男しかいない世界に転生したぼくの話

夏笆(なつは)

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十八、投げ捨て禁止

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「ふぇ・・・ぐすっ・・・」 

 結局、ぼくを放り捨てるだけにすることに決めたのだろう。 

 中身のぼくを確認することもなく、荷馬車の音は、すぐに遠くなった。 

 そして、ひとりになって、暫くぐすぐす泣いていたぼくだけど、そうしていても、何も状況は変わらない。 

 

 とにかく、この袋から出ないと。 

  

 幸い、酷い怪我はしていない。 

 ぼくは、ぐいっと涙を拭い、もぞもぞ動いて、袋の口を開こうとしたけど、当然のように紐で縛ってあって中から解くのは難しい。 

「んっしょ・・しょっ!」 

 ならば力づくでと、精いっぱい手で口を押し広げ、未だ紐は解けないまでも、何とか手を外に出した。 

 

 ちっこい手最高! 

 でも短いから、可動域が狭い! 

 

 外から見たら、布の袋から幼児の手がにょっきり生えているという、妖怪もどきのような物体と化している確信を持ちつつ、ぼくは何とか紐を掴み、ひっぱって解く努力を続ける。 

 

 成せばなる! 

 ここを・・こう・・引っ張って・・・っ! 

 

「うぎゃっ!」 

 バランスを崩して転がり、勢い余って肘を打ち付け、紐を引きすぎて、柔らかな手のひらが擦り剝け・・と、なかなかの手傷を負いながら、ぼくは漸く成し遂げた。 

 そう! 

 ぼくは、布の袋との闘いに勝利したのだ! 

「ぷっはああ!」 

 漸く袋の口が開き、布の袋から抜け出したぼくは、まず大きく息を吸った。 

 

 ふあああ。 

 死ぬかと思った。 

 直接殺されなくても、やがての窒息死! 

 もっと残酷だろう。 

 

 ともかく第一関門突破と、辺りを見渡したぼくは、そのまま固まった。 

「・・・・・・もり」 

 取り敢えず、森なのは分かる。 

 というより、それしか分からない。 

 右を見ても左を見ても、周りには木しかない。 

 今ぼくが居る場所は、かろうじて開けてはいるものの、さほど広くはない。 

 

 これって・・・。 

 見つけて、貰えるのか? 

 

 ぼくが居なくなったことに気付けば、父様も母様も、それにカルヴィンだってクロフォード公爵夫妻だって探してくれる自信はある。 

 だけど、この場所って特定できるかは甚だ疑問だと思う。 

 

 コリンが、そう簡単に話すとは思えないんだよな。 

 

 コリンとしては、ほんの数日、黙秘すればいい。 

 その間に、ぼくは勝手に衰弱死するんだから、充分に目的を達成できる。 

 まあ、そんなことさせないけどな! 

 

 見つけてもらうためにも、少し、歩いたほうがいいのか? 

 荷馬車のわだちを辿れば、外ってことだよな。 

 でも、今日はもう動かない方がいいだろうな。 

 

 ぼくの短い足で歩ける距離なんて、高が知れている。 

 やがて夜に向かう時間に動くのは賢明ではないと、ぼくは布の袋の上に座り込んだ。 

「かぁにいに、あーと」 

 そして、ぼくはまずお茶を取り出して、大事にひと口飲んだ。 

 緊張もしたし、泣きもしたし、暴れもしたから喉が渇いていて、とてもおいしい。 

「おいち・・・しゃむ」 

 外はもう日が暮れかけていて、うっすらと寒くなって来た。 

 真冬でなくて、本当に良かったと思う。 

  

 焚火をしたいけど、このちっこさじゃ、無理だな。 

 

 ため息を吐いて、ぼくは座っていた布の袋に、今度は足から潜り込んだ。 

 こうすると、寝袋のように使えて便利がいい。 

 

 よかった。 

 寒さは、これで何とかしのげる。 

 後は、お菓子とお茶で、どれくらい生き延びられるか、だな。 

 

「バゥゥゥ・・バゥゥ」 

「う?」 

 おなか空いたな。 

 本当だったら、今頃クロフォード公爵邸で晩ごはんだったのに、と食べ損ねた晩餐に思いを馳せつつ、星が輝き始めた紺色の空を見ていたら、狼の唸りのような声が聞こえた。 

「ひゃうっ!」 

 そして、周りを見たぼくは、そこに無数の光る何かを見た。 

 

 あ、あれは、もしかして獣の瞳か? 

 つまり、狼の唸りのような、じゃなくて、まんまってことか!? 

 

 一難去ってまた一難とは、正にこのこと。 

 ぼくは、数日後の衰弱死を待たずして、死する危険に晒された。 

 

 どうする? 

 どうしたらいい!? 

 

 ぼくの手元にあるのは、布の袋とお出かけリュックのみ。 

 

 そうだ! 

 光るおもちゃ。 

 あれを、最大光らせれば、火と同じような役目をしてくれるんじゃないか!? 

 父様、母様。 

 カール兄様、クリフ兄様、イアン兄様。 

 そして、カルヴィン。 

 ぼくに力を! 

 

「うっああああああ!」 

 一時しのぎくらいにはなるはずと、ぼくは、ありったけの魔力をおもちゃに注ぎ、ついでに叫んだ。 

「わぅっ・・ぐぅるるう」 

 それが功を奏したのか、おもちゃは、かつてないほどに強い光を放ち、狼たちが怯えたようにその場を去って行く。 

 

 よ、よかった。 

 なんとか、なった。 

 

 文字通り脱力して、地面に転がったぼくは、がさりと、何かが下映えを踏む音を聞いた。 

 そして、そのままぼくへと近づいて来る気配。 

  

 う、嘘だろ!? 

 今の光と叫びで、何か他の獣が・・・いや、待てよ。 

 声と光に反応したなら、人ってことか!? 

 もしかして、助けに来てくれた!? 

 

「ヴぃ!」 

 どうして、その時カルヴィンの名を呼んだのかは分からない。 

 ただ、一番最後まで一緒にいたからなのか、状況的にカルヴィンが来てくれる可能性が高いと思ったのか。 

 ともかくも、これで助かったと思ったぼくは、カンテラを手に現れた人影に、胸を躍らせた。 

 

 ~・~・~・~・~・
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