16 / 92
十六、空に浮くランタン
しおりを挟む「さ、面倒な事は終わりだ。お疲れ様、ジェイミー」
「うう」
カルヴィンにだっこされたまま馬車に乗せてもらったぼくは、漸くお役御免だと、ほっと息を吐いた。
結局、あの後三人でお茶をしたぼく達だけど、その空気は和やかとは程遠いものだった。
『カルヴィン。このマカロンは、特別に取り寄せたものなんだ。是非、食べてみてくれ』
『ジェイミー。はい、ジェイ用のお菓子』
第一王子殿下が笑顔でカルヴィンにマカロンを勧めるのに対し、カルヴィンはそちらを見もせずに、持参のバスケットからぼく用のお菓子とお茶を取り出して、甲斐甲斐しく世話を焼く。
結果、第一王子殿下が、ぼくを睨む。
『カルヴィン!この茶葉も、非常に手に入りにくい物だが、ボクは王子だからな。手に入れることが出来る。カルヴィンのために用意した逸品だ』
『ジェイミー。お茶、熱くないか?』
『う!』
『そうか。ゆっくり飲めよ?・・・ああ。俺のジェイは、本当に可愛いな』
第一王子殿下が、用意したのは希少な茶葉だと熱弁する間も、カルヴィンは、自分の魔法でぼくのお茶の温度の調節をし、ぼくの相手をするのに夢中。
結果、第一王子殿下が歯ぎしりしてぼくを睨む。
うう。
胃が痛くなりそう。
『おい、ちび。特別に椅子を用意してやるから、ひとりで座れ』
『う?』
鋭く顎で示されて、侍従さんが持って来た椅子を見てみれば、それは大人用の椅子で、ぼくはとてもひとりでは座れない。
座面の幅も狭いし、ひじ掛けもないから、背もたれによりかかっても、バランスを崩した瞬間に落下すること間違いなし。
でも、第一王子殿下が用意したものだし、どうしたものかと思っていると、カルヴィンが優しくぼくの頭を撫でた。
『ジェイ。殿下に勧められたからと、気にしなくていい。あの椅子にジェイがひとりで座るのは未だ危険だし、第一、テーブルから顔が出ない。まあ、そんなジェイも可愛いだろうけど』
家ではいつも、当たり前のように子供用の椅子があるから、それが普通みたいに思っていたけど、外では違うと知った、二歳のぼくだった。
結局、終始そんな感じだったものだから、お茶会を終える頃には、ぼくはぐったりと疲れてしまって、カルヴィンのだっこで第一王子殿下の前を辞した。
それも気に入らなかったんだろう。
第一王子殿下は、ずっとぼくを睨み続けていた。
最後まで、ぼくのこと射殺しそうな目をしてたよな。
ぼく一応、未だ二歳の幼児なんだけど。
あの王子様、一体何歳なんだろう。
「ジェイミー。この後は、楽しい時間を過ごそうな」
「うぅ」
いや、カルヴィン。
ぼくは、正直もう眠りたい。
「なんだ。ジェイミーは、おねむか。まあ、父上たちも未だだし、眠っていていいぞ」
「う・・うぅ・・おやしゅみなしゃ」
クロフォード公爵家の馬車は、クッションもふかふかで、おまけにカルヴィンが、自分の方へ優しくもたれさせてくれるのが、凄く気持ちいい。
「むにゅぅ」
ぼくは、カルヴィンにお腹をぽんぽんされ、抵抗する気もなく夢の世界へと旅立った。
「・・・まったく、酷い話ですわ。横恋慕を正当化しようだなんて」
「あれが義兄だなどと。本当にお恥ずかしい限りだ」
・・・・・ん?
あに?
今のって、クロフォード公爵か?
「ジェイ。起きたか?」
「ヴぃ・・?」
「まあ、可愛い。おはよう、ジェイミー」
そう言って、極上の笑顔を見せてくれるのは、クロフォード公爵夫人。
どうやら、ぼくが眠っている間に全員集合していたらしく、父様と母様もぼくを見つめていた。
「あーうえ!」
ちょっと久しぶりの、大好きな母様が居る!
喜びのままきゃっきゃと抱き付けば、しっかりと抱き締め返してくれるのが嬉しく、安心する。
「あの愚王子のせいで、たくさん嫌な思いをさせてしまって、悪かったな、ジェイミー」
「んん!」
クロフォード公爵に言われ、ぼくは慌てて首を横に振った。
「ふふ。あのお馬鹿さんよりずっと立派だったって、カルヴィンに聞いたわ」
「う!?」
いやいや、クロフォード公爵夫人!
それは、カルヴィンの欲目というもので!
「本当ですよ、父上。あれで十四歳だなんて、従弟として恥ずかしいです」
「その気持ちはよくわかる。私も、あれが義兄とは思いたくない」
そう言い合い、カルヴィンとクロフォード公爵が一緒にため息をついている。
よく似た外見をしているふたりがそうしていると、お揃いみたいで面白い。
「ヴぃ・・いっちょ・・かあい!」
「一緒?もしかして、父上とということか?本当にジェイは賢いな」
よしよしと撫でてくれるカルヴィンの肩越しに、外が見える。
ん?
