愚者は要らない ~私の婚約者は、貴方ではありません。夢物語は、そちらで勝手にどうぞ~

夏笆(なつは)

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十五、改めての誓い

 

 

 

 

「ちょっ・・・カーティス!大丈夫!?じゃないわよね。凄い音がしたもの」 

「痛い」 

 マーシアの言葉を遮ってまで意思表示した結果、カーティスは、マーシアに無様を晒すことになったが、そのことについての後悔は無い。 

 マーシアに、誤解などさせないのが先決。 

 その一手。 

「でしょうね。もう、そんな向きになることないのに」 

 しかし、涙目となり、いててと頭を抱え込むカーティスに、マーシアは容赦なく呆れたような声を出した。 

「必死にもなるだろう。愛妾だのお飾りだの言い出すんだから」 

 それも、冗談を言っている風でもなく、未来を案じている風でもなく、淡々と言い切ったマーシアに、カーティスが恨みがましい目を向けた。 

「だって。邸内の実権は渡さないって、明言しておいたほうがいいかなって」 

「『かなって』じゃない。そんな風に、可愛く言っても駄目。許さない」 

 頭をさすりつつも、それだけは譲れないとばかり、カーティスがマーシアを、きっと睨む。 

 そうでもしないと、すぐにほだされてしまうからなのだが、そこは今、説明する気の無いカーティスだった。 

「別に、可愛く言ったつもりは無いわよ。それに、許さないってなに」 

 一方のマーシアは、いきなり何を言い出すのだと、頭を打って、おかしくなったかと、呟きながらカーティスの頭部に手を伸ばす。 

「いたっ」 

「あ、ごめん。こぶになっていないかなって思って。ほら、頭をぶつけた場合、こぶが出来たら安心していいとか、言うじゃない・・・うん。立派なこぶがあるわ。でも、念のためお医者様に診てもらいましょうか」 

「いや。それほどでは・・・ああ。うん。そうだね。医者に診てもらおうかな。マーシア、一緒に行ってくれる?」 

「もちろん」 

 それほどの怪我ではないと言いかけたものの、この後、ただマーシアを送って行く予定にしてしまったことを後悔していたカーティスは、マーシアと居る口実に丁度いいと、言葉を覆した。 

「ごめんね。付き合わせて」 

「大丈夫よ。私が、何か余計なことを言ったからみたいだし・・・でも、許さないはもういいの?」 

 殊勝な態度で謝罪するカーティスに、マーシアが揶揄うような目を向ける。 

「その点については、許していない」 

「なにそれ」 

 頭をさすりながら謝ったかと思えば、急にきりっとした態度で言い切るカーティスに、マーシアはとうとう吹き出した。 

「『なにそれ』じゃない。愛妾とかお飾りとか」 

「いや、だから。邸内の夫人としての実権は保持しようと思っただけだって、言っているじゃない。それが余計なことだったみたいだけど」 

 『濡らしていないハンカチでは、無意味かしら』と呟きながら、自身のハンカチでカーティスのこぶにそっと触れたマーシアを、カーティスは真顔で見つめる。 

「ありがと。濡らしていなくても、マーシアの手に触れられているだけで、安らぐ」 

「それは、よかったわ。もう少しで着くから、我慢してね」 

 医師の元へ行けば、何等かの処置をしてもらえて、痛みも和らぐだろうと、マーシアは微笑んだ。 

「もう痛みは大分引いているから、問題ないよ。それより、邸内の実権のことだけど。マーシアが務めてくれないと困る。マーシアしか、担うひとがいないのに」 

「・・・・・何だか不思議ね。夫人として、邸内の実権を握るっていうと、何か凄く偉そうなのに、そういう言われ方をすると、何か、役目を押し付けられるように感じるわ」 

 『本当。言葉って不思議ね』と呟くマーシアを、カーティスは目を見開いて固まる。 

「やあね。そんなに驚いて。押し付けているわけじゃないって、分かっているから平気よ。それに、邸内の実権を握りたいって、言っているじゃない」 

 からからと笑うマーシアを前に、カーティスはその場で跪いた。 

「え!?ちょ、カーティス!何をしているの!?」 

「マーシア・エインズワース。私、カーティス・グローヴァーは、終生貴女だけを妻とし、愛することを誓う」 

 元は政略で結ばれた、ふたりの婚約。 

 しかし今は違うと、カーティスは真摯な瞳で訴えた。 

「・・・・・カーティス」 

 そして、マーシアも、そんなカーティスの手をそっと取り、静かな瞳で見つめる。 

「マーシア」 

 何か、言葉を紡ごうとするマーシアを促すように、安心させるように、その頬に触れようと、カーティスの手がそっと伸びた。 

 それだけで、ぴくりと反応するマーシアに、カーティスは優しく微笑みかける。 

「大丈夫。マーシアが、嫌がることはしない」 

「い、嫌じゃないの。でも、その・・・」 

 頬を紅色に染め、そわそわとあちらこちらを見つつ、マーシアの目は時折カーティスをとらえる。 

「マーシア。君に、口づけても?」 

 その行動に自信を持ち、そう囁くように請うたカーティスに、マーシアがこくりと小さく頷きを返す。 

「大好きだよ、マーシア」 

 馬車のなか、マーシアの前に跪いていたカーティスは、そっと立ち上がり、マーシアの顎に優しく手をかけて・・・・御者が、到着だと扉を叩く音を聞いた。 


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