愚者は要らない ~私の婚約者は、貴方ではありません。夢物語は、そちらで勝手にどうぞ~

夏笆(なつは)

文字の大きさ
20 / 26

二十、中央神殿

しおりを挟む
  

 

 

「マーシア。本当に大丈夫か?」 

「まさか、ここまで来て帰れと?」 

 中央神殿の入口を見つめ、マーシアは苦笑して隣に立つカーティスに言った。 

「未だ間に合うだろう」 

「まさか、私は部外者だから遠慮しろって意味だったりする?」 

 少し意地悪気に片方の眉をあげたマーシアに、カーティスはため息を吐く。 

「そんなこと・・・俺が思ってもいないって分かっていて、そういうこと言うか?」 

「だって。心配してくれるのは有難いけど、ちょっとししつこいかなって」 

 くすりと笑うマーシアに、カーティスは本気で目を瞠った。 

「しつこい・・・。マーシア。しつこいは酷くないか?俺はただ、ファーロウ大公も、マーシアは、不快ですまない気持ちになるだろうと仰っていたから、ただ君を心配して言っただけなのに」 

「でも、私を不快どころではない気持ちにさせる何かが、この世に存在していると知ってしまったのだから。確認したいの」 

「過ぎたる好奇心は、身を亡ぼすぞ?」 

 それはもう好奇心の範疇だろうと言うカーティスに、マーシアは首を傾げる。 

「あれ?知らない?私は、好奇心の塊なの。まあ、これが領や仕事にかかわることだったら、警戒しないでもないけど。今回は、そんな心配微塵もないじゃない」 

 何の損失が出るわけでなしと、マーシアは、あっけらかんと言い切った。 

「はあ。マーシア。君を傷つけたくないという、俺の気持ちも尊重してくれると嬉しい」 

「それは、感謝しているわ。それに、ひとりだったら来ないわよ」 

 言外に『カーティスが一緒だから来た』と言うマーシアに、カーティスはもう一度ため息を吐く。 

「そんな風に言われたら、俺はもうマーシアを止められないじゃないか。まったく。マーシアは、俺を転がすのが上手いな」 

「え。転がしてなんかいないじゃない。人聞きの悪いこと言わないでよ」 

 苦笑して『仕方ないな』と言うカーティスにぎょっとして、マーシアは周りを見た。 

「『え』って。おれこそ『え』なんだけど。なにそれ。無意識?俺、無意識に転がされているの?」 

「もう、本当にやめてよね。『エインズワースの長女は、グローヴァー公爵子息をてのひらで転がしている』なんて噂が立ったらどうするのよ。公爵夫妻の心証が悪くなるじゃない」 

「しかも、気にするの、そこ」 

「カーティス?ちょっと帰って来て」 

 『俺より両親の方が、重きを置かれているのか?いや、でも、その方がいいのか?嫁と舅、姑になるんだから、公爵家としてはいい気もする・・・けどな』と、ぶつぶつ呟き悩むカーティスの顔の前で、マーシアはひらひらと手を振った。 

 

 

 

「本日は、ようこそお訪ねくださいました。グローヴァー公爵子息、エインズワース侯爵令嬢」 

「神殿長。早急な対応、痛み入る」 

 面会の許可を申請してすぐの対面が叶ったことをカーティスが言えば、神殿長は食えない笑みを浮かべた。 

「ファーロウ大公閣下よりのお手紙もございましたし、グローヴァー公爵家、エインズワース侯爵家両家のお二方のお望みなのです。何をおいてもと、お返事させていただきました」 