あれ、何だ?
ランタンが浮いているように見えるんだが。
っていうか、馬車動いていたのか。
全然揺れないから、分からなかったぜ。
「ヴぃ・・あえ、なあに?」
知らないことは聞く。
その習性のままに聞けば、カルヴィンがすぐに教えてくれた。
「あれ?・・・ああ、ランタンか。あれは、暗くなったら周りを照らすための物だよ」
「ういてりゅ」
やっぱりランタンか。
で、なんで浮いているんだ?
「ランタンが浮いているのは、浮遊の魔法陣が組み込まれているからだ。魔力を貯めておく装置も入っていて、暗くなると自動で点灯するようになっている」
「ほぇ」
すごいな、それ。
・・・ん?
でも、貯めてある魔力が尽きたらどうするんだ?
その前に補充するんだろうけど、もし忘れたりしたら?
「まりょ・・ないない・・おちりゅ」
「万が一、魔力が枯渇・・なくなった時の対策も、もちろんある。魔力が完全に尽きる前に、地上に降りて来るように作られているんだ」
「ほうぉ」
感心しきりのぼくを膝に抱き上げて、カルヴィンがよりよく見えるように外へ向けてくれた。
本当に、気遣いの出来る男である。
「しゅごい!」
馬車は、活気のある街中を走っていた。
可愛い外観の店が立ち並び、人々が、笑顔で石畳の上を歩いている。
おおおおお。
これが、現世でぼくが生きていく世界か!
初めて見る街並みに感動して、ぼくは、窓に額を当てて見入ってしまう。
「今度、一緒に買い物に来ような」
「う!」
「いえいえ、公子。ジェイミーは、未だ幼いですから。ご迷惑になるかと」
父様が何か言っているけど、ぼくは、気にする余裕なんてなかった。
あの店も、こっちの店も行ってみたい!
一体、何を売っているんだろう!?
ときめきは、街を抜けてもやむことなく、ぼくは、興奮状態のままクロフォード公爵邸へと辿り着いた。
・・・・・え?
クロフォード公爵邸?
~・~・~・~・~・~・
いいね、お気に入り登録、しおり、投票、ありがとうございます。
138
あなたにおすすめの小説
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
事なかれ主義の回廊
由紀菜
BL
大学生の藤咲啓嗣は通学中に事故に遭い、知らない世界で転生する。大貴族の次男ランバート=アルフレイドとして初等部入学前から人生をやり直し、学園で出会う無愛想で大人顔負けの魔法の実力者であるヨアゼルン=フィアラルドと親友になるが、彼に隠された力に翻弄され次々と襲ってくる災難に巻き込まれる。終いには、国家の存続を揺るがす大事件にまで発展することに・・・
龍の寵愛を受けし者達
樹木緑
BL
サンクホルム国の王子のジェイドは、
父王の護衛騎士であるダリルに憧れていたけど、
ある日偶然に自分の護衛にと推す父王に反する声を聞いてしまう。
それ以来ずっと嫌われていると思っていた王子だったが少しずつ打ち解けて
いつかはそれが愛に変わっていることに気付いた。
それと同時に何故父王が最強の自身の護衛を自分につけたのか理解す時が来る。
王家はある者に裏切りにより、
無惨にもその策に敗れてしまう。
剣が苦手でずっと魔法の研究をしていた王子は、
責めて騎士だけは助けようと、
刃にかかる寸前の所でとうの昔に失ったとされる
時戻しの術をかけるが…
記憶を無くしたら家族に愛されました
レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない…
家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…
【土壌改良】スキルで追放された俺、辺境で奇跡の野菜を作ってたら、聖剣の呪いに苦しむ伝説の英雄がやってきて胃袋と心を掴んでしまった
水凪しおん
BL
戦闘にも魔法にも役立たない【土壌改良】スキルを授かった伯爵家三男のフィンは、実家から追放され、痩せ果てた辺境の地へと送られる。しかし、彼は全くめげていなかった。「美味しい野菜が育てばそれでいいや」と、のんびり畑を耕し始める。
そんな彼の作る野菜は、文献にしか存在しない幻の品種だったり、食べた者の体調を回復させたりと、とんでもない奇跡の作物だった。
ある嵐の夜、フィンは一人の男と出会う。彼の名はアッシュ。魔王を倒した伝説の英雄だが、聖剣の呪いに蝕まれ、死を待つ身だった。
フィンの作る野菜スープを口にし、初めて呪いの痛みから解放されたアッシュは、フィンに宣言する。「君の作る野菜が毎日食べたい。……夫もできる」と。
ハズレスキルだと思っていた力は、実は世界を浄化する『創生の力』だった!?
無自覚な追放貴族と、彼に胃袋と心を掴まれた最強の元英雄。二人の甘くて美味しい辺境開拓スローライフが、今、始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる