて、絶対に、何があっても有り得ないと、はっきり言われているのだから」 

 きっぱりと言い切ったロレンサ王女の言葉に、フィロメナは、思わず目を瞬かせてしまう。 

 

 え? 

 そうなの? 

 マリルー王女殿下って、カルビノ公爵夫妻からは、そんな扱いなの? 

 だから、ベルトラン様は、ご自分の地位を高めることに必死なのかしら? 

 ご実家の威光に頼らず、っていうのは、そういう意味もあるのかも。 

 

「それで?ロブレス侯爵令嬢。その後は、何があったのかしら」 

 思いがけない事実に驚愕していたフィロメナは、ロレンサ王女に先を促され、改めて凛と前を向いた。 

「はい。おふたりから、首飾りと指輪を護ろうとして、オロスコ子爵令嬢の腕を掴んだところ、マリルー王女殿下がお見えになって、わたくしに、野蛮な真似をするなと仰いました。それで、マリルー王女殿下にご挨拶申し上げ、許しを得ましたので状況のご説明をしましたが、アポンテ伯爵令嬢、オロスコ子爵令嬢が共に、わたくしが見せびらかしたので、近くで見ようとしただけだと仰り、マリルー王女殿下は、その話をお信じになられ、カルビノ公爵家より賜った品を渡すようにと、風の魔法での攻撃をなさいました」 

 フィロメナの説明に、ロレンサ王女がはっとした様子で、フィロメナの全身に視線を走らせる。 

「ロブレス侯爵令嬢。それは既に、風の攻撃を受けたということ?怪我は?」 

「大したことは、ございません」 

 フィロメナが言うも、ロレンサ王女の視線で動いた侍女が、その傷を確認し、まずはと布で丁寧に包む。 

「殿下。即刻、治療の必要があるかと」 

「分かったわ。ロブレス侯爵令嬢を、お部屋にご案内して」 

 ロレンサ王女がその場を仕切り、侍女たちが動き出した時、マリルー王女が癇癪を起したように再び叫んだ。 

「何よ!その女が悪いんじゃないの!あたくしが欲しかったものを奪ったんだから!」 

「何を言っているの。それらの品は、正式に、カルビノ公爵家が、ロブレス侯爵令嬢に贈ったものです」 

「違う!そんなのどうでもいい!あたくしがずっと、欲しかったものだって言っているの!ずっとお願いしてるのに、意地悪してくれなくて!だけど、お父様もお母様も、そのうちマリルーにくれるよって言っていたから楽しみにしてたのに!泥棒!返せ!」 

 

 ・・・・・ええと。 

 マリルー王女殿下のお父様とお母様ってことは、国王陛下と王妃陛下よね。 

 どうして、カルビノ公爵家の物を、おふたりがどうこう言えるのかしら。 

 

「はあ。カルビノ公爵家の資産なのよ?お父様も、お母様も、関係ありません」 

「どうしてよ!王様と王妃様なのよ!?誰より偉いじゃないの!」 

「他家の財産だって言っているでしょう。ともかく、この件は、カルビノ公爵家、ロブレス侯爵家はもちろん、宰相にも報告します」 

 呆れたように言うロレンサ王女に、けれどマリルー王女は勝ち誇った笑みを浮かべる。 

「そんなことしても、お父様にロレンサお姉様が叱られるだけよ!お父様は、マリルーの味方なんだから!」 

「そうでしょうね。でも、大臣たちはなんていうかしら。確か、今度問題を起こしたら、東の塔に謹慎、だったわよね」 

「っ!ダフネ、アリタ、行くわよ!」 

「はい、残念でした。通行止め」 

 大臣たちが怖いのか、謹慎が恐ろしいのか、マリルーは、ダフネとアリタを連れて、その場を去ろうと駆け出すも、その前にひとりの女性が笑みを浮かべ立つのを見て、顔を引くつかせた。 

「メラニアお姉様」 

「逃亡なんて、させるわけないでしょ。王城内で魔法を使って、しかも侯爵令嬢に怪我をさせるなんて。そこの伯爵家、子爵家と共に、慰謝料ものだから、覚悟なさい」 

  

 うわあ。 

 メラニア第二王女殿下まで、ご登場だなんて。 

 

 奇しくも王女殿下が三人お揃いになったと、フィロメナは、余り似ていない三姉妹を、不敬にならない程度に見つめた。 

 

~・~・~・~・~・~・
いいね、お気に入り登録、エール、しおり、ありがとうございます。 


しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

伯爵令嬢の婚約解消理由

七宮 ゆえ
恋愛
私には、小さい頃から親に決められていた婚約者がいます。 婚約者は容姿端麗、文武両道、金枝玉葉という世のご令嬢方が黄色い悲鳴をあげること間違い無しなお方です。 そんな彼と私の関係は、婚約者としても友人としても比較的良好でありました。 しかしある日、彼から婚約を解消しようという提案を受けました。勿論私達の仲が不仲になったとか、そういう話ではありません。それにはやむを得ない事情があったのです。主に、国とか国とか国とか。 一体何があったのかというと、それは…… これは、そんな私たちの少しだけ複雑な婚約についてのお話。 *本編は8話+番外編を載せる予定です。 *小説家になろうに同時掲載しております。 *なろうの方でも、アルファポリスの方でも色んな方に続編を読みたいとのお言葉を貰ったので、続きを只今執筆しております。

【完】貴方達が出ていかないと言うのなら、私が出て行きます!その後の事は知りませんからね

さこの
恋愛
私には婚約者がいる。 婚約者は伯爵家の次男、ジェラール様。 私の家は侯爵家で男児がいないから家を継ぐのは私です。お婿さんに来てもらい、侯爵家を未来へ繋いでいく、そう思っていました。 全17話です。 執筆済みなので完結保証( ̇ᵕ​ ̇ ) ホットランキングに入りました。ありがとうございますペコリ(⋆ᵕᴗᵕ⋆).+* 2021/10/04

邪魔者は消えますので、どうぞお幸せに 婚約者は私の死をお望みです

ごろごろみかん。
恋愛
旧題:ゼラニウムの花束をあなたに リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。 じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。 レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。 二人は知らない。 国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。 彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。 ※タイトル変更しました

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

〈完結〉デイジー・ディズリーは信じてる。

ごろごろみかん。
恋愛
デイジー・ディズリーは信じてる。 婚約者の愛が自分にあることを。 だけど、彼女は知っている。 婚約者が本当は自分を愛していないことを。 これは愛に生きるデイジーが愛のために悪女になり、その愛を守るお話。 ☆8000文字以内の完結を目指したい→無理そう。ほんと短編って難しい…→次こそ8000文字を目標にしますT_T

【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ

・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。 アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。 『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』 そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。 傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。 アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。 捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。 --注意-- こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。 一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。 二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪ ※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。 ※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

処理中です...