「ありがとう。これは、心ばかりだが」 

 カーティスが、神殿への寄付を差し出すのに合わせ、マーシアも同じく差し出せば、目に見えて神殿長の表情がにこやかになる。 

「これはこれは。ありがとうございます。おふたりに、神のご加護のあらんことを」 

 そう言って、神殿長は静かに祈りをささげた。 

「それで神殿長。早速なのだが」 

「はい。本日のご要望は、ファーロウ大公閣下より、本日のご用向きは伺っております。真摯に対応するようにとも」 

 そこで押し黙った神殿長が、迷うようにマーシアを見た。 

「神殿長?何か、不都合でもあるか?」 

「もしかして。わたくしが、未だ正式にはグローヴァー公爵家の者ではないことが理由でしょうか」 

 やはりそこに問題があるのかと、困ったように言うマーシアに、神殿長は大きく首を横に振る。 

「いいえ、そうではありません。ただ、こちらの品は、ご本人様たちにとっては真実必要となるものでありますが、ある意味で当人となられる方には、相当不快な品ですので」 

「神殿長。それはつまり、本人たちというのが兄上側であり、ある意味で当人となるのが、エインズワース侯爵令嬢だと言っているのか?」 

「その通りでございます」 

 惑うように言った神殿長にカーティスが問えば、神殿長は、難しい顔でそう頷いた。 

 
~・~・~・~・~・~・
いいね、お気に入り登録、しおり、投票、ありがとうございます。
順位、あがりました。
本当にありがとうございます♪


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

婚約破棄されたのでファンシーショップ始めました。 ― 元婚約者が、お人形さんを側室にしようとして大恥をかきました ―

鷹 綾
恋愛
隣国の王子から「政略的にも個人的にも魅力を感じない」と婚約破棄された、ファンタジア王国第三女王タナー。 泣きも怒りもせず、彼女が考えたのは――「いつか王宮の庇護がなくなっても困らない生き方」だった。 まだ八歳。 それでも先を見据え、タナーは王都の片隅で小さなファンシーショップを開くことを決意する。 並ぶのは、かわいい雑貨。 そして、かわいい魔法の雑貨。 お茶を淹れてくれるクマのぬいぐるみ店員《テイデイ・バトラー》、 冷めないティーカップ、 時間になると小鳥が飛び出すアンティーク時計――。 静かに広がる評判の裏で、 かつての元婚約者は「お人形さんを側室にしようとして」赤っ恥をかくことに。 ざまぁは控えめ、日常はやさしく。 かわいいものに囲まれながら、女王は今日も穏やかにお店を開けています。 --- この文面は ✔ アルファポリス向け文字数 ✔ 女子読者に刺さるワード配置 ✔ ネタバレしすぎない ✔ ほのぼの感キープ を全部満たしています。 次は 👉 タグ案 👉 ランキング用超短縮あらすじ(100字) どちらにしますか?

王子様への置き手紙

あおた卵
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯

殿下、もう何もかも手遅れです

魚谷
恋愛
偉大なる国王が崩御した。 葬儀の場で、王太子アドルフォスは、父王が病床にいるのを良いことに国を思うがままにしようとする、婚約者である公爵令嬢ロザリンデと、その父である宰相を断罪しようと決意する。 全ては自分が次の王に相応しいことを、その場にいる全ての貴族たちに示すため。 アドルフォスは自分の勝利を信じて疑わなかった。 自分には、麗しい子爵令嬢で、数百年に一度生まれる聖女の力に覚醒したエレインという心強い味方がいるのだから。 勝利は揺るぎないはずだった……そう、アドルフォスの頭の中では。 これはひとつの国の終わりの物語。 ★他のサイトにも掲載しております ★13000字程度でサクッとお読み頂けます

私は……何も知らなかった……それだけなのに……

#Daki-Makura
ファンタジー
第2王子が獣人の婚約者へ婚約破棄を叩きつけた。 しかし、彼女の婚約者は、4歳年下の弟だった。 そう。第2王子は……何も知らなかった……知ろうとしなかっただけだった…… ※ゆるい設定です。ゆるく読んでください。 ※AI校正を使わせてもらっています。

婚約破棄されたので、戻らない選択をしました

ふわふわ
恋愛
王太子アルトゥールの婚約者として生きてきた 貴族令嬢ミディア・バイエルン。 だが、偽りの聖女シエナに心を奪われた王太子から、 彼女は一方的に婚約を破棄される。 「戻る場所は、もうありませんわ」 そう告げて向かった先は、 王都から遠く離れたアルツハイム辺境伯領。 権力も、評価も、比較もない土地で、 ミディアは“誰かに選ばれる人生”を静かに手放していく。 指示しない。 介入しない。 評価しない。 それでも、人は動き、街は回り、 日常は確かに続いていく。 一方、王都では―― 彼女を失った王太子と王政が、 少しずつ立ち行かなくなっていき……? 派手な復讐も、涙の和解もない。 あるのは、「戻らない」という選択と、 終わらせない日常だけ。

王太子に愛されないので、隣国王子に拾われました

鍛高譚
恋愛
「王太子妃として、私はただの飾り――それなら、いっそ逃げるわ」 オデット・ド・ブランシュフォール侯爵令嬢は、王太子アルベールの婚約者として育てられた。誰もが羨む立場のはずだったが、彼の心は愛人ミレイユに奪われ、オデットはただの“形式だけの妻”として冷遇される。 「君との結婚はただの義務だ。愛するのはミレイユだけ」 そう嘲笑う王太子と、勝ち誇る愛人。耐え忍ぶことを強いられた日々に、オデットの心は次第に冷え切っていった。だが、ある日――隣国アルヴェールの王子・レオポルドから届いた一通の書簡が、彼女の運命を大きく変える。 「もし君が望むなら、私は君を迎え入れよう」 このまま王太子妃として屈辱に耐え続けるのか。それとも、自らの人生を取り戻すのか。 オデットは決断する。――もう、アルベールの傀儡にはならない。 愛人に嘲笑われた王妃の座などまっぴらごめん! 王宮を飛び出し、隣国で新たな人生を掴み取ったオデットを待っていたのは、誠実な王子の深い愛。 冷遇された令嬢が、理不尽な白い結婚を捨てて“本当の幸せ”を手にする

婚約破棄をしておけば

あんど もあ
ファンタジー
王太子アントワーヌの婚約者のレアリゼは、アントワーヌに嫌われていた。男を立てぬ女らしくないレアリゼが悪い、と皆に思われて孤立無援なレアリゼ。彼女は報われぬままひたすら国のために働いた……と思われていたが実は……。

処理中です...